Hot from PARIS いまパリで起きているコト メゾン マルジェラのリアルショーで、手仕事への回帰を見る。
Paris 2022.09.15
パリでいま注目の出来事を、パリ支局長の髙田昌枝がリポート。今回は、7月に行われたオートクチュールショーで、メゾン マルジェラが魅せた新境地のプレゼンテーションについて。
7月初め、恒例のオートクチュール週間が開催された。カレンダーにランウェイショーのリストが並ぶ中、異彩を放ったのはメゾン マルジェラ。国立シャイヨー劇場でのフィジカルなショーは、モデルが舞台上で演じるシーンをカメラがその場で撮影。映画『Cinema Inferno』として編集、同時上映するパフォーマンスとなった。ストーリーの構想はもちろん、メゾンのクリエイティブ・ディレクター、ジョン・ガリアーノである。
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2年前の7月、ロックダウン中に制作された「アーティザナル」コレクションは、デジタル形式で開催された。この時メゾン マルジェラが行ったのは、ガリアーノとスタッフのリモート対話から、アトリエでの服作り、コレクションフィルム制作の舞台裏も見せた50分強の映像で、観る者を創造の現場へと誘うものだった。昨年7月には、フィジカルなショーが回帰する中、ガリアーノ自らが原案と脚本を手がけた映画『A Folk Horror Tale』を発表。デザイナー自身のビジョンと観念が服となり、映画として語られたプレゼンテーションに、ゲストは拍手喝采を送った。
そして今年。彼の紡ぐ物語は、服作りと映像にとどまらない。コレクションを纏った俳優とモデルが舞台で演じるシーンは複数のカメラによって切り取られ、その映像がライブ編集され、舞台上の大スクリーンで一編の映画になっていく。その舞台裏のすべてが、劇場というフィジカルな空間に開示されている。目の前に繰り広げられるリアルなシーンと、それが解体され、組み直されてできた映像。両者の乖離とその繋がりに、観客は魅了される。それは、既存の服の概念を解体、再構成して、新しいビジョンで現代のオートクチュールを提示するメゾンの姿勢にも通じている。
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ファッションウィークでは、デジタルの波が去り、フィジカルなショーが戻ってきた。一方で、バーチャル世界はこの2年で大きく進化し、ハイブランドも次々と参入。メタバースファッションウィークやNFTコレクションも誕生している。劇場の舞台で映画を手作りしてみせたメゾン マルジェラの「アーティザナル」は、バーチャル社会とは対極の、リアル&フィジカルへのこだわりでもある。
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*「フィガロジャポン」2022年10月号より抜粋
photography: Britt Lloyd for Maison Margiela text: Masae Takata (Paris Office)