フュースリとシッカート、“怖い絵”ファンをパリで待つふたつの展覧会 ジャックマール・アンドレ美術館の『フュースリ』展で悪夢を。

Paris 2022.12.14

“怖い絵”は中野京子の著作によって、絵画のひとつのジャンルとしてすっかり定着した感がある。5年前に上野の森美術館で開催された「怖い絵」展も大好評で、今年の春にはこのテーマで舞台作品も。こんな日本でのブームをパリの美術館が察知したわけではないけれど、目下パリ市内のふたつの美術館が彼女の著作シリーズの中で作品が紹介されている画家の展覧会を開催中だ。彼らの生涯にわたる創作活動に触れられるよい機会である。

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左: 19世紀の個人邸宅内の美術館でフュースリの絵画を見る。 右: 画家の代表作のひとつ『夢魔』。Johann Heinrich Füssli『Le Cauchemar』 photo:Frances Lehman Loeb Art Center, Vassar, Poughkeepsie, NY/Art Resource, NY

身をのけぞらせてベッドで眠る女性の上に悪魔。そして、その脇には牡牛が顔をのぞかせて……1781年に完成され、翌年ロイヤル・アカデミーで発表された『Le cauchemar(夢魔)』。その作者であるJohann Heinrich Füssli(ヨハン・ハインリッヒ・フュースリ/1741-1825年)は、スイスのチューリッヒに生まれた。芸術や文学に興味があった彼だが、父の希望に沿って神学を学び、絵画についてはほぼ独学だという。フランスを2度訪れ、またイタリアに長いこと滞在するが、1780年代に活動のベースとして選んだロンドンで、当時のアカデミックな規則にはまらない独自の美意識に基づいた作品を生み出した。1801~02年にはロイヤル・アカデミーで教鞭をとっている。また、詩人のウィリアム・ブレイクと友情を育み、彼の作品集のために版画の挿絵も担当した。

彼の作品が今回のようにまとまってパリで紹介されるのは、1975年以来だそうだ。この展覧会では約60点の絵画とデッサンを時代順ではなく、7つのテーマに分けて展示。『夢魔』で彼の名前を知り、作品に魅了された人々を興奮させるのは第6会場「悪夢と魔法」だろう。『夢魔』をはじめ、ブラック・ロマンティシズム系作品が10点近く展示されている。夢と幻想の間を揺れ動く美という新しいジャンルを打ち立てた彼の世界が、小さい部屋に凝縮されている。なお会場ではデンマークの画家ニコライ・アビルガードによる『悪夢』(1800年)も展示。

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左: 展覧会の第6室『夢と幻想のはざま』。©︎Culturespaces/Thomas Garnier 右:ヨハン・ハインリッヒ・フュースリの『夢魔』(1810年)は個人所蔵品だ。

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ヨハン・ハインリッヒ・フュースリの2作品。左は『二人の若い女性を残して飛び去る悪魔』Collection Farida et Henri Seydoux,Paris © Droits réservés。右は『ラポニーの魔法使いを訪ねる夜の魔法使い』(1796年)。photo:© The Metropolitan Museum of Art, Dist. RMN-Grand Palais/image of the MMA

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展覧会はイントロダクションに始まり、「シェイクスピア悲劇の」「マクベス」「神話」「聖書と北欧の伝説」「作品の中心を占める女性」と続き、第6室へといたる。そして最後の部屋は「夢、幻影、出現」である。日本人に限らず彼の作品の中に“奇妙”なるものを見つけたいと期待する来場者は少なくないようで、第6室はもちろん、それ以外の部屋でも作品のディテールに熱心にカメラを向ける姿が見受けられるのがおもしろい。確かに、第6室以外でも絵画の隅っこの暗がりに不思議な生物や物体が見いだせたり……というわけで、イントロダクションから興味深い展覧会なのだ。

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イントロダクション。若き日の自画像(1780年)およびGeorge Henry Harlowによる肖像画(1817年)により、フュースリの顔を知ることができる。photos:(左)©︎Culeturespace/Thomas Ganier、(右)Mariko Omura

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左: シェイクスピアが書いた悲劇に魅了され、それを自分の作品に適合したフュースリの作品を展示する第2室。©︎Culeturespace/Thomas Ganier 右: 『真夏の夜の物語」から妖精パック。ヨハン・ハインリッヒ・フュースリ作『Robin Goodfellow, dit Puck』(1787–1790) photo:Jürg Fausch, Schaffhausen

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周辺に描きこまれたディテールの意味を探りたくなるヨハン・ハインリッヒ・フュースリ作『la Reine Mob』(1814年)photos:Mariko Omura

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シェイクスピアの作品『マクベス』に特化した1室のあと、「神話」(左)そして「聖書と北欧の伝説」(右)とテーマは展開する。©︎Culeturespace/Thomas Ganier

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左: ヨハン・ハインリッヒ・フュースリ『Béatrice,Héro et Ursule』(1789年) © Gemäldegalerie Alte Meister, Staatliche Kunstsammlun-gen Dresden,Photo by Elke Estel/Hans-Peter Klut 中・右: そのディテール。photos:Mariko Omura

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左: 第6テーマは女性。通路にデッサンが集められている。 右: ヨハン・ハインリヒ・フュースリ『Mme Füssli debout』(1790–95年頃)。フュースリ夫人のデッサン。彼女の髪に彼はとても興味を抱いていたそうだ。photo : Patrick Goetelen, Genève

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左: 最後の展示室は「夢・幻影・出現」がテーマ。©︎Culeturespace/Thomas Ganie 右: ヨハン・ハインリッヒ・フュースリ『Le songe du berger』(1793年)photo:Tate

『Füssli, entre rêve et fantasque』
会期:開催中〜2023年1月23日
Musée Jacquemart-André
158, boulevard Haussmann
75008 Paris
開)10:00〜18:00(火~日) 10:00〜20:30(月)
無休
料金:16ユーロ
www.musee-jacquemart-andre.com

editing: Mariko Omura

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