Hot from PARIS いまパリで起きているコト 仏国会のファッション論争、女性政治家のアティチュードは?
Paris 2022.10.14
パリでいま注目の出来事を、パリ支局長の髙田昌枝がリポート。今回はフランス国会で勃発した議員の服装論争を起点に、女性政治家がファッションで示してきたものを振り返ります。
2022年7月26日、左派連合NUPES(新人民連合環境・社会)の女性議員たちがネクタイ姿で国民議会に登院した。保守系男性議員から「左派の服装がだらしない」との発言があって以来、フランス国会では服装についての応酬が続いた。保守系議員が「議会に出席の際にはネクタイ着用義務を」という意見書を議長に提出すると、NUPESは「一般家庭の購買力低下が問題のいま、議員に数千ユーロもするスーツの着用こそ禁止せよ」と声を上げる。男性のスーツとネクタイに議論が集中する中、彼女たちは「女性の存在をお忘れでは?」とユーモラスな皮肉を込めた行動に出たのだ。
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では女性政治家の服装コードはどうなのだろう? スーツ&ネクタイというフォーマットが存在しないだけに、女性の服装は過去に何度も議論の的になってきた。たとえば12年。当時30代で大臣職にあった緑の党のセシル・デュフロは初閣議にジーンズ姿で登場し、「閣議に対する敬意がない」と批判された。国会の答弁にワンピース姿で登場し、男性議員から口笛と罵声を浴びせられたのも彼女。当時、ウエストを絞ったワンピースは女性性を強調すると見られ、「自分の発言が聞こえないよう、わざとあのワンピースを着たのだろう」と揶揄する男性議員までいた。
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この有名な"デュフロのワンピース"を着て、今年6月、緑の党の新人議員マリー=シャルロット・ガランが初登院した。ポスト#MeTooのいま、10年前のようなあからさまな性差別的反応こそ遠い記憶になったとはいえ、政界に残る性差別を、彼女はシンボリックなワンピースを着ることで訴えたのだ。
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一方、パリ祭の軍事パレードでは、多くの女性大臣が夏らしいワンピースとサンダルを身に着けていた。そんな中でかっちりしたジャケット姿だったのは、エリザベット・ボルヌ首相。ビジネス畑出身で現在61歳の彼女は、ジャケットにパンツか膝丈のタイトスカート、中ヒールのパンプスが定番スタイルだ。それは、男性社会で活躍の場を切り拓いてきた世代にとって、男性と肩を並べ、ある意味で男性になるための制服だった。それに比べて、若い世代の女性政治家のスタイルはずっと自由。女性らしさを否定せずとも活躍できる時代になったということか。彼女たちを見ていると、男性議員のネクタイ論争が、コップの中の嵐に見えてくる。
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*「フィガロジャポン」2022年11月号より抜粋
text: Masae Takata (Paris Office)