ガリエラ美術館で、モードを介してフリーダ・カーロに接近する。

Paris 2022.10.06

左右が繋がり1本になりそうな強い眉毛、髭のように見える鼻の下の濃い産毛、色彩豊かなメキシコの伝統衣装とたっぷりのジュエリー、時に髪に花を飾って……。これが20世紀を代表するメキシコの画家フリーダ・カーロ(1907~54年)の名前に人々が思い浮かべる姿だろう。ガリエラ美術館で「Frida Kahlo, Au-delà des apparences(フリーダ・カーロ、外見を超えて)」展が開催中だ。パリ市立モード美術館であるガリエラ宮で開催されていることから察せられるように、彼女の芸術作品ばかりが並ぶのではなく、服飾表現によってアイデンティティを確立した彼女にフォーカスした展覧会だ。彼女が生まれ育ち、現在フリーダ・カーロ記念館となっている「La Casa Azul(青い家)」から、約200点の彼女の遺品を展示。地下会場の彼女のワードローブの展示の豊かさは圧倒的だ。また、地上階のスペースで展開されている彼女のモードにインスパイアされた現代クリエイターたちの仕事の展示もおもしろい。

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フリーダ・カーロのポートレート写真を壁にめぐらせた会場の中央に、彼女のワードローブを構成していたメキシコの伝統衣装を展示。photos:Laurent Julliand

画家フリーダ・カーロはよく知られているように幼くして患った急性灰白髄炎で右足が不自由なうえ、18歳の時のバス事故で脊椎に大怪我を負い、47歳で亡くなるまでその後遺症に悩まされることになるのだ。事故により、医者になる夢を諦めたフリーダ。回復期をベッドで過ごす期間に天蓋式ベッドに埋め込んだ鏡と折りたたみ式イーゼルを用いて、自画像を描き始める。この事故の4年後に、画家のディエゴ・リベラと彼女は結婚するが、3度の流産があり、夫婦それぞれが浮気をし、1939年に離婚へと。そして翌年、互いの自由を尊重することを条件にふたりは再婚した。身体の痛み、心の痛みと闘いながら創作活動を続けるが、彼女は1954年に47年の生涯を閉じる。

彼女が遺した200点以上の作品には苦痛、苦悩が込められている。自身のその時々の心情を込めた作品には、自画像が多い。満身創痍の鹿の姿に自分の顔を描く、といった作品も。一方、残された多数の彼女の写真の中では常にメキシコの民族衣装を纏い、自信に満ちた美しさをたたえている。まるで早世を予測していたかのように、自分の理想の姿を残したかのようだ。

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ガリエラ美術館の地下に降りると、展覧会のエントランスで彼女の映像に迎えられる。photo:Mariko Omura

展覧会は地下会場から始まる。階段を降り、左手へと。トンネル状の細長いスペースは4つのセクションに分かれ、写真、絵画、手紙などの展示で彼女の生涯をたどる作りだ。セクション1は「私はここに生まれた」。両親を含め、彼女の人生が駆け足で語られる。セクション2はフリーダ・カーロ記念館となった「青い家」。フリーダが1907年に生まれ、1954年に亡くなった家だ。1930年代はメキシコの文化センター的役割を果たしていて、名前の通り、ブルーにペイントされた外観である。彼女は健康状態が優れない時はこの家に戻って過ごすこともあり、メキシコの伝統工芸品などでインテリアを作り上げたそうだ。セクション3は「グリゴランディア」で、これは彼女がアメリカ合衆国につけたあだ名。サンフランシスコ、ニューヨークなど夫に同伴したアメリカで1930~33年まで過ごす間に、デトロイトで流産を経験したこともあり本格的に芸術活動を始める。ひとりの独立したアーティストとしてジュリアン・レヴィ画廊で個展が開催されることになり、1938年にニューヨークを再訪した。最後のセクション4は「パリ」。ニューヨークで出会ったアンドレ・ブルトンの紹介で、1939年1月に彼女はパリに赴く。Renou et Colle画廊が開催のグループ展「メキシコ」で彼女の18作品が展示された。滞在中、彼女はパリの女性シューレアリストたちと交流。フランスがこの年に初めて購入した彼女の作品『The Frame』はポンピドゥー・センターが所蔵している。

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地下会場のトンネル状の展示スペース。セククション1〜4は写真、映像、絵画も展示されているが文字要素が多いので時間をかけて鑑賞を。photos:Laurent Julliand

