夏の太陽が輝く、エクス・アン・プロヴァンスを訪ねて 南仏の暮らし、色彩が遊ぶサフィア ・トマスのアパルトマン。

Paris 2022.08.02

ブランドイメージのストラテジー・アドバイザーとして、フリーランスで活動を開始したサフィア・トマス・ベンダリ。日本ではすでに猫についての彼女の著『Mon Catbook』が出版されているが、近々、彼女が過去にラデュレで手がけたパッケージをはじめとするビジュアルの仕事をまとめた本が出版されるとか。彼女はアール・ド・ヴィーヴルの達人として知られ、その美意識でまとめられたインテリアは常に魅力的だ。

パリのアパルトマンを縮小し、この春から彼女は南仏エクス・アン・プロヴァンスを拠点に2都市を往復する暮らしを送っている。以前は南仏リュベロンの小さな村アンスイに彼女のウィークエンドハウスがあったが、そこを引き払ってエクス・アン・プロヴァンスの旧市街に移動したのだ。夫、2匹の猫、2匹の犬と一緒に暮らすのは画家ポール・セザンヌが1906年に亡くなるまでの晩年を過ごしたアパルトマンで、その上階には彼のアトリエがあったという。

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Safia Thomass(サフィア・トマス)。黄色の壁にブルーのアクセントを利かせた、エクス・アン・プロヴァンスのアパルトマンの階段にて。photo:Mariko Omura

「寝室にはまだシャンデリアがなく、ダイニングルームの暖炉の脇に収納家具を置きたいのだけど、見つけられていないし……と欲しいものはいろいろ。寝室にやっとカーテンがついて、誂えの書棚がドイツから届いたところ。部屋作りには終わりがないのよ」と語るサフィア。かつての小さな村の家はヴァカンスを意識した内装だったのに対し、ここではパリ時代のアパルトマンに比べてリラックス感はあるものの日常生活のためのインテリアだ。まるでサフィアの自宅を実際に訪問しているかのように、多数の写真とともに、夫妻と4匹が暮らす色彩豊かなアパルトマンを紹介しよう。

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アパルトマンの床は南仏の家によく見られるトメットと呼ばれる赤レンガだ。左:キッチンにてハーパーズ(前)といちばんの古株ヴォーグ。 中:リビングルームでポーズをとるのは最後に家族に加わったスー。 右:廊下のカーテンから、サンドが顔をのぞかせる。photos:Mariko Omura

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籐と陶が共鳴する陽気なキッチン

彼らが最も時間を多く過ごすのは、カウンターで仕切られたオープンキッチンのスペースだ。見事な木の梁が渡された高い天井の下、セラミックをはめ込んだ籐のテーブルと籐の椅子が南フランスの陽気でリラックスした雰囲気を漂わせている。食卓でサフィアが座る席の向かい側の壁には、額装した著名人の自筆の手紙のコレクションが飾られ、その隣、棚にヴァロリスの陶器のコレクションが並べられ、またその隣の壁はいくつもの籐フレームの鏡が埋めて……。お気に入りの品々を上手に日常的に楽しむ暮らしがここにある。

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キッチンとカウンターで仕切られた食事のスペース。籐の食卓は中央に陶器の装飾がはめ込まれ、室内のほかの陶器と調和をクリエイトしている。天井のランプはパリのアパルトマンではエントランススペースで使用していたプティット・フリチュールのもの。photo:Mariko Omura

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左:40年代の籐の食器戸棚。その上のタピスリーはジャン・ピカール・ル・ドゥの「Les Poissons」だ。 右:コレット、コクトー、マリー・ローランサンたちの手書きの手紙。photos:Mariko Omura

「ヴァロリスの陶器のコレクションを始めたのは、南仏の村アンスイにウィークエンドハウスを持った時に。私が気に入るヴァロリスは偶然にも底を見るとRPとサインのある、ロベール・ピコのものがほとんど。最初に買ったのは4品。何かをコレクションしようという時、ひとつからというのは良いスタートとはいえません。ピコの陶器はほぼすべてのフォルムが揃ったところです」

