Hot from PARIS いまパリで起きているコト 女性首相誕生のフランスで、変わりゆくジェンダー観とは?

Paris 2022.07.16

パリでいま注目の出来事を、パリ支局長の髙田昌枝がリポート。フランスで30年ぶりに誕生した女性首相と、新内閣で注目を集める大臣たちの話題から、フランス社会のジェンダー変容を読み解きます。


「この指名を、すべての少女に捧げます。夢に向かって突き進みなさい。私たちの社会において、何ものであろうと、女性の地位のための闘いにブレーキをかけてはなりません」――5月16日夕刻、フランス史上2人目の女性首相エリザベット・ボルヌは、就任早々のスピーチでこう述べた。彼女は61歳、大企業のトップを務めた後に政界に入り、マクロン政権下で大臣を歴任した。子どもの頃に父を亡くし、奨学金を得てエリート校ポリテクニークに学んだ苦労人でもあり、スピーチの言葉には説得力がある。

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エリザベット・ボルヌ ©ZUMA PRESS/amanaimages

フランス初の女性首相エディット・クレッソンが誕生した30年前は、国会で性的なヤジが飛ぶ男性社会だったという。いまや世界中に女性首相や大統領が誕生し、フランスでも、女性候補が3回連続で大統領選の対立候補として決選投票に残った。イル・ド・フランス知事もパリ市長も女性だ。国会議員の女性比は40%に近く、大臣の男女比は10年前から常にほぼ半々。国民の目に性差別が見えやすい政治の場で女性が活躍することは、#MeToo以来の社会の急激な変化とともに、男女格差是正の空気を推進してきたのは間違いないだろう。そんないま、女性首相の誕生は象徴的ではあっても、驚くにはあたらない。ことにボルヌ首相は、「懸案事項に精通し、交渉力と実行力に長ける」と定評があり、注目されるのはその手腕。「女性なのに、女性だから……が問題になる時代は終わった。大事なのは実力」と、パリっ子たちは言う。

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フランス史上2人目の女性首相は、スピーチでクレッソン元首相にも思いを馳せた。だが時代は変わり、パリっ子たちは女性であることより、その手腕に注目。雑誌や新聞の扱いも思いのほか地味。photography: Masae Takata (Paris Office)
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第二次ボルヌ内閣は男女21人で構成。重要ポストの外務大臣には、外交の場で長いキャリアを持つカトリーヌ・コロナが就任。 ©ZUMA PRESS/amanaimages 

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続いて発表された新内閣のメンバーでパリジェンヌの注目を集めたのは、スポークスマンに就任したオリヴィア・グレゴワールと、エコロジー転換・地域結束大臣のアメリー・ドゥ・モンシャランだった。前者は昨年12月に43歳で第一子を出産したばかり。後者は38歳で小学生3人のママン。彼女たちについては、パートナーとの家事・育児分担が関心の的になった。「彼女たちの活躍を支えるパートナーはどんな人?」というわけだ。

その後、6月末の国会選挙の結果を受けて改造された第二次ボルヌ内閣で、グレゴワールは経済大臣付の中小企業担当大臣に異動、選挙に敗れたドゥ・モンシャランは内閣から姿を消すことになったが、今度は国民議会に史上初の女性議長が誕生した。ヤエル・ブローン=ピヴェ議長は52歳、国際的な大企業の幹部を務める夫とともに、5人の子どもを育て上げた大家族のママンとして、彼女もまた話題を呼んでいる。その一方で40代の前農務大臣ジュリアン・ドゥノルマンディ(男性)が、若手政治家として上り調子だったにもかかわらず、「家族との生活にエネルギーを注ぎたい」と表舞台から去ることを選んだ。男性の側にも、固定観念を捨てて「キャリアより家庭」を選ぶ発想が生まれているのだ。性別に関係なく、自由に自分の人生を選ぶ。新世代の政治家たちの生き方は、若いパリジャンを代表しているようだ。

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国民に語りかけるシーンの多いスポークスマンに抜擢された、43歳の新米ママ、オリヴィア・グレゴワール。第二次ボルヌ内閣では、中小企業・商業・観光担当大臣に異動。 ©ZUMA PRESS/amanaimages
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政府が力を入れている環境問題。右はエネルギー転換大臣のアニエス・パニエ=リュナシェ、左がアメリー・ドゥ・モンシャラン。残念ながら彼女は選挙に敗れ、内閣から姿を消した。 ©ISA HARSIN/SIPA/amanaimages

*「フィガロジャポン」2022年8月号より抜粋

text: Masae Takata (Paris Office)

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