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彼女の生涯は知っている、あるい作品より彼女のモードにより興味があるというのであれば、先に地下の右手の会場から。まずはセクション5「ハンディキャップと創造性」。会場で目をひくのは、ずらり一列に並ぶ彼女がつけていたコルセットだ。中には彼女自身によるペイントが施されたものも。亡くなる1年前に右足をひざ下から切断した彼女がつけていた赤い義足も展示されている。同じスペース内に、彼女が残した口紅や香水のボトル、あるいは服用薬のパッケージといった小さなオブジェが並び、いくつかのジュエリーの展示によって次のセクション6「作品と装い」へと導かれるのだ。

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セクション5「ハンディキャップと創造性」の部屋。左の壁にコルセットや靴が展示されている。奥のガラスの仕切り棚の上に、化粧品や香水のボトルなどを展示。photos:Laurent Julliand

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左: ペイントを自ら施した石膏のコルセット。 中: 義足。 右: 彼女の靴はポリオで麻痺した右足のヒールが高めのつくりだった。photos:Mariko Omura

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ジュエリーや髪飾りなどに加え、愛用していたレブロンの化粧品、サングラス、バッグなども展示されている。photos:Mariko Omura

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この部屋に足を踏み入れるや、メキシコの民族衣装の展示数に圧倒される。自己表現の手段として、また脚を隠す意味もあり、20歳頃からフリーダが身に着けるようにしていたのはスカートがゆったりとしたボリュームの民族衣装だった。メキシコの異なる地方だったり、自分なりのミックスを楽しんだフリーダの姿をおさめた写真が会場の壁を飾っている。展示されているのはすべて彼女の服であり、ときに絵の具がついていたり、タバコの焼け焦げが残っていたりするけれど、これほどの数の服がよく残されていたものだと驚かさせる。彼女の死後、ディエゴは彼女の遺品をすべてを保管。メキシコは気温の差が激しくないことが服を保存するのに良い条件だったらしい。ディエゴが亡くなった後も服はそのまま保存され、それらが再び日の目を見たのは2004年である。それ以降こうして展覧会などで人々が見ることができるようになったそうだ。メキシコのさまざまな衣装をここで鑑賞。レースやビーズ刺繍やテキスタイルの織りなど、メキシコの見事な手仕事が素晴らしいディテールを作り上げているので、ぜひ一着ずつ近づいて見てみよう。

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フリーダ・カーロはメキシコの異なる地方の衣装をミックスコーディネートしていた。トップはウイピルと呼ばれる貫頭衣であることが多かった。photos:(左)Mariko Omura、(中・右)Laurent Julien

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左: 七分袖のウールのトップにはクロスステッチが、ウールのスカートにはシルクとサテンで刺繍が施されている。 右: ウイピルは機械刺繍もあれば、ビーズをちりばめた手刺繍も。photos:Laurent Julliand

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ウイピルの上に長方形のショールを纏うことが多かったフリーダ。不自由な脚を隠すのに民族衣装のスカートだけでなく、メンズのパンタロンをはくこともあった。photos:Mariko Omura

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地上階が最後の展示となるセクション7「フリーダ・カーロ: コンテンポラリールック」である。ファッションアイコンとしてのフリーダ・カーロのパワーを実感できる展示だ。そのシルエット、その色使い、その刺繍……彼女のスタイルに刺激を受けた現代のクリエイターたちのなんと多いことか。ジャン=ポール・ゴルチエ、山本耀司、ジバンシィ時代のアレクサンダー・マックイーンそしてリカルド・ティッシ、川久保玲、リチャード・クイン……。このセクションはカプセル・エキジビションなので12月31日で終了する。展覧会は来年3月5日までの開催なので余裕がある!とのんびり構えていると、セクション7を見逃すことになるので要注意!

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左: クチュリエのフランク・ソルビエはフリーダのポートレートをプリント。 中: ジャン=ポール・ゴルチエ。 右: ヴァレンティノ。photos:Mariko Omura

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左: リチャード・クイン。 右: アーデムの2020年春夏コレクションより。

『Frida Kahlo au-dela des apparences』展
Palais Galliera/Musée de la mode de Paris
10, avenue Pierre 1er de Serbie
75116 Paris
会期:開催中~2023年3月5日(一部は12月31日まで)
開)10:00~18:00(火、水、金~日) 10:00~21:00(木、金)
休)月
料)15ユーロ
www.palaisgalliera.paris.fr

 

editing: Mariko Omura

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