シャネルがショーを開催したダカールって?(1) セネガルのダカールとパリを結ぶ、CSAOのオンディーヌの役割。

Paris 2023.05.18

昨年12月6日、セネガルのダカールにある旧司法宮においてシャネルの2022/23年メティエダール コレクションが発表された。そのレプリカショーが東京で6月1日に開催される。ダカールという地名を“パリ・ダカ”の略称で親しまれた車のラリー「パリ ・ダカール・ラリー」に結びつける人は多いだろうが、どんな土地なのかはなかなか想像がつかないのでは?
 

ダカール・イン・パリス!

そのダカールのいまをパリで身近に感じられる方法がある。マレのブティック「CSAO(サオ)」へ行くことだ。 ダカールでのシャネルのショーではゲスト全員に各人のイニシャルが刺繍されたポシェットがプレゼントされたのだが、その製作が託されたのがこのCSAOである。セネガル&西アフリカ会社(Compagnie du Sénégal et de l'Afrique de l'Ouest)の略称がCSAOで、セネガルに伝わる職人仕事を生かした日常生活に色彩を添えるインテリアグッズや小物類がブティックにあふれている。CSAOでアーティスティック・ディレクションを担当しているのはオンディーヌ・サグリオ。1995年に母ヴァレリー・シュランヴェルジェが始めたCSAOで商品開発に携わり、2014年からは彼女がひとりで事業を担っている。ブティックで販売されるさまざまな商品中、とりわけのヒットは2015年から始めた刺繍を施したクッションとバッグだろう。この成功ゆえ、オンディーヌのパリ・ダカール往復は数を増している。

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ポジティブ・メッセージの刺繍を施したクッションやバッグ。リバティ、ワックス、バンダナなど素材は広がり続けている。photos:CSAO

「最近ではブティックが扱うのはほとんどがセネガルの品です。母がCSAOを創った当初は、社名に西アフリカとうたっているようにマリ、ブルキナファソ、モーリタニアといった土地に出向いて商品を探していました。でも紛争や政情不安やらで危険になったので、セネガルで多くを開発するようになりました。ほかの国と違ってセネガルは安定した国で安全。だからシャネルは豊かなサヴォワーフェールの土地ということに加えて、安全でもあるのでセネガルでショーが開催できたのですね」

オンディーヌはセネガルで生まれ、7歳まで暮らした。彼女の母ヴァレリーは民俗学者と結婚をし、16歳の時にセネガルに暮らすようになったという。ヴァレリーはこの地で刺繍、染色、織物、陶器の職人たちやブリキ工たちと出会い、これが1995年のCSAOのオープンへと繋がるのだ。これと並行して彼女は「西アフリカとセネガルのための協会(ASAO)」を開設。ダカールのメディナに「L'Empire des enfants(ランピール・デ・ザンファン)」を設けて、家のない子どもたちに屋根を提供していた。現在ランピール・デ・ザンファンは行政が管理するようになったが、当時その経営に役立たせたのがCSAOで販売しているブレスレット「JOKKO」の売り上げだったという。これはリサイクル・プラスチックを素材にマリの協会が作っている品で、いまもブティックで見つけられる。ダカールには1978年にユネスコの世界遺産に登録されたゴレ島があり、6年前、この島に母娘は「Keur Khadija(子どもの家)」を設立。ヴァレリーが中心となって、ボランティアたちの助けを借りて恵まれない子どもたちの教育支援に務めているそうだ。

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左: 2018年、ダカールのKeur Khadijaを訪問したブリジット・マクロンを囲むオンディーヌ・サグリオ(左)とヴァレリー・シュランベルジェ。 右: ブレスレットの「JOKKO」。10個、20個と重ねづけして遊ぶ。photos:CSAO

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世界遺産ゴレ島にも刺繍のアトリエ。

オンディーヌがCSAOを母から引き継いだのは、2014年にヴァレリーがASAOで人道支援活動に専念することになった時だ。セネガルの豊かな職人仕事の中で、オンディーヌが目をつけたのは刺繍である。その昔女性たちは学校で刺繍を習い、そのサヴォワールフェールはおおいに活用されていたという歴史があるものの、時代は変わり……オンディーヌはその刺繍を別の形でセネガルに蘇らせることにしたのである。

「セネガルの伝統的な刺繍は抽象的なモチーフで、テキスタイルなどに小さく施されています。いまCSAOのブティックで販売しているクッションやバッグに施されてるのは、それとはまったく異なる刺繍。私はセネガルの女性たちに、まず刺繍の技術を教えることから始めたんですよ」