以前は白い「Malicorne(マリコルヌ)」の陶器をコレクションしていた彼女だが、ヴァロリスのコレクションをきっかけに手放すことにしたそうだ。「2つも大きなコレクションは持てないし、それにマリコルヌは20年間集めていて少々飽きがきている時だったので」。なおコレクション歴の長いサフィアによると、後に手放す時にも価値が失われないのは作者の署名のあるオブジェだという。

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左:ロベール・ピコの陶器コレクション。左下に見える1点は“テール・メレ”という南仏の陶器のひとつで、コレクションするつもりはないけれど美しい品を入手する機会を逃したくなかったので購入したそうだ。 中:ヴァロリスの陶器は飾って眺めるだけでなく、実際に使用。 右:ブイヤベース用の「Saint-Jean-du-Désert(サン・ジャン・デュ・デゼール)」の古い陶器。魚介類用とスープ用の蓋つきの容器と深皿のセットだ。photos:Mariko Omura

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左:壁はダリの料理本の絵をプリントしたプレート。 中:籐の家具の上を南仏的な明るいオブジェで飾る。 右:さまざまな色のヴァロリスのグラスを日常使いしている。白いビスキュイのオブジェは南フランスの夏の風物詩のセミだ。photos:Mariko Omura

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左:籐の動物たち。中央のひとつはクリニャンクールの蚤の市で見つけたもので、最近その左右に4頭が加わった。天井の梁にはカラフルなモチーフが描かれて、おそらくセザンヌも目にしたに違いない建築当時からのものだ。 中:タピスリーの隣にセラミックの装飾。 右:キッチンの窓からの眺め。夏の日差しを避けて閉じられたグレーグリーンの鎧戸の色は、エクスの市内で統一されている。photos:Mariko Omura

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リビングルームは70年代でまとめて

キッチンとガラリと雰囲気が異なり、リビングルームはモダンな空間である。テレビが置かれ、アペリティフや食後の時間を夫妻が過ごす場所だ。ゲストとともに食後のカフェや談笑を楽しむ場でもある。片側の壁は白、片側の壁は濃いめのサーモンピンクと白のバイカラー。どちらの壁も破線ステッチが描かれ、それをチクチクと目でたどってゆくと天井の赤とグリーンの小さなモチーフの愛らしさに引きつけられる。

アンスイ村の家で使っていた家具の中から、以前は籐の家具とミックスしていた70年代の家具をこのリビングにまとめることにしたそうだ。カラーの壁の中央にジャン・ロワイエのランプが這い、その左右には大きなピエール・オリヴィエによるタピスリーが。キッチンにも別のアーティストのタピスリーが壁に飾られている。それには理由があるのだ。

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カラフルなリビングルーム。中央のランプはジャン・ロワイエの「Liane」だ。壁の左右にピエール・オリヴィエによる60年代のタピスリー。photo:Mariko Omura

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左:念願叶って入手できたウィリー・リッツォのテーブルのブルーとモンドリアンのカーペットが、色彩のシンフォニーを奏でるよう。後方のデスクは70年代のヴィットリオ・パリジの「Orix」。それに赤いイームズの椅子を合わせて。 右:鏡はパリのアパルトマンではエントランススペースに飾られていたもの。その脇のアリの群れがユーモラスだ。photos:Mariko Omura

「壁に絵を飾るというのが好きじゃないの。なぜってピカソやマチスなら毎日眺めたいけれど、その予算は私にはありません。興味の持てない絵やクオリティの低い絵を飾るよりは、こうしたタピスリーのほうがずっといいでしょ。それに70年代、モダンなインテリアにはタピスリーが必ず壁にあって……。おばあちゃんの世代はオービュソンのタピスリーだったけれど、その代わりですね。イメージは70年代のリヴィエラのアパルトマンです」

部屋の中央を占めているのは、最近オークションで念願叶って入手したというウィリー・リッツォのブルーのローテーブルだ。その中央のゴールドの窪みの中で、ジャン・マレーによる彫刻で彼とジャン・コクトーの手が輝いている。

