ウクライナのアート、モード、デザイン。3章仕立てのポップアップ。

パリ在住あるいは海外で活動するウクライナのアーティスト＆クリエイターたちの作品を集めたポップアップ「TRIPOLAR（トリポラー）」の第1章がサンジェルマン大通り169番地にて、5月7日から17日まで開催された。会場は2フロアのこぢんまりとしたスペースだが、ラルフ ローレンの近く、カフェ・フロールからも遠くないという立地がなんとも素晴らしい。ここはいずれシャルロット・シェネのブティックになる予定の場所だという。彼女はこのポップアップのパートナーメンバーのひとりなのだ。M/M Parisもパートナーで、このポップアップのために限定版Tシャツをデザインしていて、その収益はウクライナの人道プロジェクトであるKyiv Angelsに寄付される。

左: 3章仕立てで展開するポップアップTripolar。その第1章GENESISは5月7日から17日まで開催された。第2章は来月。　右: 店内。正面の壁にはOksana Levchenyaの手織りのカーペット。右の壁のペインティングはTymur Postovyiによる。

このトリポラーは3章で展開される。第1章は過去にフォーカスし、第2章は1980～90年代とソビエト連邦時代にフォーカス。そして第3章は未来にフォーカスしてユートピアを……という構成だ。章は月で変わり、5月7日から17日までの第1章ではフォークロア色の強いプレタポルテ、陶器、アート作品などが並んだ。映画監督セルゲイ・パラジャーノフの『キエフのフレスコ画』にインスパイアされた店内のデザインは、天井から子どものベッドが吊り下がっていたり……。上の小さなスペースにはウクライナの古いレースのカーテンがフィッティングルームを隠し、向かいにはプレタポルテが並んでいた。そして、奥の小さな壁でパラジャーノフが1966年に撮影した未完の作品『キエフのフレスコ画』を映写。シュールな物語がコラージュされたようなこの時代らしい前衛作品。15分にも満たない長さだったので、作品を鑑賞する良い機会となった。

左: 銃のバイオレンスの跡を残した女性の身体の彫刻はMaria Kulikovskaの作品（非売品）。　中: パリのギャラリーで展示もされるOlga Sabkoの彫刻。　右: 手仕事を感じさせる作品を多数販売した。photos：Mariko Omura

左: キャンドルはMedovi Svichki。　中: TシャツはM/M Parisのデザインによる限定品。　右: 文化、アート、モード……ウクライナのクリエイションパワーに触れるポップアップ。photos：（左・右）Tripolar、（中）Mariko Omura

上のフロア。左: 古いレースのカーテンの裏、Avoir Agencyが幽霊の出る家のイメージで作り上げた空間。　右: 『キエフのフレスコ画』の上映とプレタポルテの販売。テーブルの上の陶器はGunia Projectによる。photos：（左) Tripolar 、（右）Mariko Omura

なお第1章のオープニングに際し、2区のビストロ「La Bource et la Vie（ラ・ブルス・エ・ラ・ヴィ/12, rue Viviennne）」により、ウクライナで春の到来を告げる鳥（プタシュカ）のパンとハーブティーが店内でサービスされた。このビストロでは現在ウクライナから避難してきた3名が働いていて、4月初旬から“le Borsht et la vie”とラ・ブルスをボルシチに変えてウクライナ料理をサービスしているそうだ。麺にはしないものの、ウクライナの国民は蕎麦の実を食べることが多いというし、ボルシチやキーウ風カツレツといった料理は日本でも知られている。ポップアップで販売されているクリエイターやアーティストの名前は耳にしたことがなく、遠い国に感じるウクライナだけれど、食の面から入るとけっこう身近な国なのかもしれない。

左: Avoir Agency がパラジャーノフの未完の名作『キエフのフレスコ画』にインスパイアされたセットデザインを行った店内。　右: ひばりを象った春を告げる鳥パン。