Hot from PARIS いまパリで起きているコト 世界情勢の影響を受けた、ポストコロナのリアルショー。
Paris 2022.05.11
パリでいま注目の出来事を、パリ支局長の髙田昌枝がリポート。今月は、社会の動きや国際情勢が反映されていた22-23秋冬パリコレクションを考察します。
2月28日から3月8日、パリで開催された2022-23AWウィメンズコレクションは、パンデミックの影響からようやく抜け出し、活気に満ちたものになった。会場を屋外に求めたり人数を制限したりと遠慮がちな空気が残っていた昨シーズンに比べ、今回は会場に熱気が戻り、アイデアを凝らしたリアルなショーが数多く復活した。
若手ブランドで印象に残ったのは、サステイナブルなメッセージをこれまで以上に強く打ち出したマリーン・セル。スタッフが古着を選別してカットし、縫い上げる姿を背景にした展覧会の中でショーを行った。
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また、キャバレー風のダンスショーを行ったクリスチャン ルブタン、邸宅をエロティックでミステリアスなホテルヴィヴィエに仕立てたロジェ ヴィヴィエ、アーティストによるパフォーマンスを見せたジェイエムウエストンなど、シューズブランドの個性あふれるプレゼンテーションも帰ってきた。
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元気だったのは会場内だけではない。ハイブランドのコレクション会場にはセレブが続々と訪れ、場外の熱気もただごとではなかった。入口に柵が設置され、スマホをかざしたファンがお目当てのスターに向かって声を限りに叫ぶ。ショーをひと目見ようとモードフリークが会場前に集まったのは遠い昔。いまやパリコレはフォロワーがアクセスしやすいレッドカーペットのひとつに。ショーは同時にライブ配信もされ、モード業界の枠を超えて広く一般にアピールするイベントになった。
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しかし、ポストコロナの解放感に影を落としたのはロシアのウクライナ侵攻だった。寄付を呼びかけたり、ウクライナカラーを身に着けたりと、さまざまな形で支援の気持ちが表明された。なかでも強烈なメッセージを感じたのは、デムナによるバレンシアガのショー。彼はジョージア出身で、戦争難民となった経験を持つ。ウクライナの詩が朗読され、ピアノが奏でるドヴォルザークの「スラヴ舞曲」でショーが始まると、ガラスの向こうの舞台は大吹雪。大きな袋を抱え、バレンシアガのルックに身を包んだモデルたちが吹きつける雪に抗いながら歩いてくる。そのシルエットは故郷を後にして歩き続ける戦争難民の姿に重なる。しかし、それは決してフィクションではないのだ。
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*「フィガロジャポン」2022年6月号より抜粋
text: Masae Takata(Paris Office)