「これは6年間探し求めていたテーブルなのよ。ウイリー・リッツォのメタルのテーブルはたくさんあるけれど、私が欲しいのはブルーでした。ターコイズブルーでも、明るいブルーでも構わない。とにかくブルー! 一度買うチャンスを逃したことがあって、絶望していたんです。我慢強く待った甲斐がありました」

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左:ムラノ・グラスのペンダントライトが色彩を添える天井のモチーフにも注目を。 右:陶器関連の書物を集めた棚。上段には、ヴァロリスのグランジョン・ジョルダンの木を模した陶器が。photos:Mariko Omura

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左:リビングルームで楽しむアペリティフ・タイム。パスティスにキュラソーをミックスしてブルーに。 右:フォルナセッティのサイドテーブルとモンドリアンのカーペット。photos:Mariko Omura

このブルーに呼応するように部屋の一角には少し濃いめのブルーのデスクが。ここはサフィアが自分のコレクションにまつわる情報収集のためのオフィスだという。デスクの後方の壁にはウエッジウッドやヴァロリスなど陶器にまつわる書籍がまとめられ、オークションで探し物をする時の参考としている。またここはゲストのためのオフィスでもあるそうだ。

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パリの洗練が香るダイニングルーム

「え、ダイニングルームがあるの!?と来た人みんなに驚かれるのよ。いまの時代、食事のための部屋を持つ家は少なくなっているので……。確かに我が家のキッチンのテーブルでも食事をとれる余裕があるけれど、私にとってダイニングルームがあることはとっても大切なの。私は美しい食器、グラス、カトラリーなどのコレクションがあり、食事の機会があるとこれらを用います。コレクションの品をコーディネートしてテーブルセッティングを楽しむために、ゲストを招いてディナーを催す、といってもいいくらいなんです」

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インテリアの始まりはウエッジウッドのコレクションから、というダイニングルーム。パリ時代の白とブルーのダイニングルームがそのまま再現されたといった感じだ。photos:Mariko Omura

サフィアが暮らしていたパリのロダン美術館の向かいのアパルトマンのダイニングルームを覚えている人は、エクスのこのアパルトマンのダイニングルームを見るとまるでそっくりなのに驚くことだろう。

「部屋のインテリアを終えてから、そこに飾るオブジェを探すというのが普通ですね。私の場合は逆。オブジェからインテリアが始まるのです。このダイニングルームは私のウエッジウッドのコレクションからスタートしました。このコレクションは手放せません。ウエッジウッドにとって最適のインテリアは、真っ白い空間と真っ白いメダイヨン。自ずとパリのダイニングルームのエスプリをここでもキープすることになるのです」

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棚の前までも埋めつくすサフィアの見事なウエッジウッド・コレクション。photos:Mariko Omura

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白い壁にウエッジウッド・ブルーが映えるダイニングルーム。ウエッジウッドの黒いシリーズはパリのアパルトマンに置いてあるそうだ。photos:Mariko Omura

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左:ある日のランチのテーブルセッティング。食器洗い機に入れられない古いカラー・クリスタルのグラス、装飾が美しいロシアのカトラリー、それにモノプリがポルトガルのアーティストとコラボレーションしたカラフルなテーブルクロスというお気に入りをコーディネートして。 右:ダイニングルームが面しているのは通りと反対側。窓の向こう、いかにも南フランスといった光景が広がる。photos:Mariko Omura

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ブルーのベッドルームに絵画の色彩が踊る

このアパルトマンの家具の多くがアンスイ村で使っていたものだが、寝室のベッドとリビングルームのソファは引っ越しに際してエクスのCaravaneで求めたものだそうだ。寝室もほかの部屋と同様にバイカラーの壁。2タイプのブルーでペイントされている。濃いほうのブルーはウエッジウッドのブルーといっていいだろう。最近、夫がデザインした特注の書棚がベッドの向かいに設置された。書棚は階段的な造りとなっていて、猫のハーパーズは早速その2段目を自分の居場所と決めた様子だとか。

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ブルーでまとめた夫妻のベッドルーム。ジンドリッヒ・ハラバラがデザインした60年代の間仕切りをベッドの両サイドに。photo:Mariko Omura

