3つの歴史的な香りを蘇らせたアスティエ・ド・ヴィラット。

時代を経て、その古さ、その脆さに美しさを見出すアスティエ・ド・ヴィラットのふたり組イヴァン・ペリコリとブノワ・アスティエ・ド・ヴィラット。そんな彼らが調香界の巨匠ドミニク・ロピオン、その彼と20年近くコラボレーションを続けている香史家で人類学者のアニック・ル・ゲレと出会って、壮大な香りの冒険へと旅立ったのだ。そして、今年9月にパリでお披露目され、10月末に販売がスタートしたのが、「Le Dieu Bleu（ル・デュー・ブルー）」「Les Nuits（レ・ニュイ）」「Artaban（アルタバン）」と名付けられた3つの香りである。これらは紀元前に遡るものも含めて過去の香りのフォーミュラの復元という大胆かつユニークな発想の香りだ。ロピオンは成分を探り、その割合も正確に見つけ出し、さらに現代の基準で用いることができない原料についてはそれに代用する素材を見つけるといった作業も要され、香水界の巨匠の力の見せどころとなった。3つの香りは南仏グラースの香水のアトリエで作られ、いずれも100パーセント・ナチュラルな原料を使用している。

パリの発表会場では、それぞれの香りの背景を作り上げて展示された。左から、ル・デュー・ブルー、レ・ニュイ、アルタバン。photos：Mariko Omura

ル・デュー・ブルーは古代エジプトの神の聖なる香りキフィを現代に蘇らせたものだ。神に捧げられたという、なんとも神秘的な香りの起源は紀元前4000年に遡る。香草、樹液、根、樹皮……当時の知恵が見つけ出し、作り上げた香りで、カラフルな古代エジプトの壁画の世界への旅へと誘われるよう。ハニーを感じさせるウッディで温かみのあるエニシダ、ミステリアスで官能的なミルラ……太陽を感じ、うっとりとさせられる。

アルタバンというのは、紀元前3世紀ごろに古代イラン王朝パルティアの王アルタバンのために創香され、その後古代ローマ帝国の富裕層たちの間で愛され流行った香りである。博物学者プリニウスが称えたという遠方から取り寄せられた高貴で高価な24種以上のアロマの調合を、ロピオンは植物の野生的な香りを凝縮して再構築した。ほかの2種に加えて色もかなり濃く、とても個性的な香り。時間の経過で変化を楽しみたい。

レ・ニュイ。花の香り、とりわけダマスクのバラの馥郁たる芳香に陶然とさせられる。これは作家ジョルジュ・サンドが使っていた旅行用の小さな香水ボトルが彼女の子孫のクリスティアンヌ・サンドから託され、その底に残されていた香りが出発点となった。ふんだんなバラにイランイラン、パチュリ、アイリスなどが調合された香りは、官能的で誘惑的。夜を意味するレ・ニュイという命名は彼女と情熱的な愛に生きた作曲家ショパンのふたりが、夜の散歩を好んだことからの連想だという。

オードパルファム。サイズは3つで、65ユーロ（10ml）、155ユーロ（30ml）、265ユーロ（100ml）。上品に輝くゴールドのパッケージ入りだ。photos：Katerina Jebb
※日本での価格は￥13,750（10ml）、￥33,000（30ml）、￥51,700（100ml）  

3つの香りは3サイズのボトルがある。いちばん小さな10mlサイズは3つの香りがゴールドのボックスに収められ、さらにボックスと同じサイズの香水の歴史本がセットされての販売（195ユーロ）。本の中でそれぞれの香りの原料の秘密などが語られている。

アスティエ・ド・ヴィラットの名前に、人はまず白い陶器を思い、次に香りを思うだろう。実は、この本もまたアスティエ・ド・ヴィラットが大事にしている活動のひとつである。消滅しかけていた凸版印刷のアトリエを彼らが買収してから、何年が経っただろうか。パリのガイドほか、いくつかの出版物がこのアトリエからすでに生まれ、最新がこの香水の本『忘れられた香りの驚くべき発見』なのだ。

本とセットの各10mlの3種の香り。こちらもゴールドのボックスに納められている。
※日本での販売価格は￥41,250

左：本とセットで販売される3種入りボックス。　右：いまや失われた技法の印刷が持つ味わいを堪能しつつ、香りの歴史を読む。