セネガルの郊外に当時夫の暴力から逃れてきた女性たちや孤児を受け入れるメゾン・ローズという施設があり、オンディーヌは刺繍のアトリエをここでスタートした。その後このアトリエは、メディナのかつて「L'Empire des Enfants」があった場所に郊外から移動したそうだ。その間に、ゴレ島にも小さなアトリエをオンディーヌは開設。ここでは島に暮らす女性たちが働いている。

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ダカールの刺繍のアトリエで働く女性たち。各人の技量に合わせてオンディーヌは仕事を配分する。photos:CSAO

「刺繍のアトリエは最初は生活苦の女性たちを対象にしていました。仕事を持って苦境から脱したいという女性たちですが、最近はいろいろで、暮らしに問題を抱えている女性もいれば、働きたい!という意欲を持った女性たちもいます。刺繍を習い終えると、彼女たちはアトリエで仕事をすることになります」

彼女たちがクッションやバッグに刺すのは、オンディーヌのデザインによるオリジナルのメッセージ・エンブロイダリー。イニシャルやポジティブな言葉に花が添えられた愛らしい刺繍なので、いまやコピー商品もあちこちに出回っているほどだ。

「最初は腹立たしかったけれど、それらは機械刺繍なので美しさの点でCSAOにはまったく敵わない。だから気にならなくなったわ。アトリエを最初に始めた時は3人だったのが、いま150名くらいの女性たちが働いています。でもセネガルは男性の意識がまだ“マッチョ”。夫によって家事に縛りつけられたり、妊娠して家に留まるようになったりで、人手確保がなかなか大変なのよ」

CSAOのバッグやクッションはマレのブティックだけでなく、日本のセレクトショップでも扱いがあるように海外からの買い付けもある商品である。そして最近はイタリアの靴ブランドCapuletteとのコラボレーションも順調な上、パリジェンヌに圧倒的人気を誇るブランドからはプレタポルテに刺繍といった依頼もあり、徐々に大規模なコラボレーションが増えているので、フルタイムで働く女性が必要。オンディーヌの苦労はなかなか絶えない様子だ。

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ガラスにハンドペインティング。

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左: ガラスの裏からペインティングされたお皿。食卓に愛と華やぎを! 中: 同じテクニックによるミニ壁掛けは19ユーロ。 右: ハンドペイントのグラス。1個25ユーロ。photos:(左・中)Csao、(右)Mariko Omura

CSAOのもうひとつのヒット商品はLOVE、Je t'aime、AMOUR などクッション同様にポジティブなメッセージが手描きされたカラフルなガラス皿だ。ガラスの裏側から絵を描くセネガルに昔から伝わるスウェール(フランス語だとスー・ヴェール)のテクニックが活用されたCSAOのオリジナルである。

「ひとつの絵は3層くらいからなっていて、乾かすのもとても時間がかかるの。この技術は1700年頃からイエメンで生まれたもので、セネガルにも多くのアトリエがあります。もともと肖像画が主な仕事なのだけど、私は鳥や花などオリジナルモチーフをデッサンして、ふたつのアトリエにオーダーしています」

ダカール市内にはスンベディウムといって職人仕事を集めて販売する村がある。柳・籐細工、テキスタイル、植物染色などセネガルの伝統工芸から生まれる品がここで集められているのだが、「ここにひとつセネガルの問題があるの。みんながコピーし合うので、売られているのはどの店も同じ品ばかりなんです。残念ですね。刺繍にしてもガラスペインティングにしてもCSAOが扱うのはセネガル産でも、90パーセントがオリジナルなので、セネガルでは見つけられません」

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セネガル産のカラフルな品であふれるブティック。刺繍のクッションは同じ人が複数購入することもあり、人気商品である。オーダーも可能。子どもの名前や好みの言葉を刺繍してもらえる。布のチョイスも豊富。photos:Mariko Omura

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左: 最近加わったコンピューターケース(下)。もうじきポシェットのように刺繍バージョンも登場予定だ。 中: ハンドペイントされたブリキのトランクも商品。 右: リサイクルプラスチックでカバーされたボトル、セネガルの国旗色のパッケージの石鹸など雑貨類も販売している。photos:Mariko Omura

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左: 地下はアフリカン・マーケットというイメージ。釣り糸を使用した椅子や、祈祷用のカラフルなゴザを一般使用向けサイズで製作したゴザなどを販売している。 中: セネガルでよく見かけるワックス布で赤子を背負った女性をかぎ針編みで人形に。 右: ブティックの隣はナイジェリアで製作されるビーズの肘掛け椅子の店。ナイジェリアの少数の職人が守る技術による製作なので、将来が心配だとオンディーヌはプロモートに務めている。photos:Mariko Omura

Csao
9, rue Elzevir
75003 Paris
www.csao.fr
@ondine_csao

editing: Mariko Omura

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