ゆったりしたベッドの両サイドには木製のヴィンテージの間仕切りが置かれ、左右に小さなスペースが設けられている。左側は小さな籐のデスクが置かれてオフィス的に。ここはサフィアがひとりで集中して仕事をするスペースで、リビングルームのデスクと明快な使い分けがあるのだ。右側の小さなスペースはジュエリーや化粧小物などが集められ、ブードワール的な空間としてまとめられている。こちらも家具は籐素材だ。意外にもこのふたつの小さなスペースの壁には、タピスリーではなく絵画が。

「そう、珍しいでしょ。ふたつの作品は色はそれぞれ異なるけれど、どちらも原色系。寝室の壁、籐の家具にとてもよく似合うので。70年代の作品で以前から持っていたのだけど、ずっとパリに置いてあって……というのも、ここと違って以前のアンスイ村の家はバカンス気分を楽しむ家だったので、この絵画は不向きだったので出番がなかったからなの」

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以前から所有していた2点の絵画にやっと出番が。籐の家具、ブルーの壁によく似合っている。お気に入りの籐のランプとの色彩の調和もサフィアを喜ばせる。photos:Mariko Omura

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寝室は夫妻と動物たちだけが出入りするプライベート空間。photos:Mariko Omura

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ゲストルームの夢心地

夫妻の寝室と同じく2種のブルーの壁。カルテルの有名な整理家具コンポニビリ3をベッドの両サイドに置いている。黄色の家具の上にはブルーのミニランプ、ブルーの上には黄色のミニランプという色遊びが楽しい。高い天井に吊り下げられたぼんぼりのような丸いライト、小さなソファのソフトなピンク色がフェミニンな雰囲気を醸し出している。この部屋に泊まるのは女友だちが多いから、と語るサフィアだ。

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左:クッションはイヴ・サンローラン。 右:ピンクの小さなソファが魅力を添える。photos:Mariko Omura

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左:カルテルのベッドサイド家具とFlosのランプ「Bellhop」。 中:ベッドカバーはその昔嫁入り道具のひとつとして用意されたという手仕事が見事な品だ。 右:外光に恵まれないゲストルームへの廊下には、ヤズブキーの動物たちのオブジェで陽気さをプラス。photos:Mariko Omura

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廊下のインテリアは夫の趣味を尊重して

最近壁を黄色にペイントした廊下。サフィアはスペース丸ごと同じ色に塗るのを好まず、この廊下の黄色も一部だけだ。部屋ごとの壁の色を決めるのはいつも彼女で、「ブリュース(夫)は常に私のアイデアに反対で、最初はブーブー言うの。でも結果を見ると、あ、確かにここにこの色は綺麗でいいね、って」。

インテリアの主導権を握っているのはサフィアであるが、この廊下については夫の好みを尊重したスペースだと語る。たとえば壁にかけた後ろ向きの女性を描いた絵画。これは彼のお気に入りなのだという。

「絵画の下の鋳鉄の小テーブルは私はもう飽きてるのだけど彼が好きなので……。私がドゥルオー競売場で競り下ろした最初の大きな家具で、引っ越すたびにこれもいつも一緒に移動。一度は南仏のリュベロンの家にも持っていって、そしてまたパリに戻って……というように。このテーブルに合うからって鉄柵の仕切りをつけたのも彼よ。廊下は彼のスペースなの」

と言いつつも、籐の波打つ小テーブルには黒い陶器やヴェネツィアングラスといったオブジェを配置して、サフィアらしい空間にしっかりとまとめあげている。

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左:カーテンの裏はコンピューターを置いた夫のミニ書斎。 中:ジャン・マレ作も含めた黒い陶器のコーナー。 右:ヴェネツィアングラスを集めて。photos:Mariko Omura

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左:鋳鉄の小テーブルに合わせて設置した鉄柵の仕切り。 中:長い廊下は犬たちの格好の遊び場だ。 右:ガラス製のオブジェ的フック。帽子、犬のリードなどを掛けている。photos:Mariko Omura

editing: Mariko Omura

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