シャネルle19Mのギャラリーで、パリとダカールを結ぶ職人仕事の展覧会。
Paris 2023.06.27
昨年12月にセネガル・ダカールの旧司法宮で発表され、東京で6月1日にレプリカショーが開催されたシャネルの2022/23年メティエダール コレクション。セネガルの文化とサヴォワールフェールに触発されたアーティスティック ディレクターのヴィルジニー・ヴィアールが、1970年代のエネルギーからインスピレーションを得たモチーフと色を組み合わせた美しくパワフルなコレクションである。この実現の裏には、パリ19区のle19M(ル・ディズヌフ・エム)に本拠地を置くメゾンダールの職人たちとヴィルジニーとのクリエイティブな対話があった。
そのle19Mのギャラリーで『On the Thread: From Dakar to Paris』展が7月30日まで開催されている。直訳すれば、“糸にのせて:ダカールからパリへ”、という意味。これはダカールのテオドール・モノ・アフリカ美術博物館を会場に1月12日から3月31日までle19Mの期間限定ギャラリーが開催したエキジビションのパリバージョンだ。セネガル人をメインに約30名のアーティスト・アルチザンによる60近い作品を鑑賞できる。伝統的なサヴォワールフェールを用いたコンテンポラリーなクリエイションによる、21世紀のアーツ&クラフツを楽しもう。
左: ギャルリー19Mで開催中の『Sur le fil: de Dakar à Paris』展。 右: 展示作品のひとつ。デニムやバザンの端布と釣り糸によるManel Ndoyeによるパネル『Femmes dévouées』(2022年)。photos:(左)Elea Jeanne Schmitter、(右)Badara Preira
ランチもとれるカフェを一角に備えた広いエントランススペースで、パリとダカール、アーティストとアルチザンというふたつを結びつける展覧会のアイデアを象徴する2作品に目を向けよう。ひとつ目は、セネガルに1960年代に生まれた織物のマニュファクチャーに注文したタペストリー。ダカールとパリの展覧会開催のふたつの建物が織り込まれているので、近づいて鑑賞を。もうひとつはホールの左手に設置された驚くほど長い機織り機。これは2機を向かい合わせに繋げたもので、縦糸で繋がっている。両端にふたりの織り手が座り、相手が製作しているものを知らずにふたりは織ってゆき、ひとつの作品が完成するというテキスタイルパフォーマンスが展開されるのだ。
エントランスホールのタペストリー。セネガル独立後初の大統領サンゴールはさまざまな文化活動の拠点を設立した。ダカールから1時間くらいの場所にあるティエスに1966年に完成した「Manufacture des Arts Décoratifs」もそのひとつ。最初はフランスのゴブランやオービュッソンのアトリエで技術を学んだ職人がタペストリー製作に勤しみ、活動はいまも続いている。展示2点はダカールの展覧会期間中に仕上がり、最後の1週間展示されたそうだ。左がダカールで『Sur le fil: broderie et tissage』展が開催された建物、右がle19M。photo:Mariko Omura
縦糸で繋がった2台の長い機織り機で、Johanna BrambleとFatim Soumaréによるテキスタイルパフォーマンス。使われるビオのコットン糸は、アフリカで雨水だけで育てられたコットンだ。photos:Mariko Omura
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エントランスホールで楽しんだら、いよいよ会場へと。空間を仕切るカーテン。これはle19Mに本拠地を置くモンテックスのアーティスティック・ディレクターであるアスカ・ヤマシタとダカールの文化施設Kër Thiossaneによるもので、ダカールのリサイクルデニムとストリートで拾い集めたプラスチックをミラー状に加工して……と素材も制作も100%ダカールのカーテンだ。
地上階の会場の中央には、Selly Raby Kaneが手がけたファブリック製のバオバブの大木! それを囲むのは、木材を彫って作り上げるセネガルでおなじみのフォルムスツールを、リサイクルプラスチックを用いて製造したスツール“Yoyo”だ。その木の下には、ふたつの長いテーブルが。ここで来場者が参加して、文化施設が描かれたダカールの刺繍地図を会期中に仕上げるという趣向である。
デニムとリサイクルデニムのパッチワークによるバオバブの大木が中央を占めるギャルリー内。photo:Mariko Omura
地図を描いたバンジャマン・モントゥイユとle19Mのルマリエ、モンテックス、パロマのコラボレーション。来場者も刺繍に参加して、地図を仕上げる。photos:Mariko Omura
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会場内の刺繍とテキスタイルをテーマにした展示作品は日本はおろか、フランスでもあまり紹介される機会のないアーティストたちのものなので発見ばかり。たとえばバマコ出身のAlassane Konéの草木染めの糸で刺した肖像画、端切れを用いたAlioune Dioufの刺繍をした布貼りのポートレート、Mbalii Dhlaminiによるインディゴ染めのデッサン、フランス人アーティストのJulian Faradeが布に描き上げた色とフォルムのカオスの上に施されたセネガルの伝統的モチーフの刺繍……エントランスホールでテキスタイル・パフォーマンスをするひとりであるFatima Soumaréが1700時間をかけたというビオのコットンの『L’Oiseau semeur』も素晴らしい。ここに全ては紹介できないけれど、どれも近づいてつぶさに見たくなる作品ばかり。現代の創造性と結びつき、セネガルの持つ豊かなサヴォワールフェールの未来が見えてくる展覧会。パリの外れにあるle19Mだけれど、セネガルに行くよりは近い。この展覧会へぜひ。
Alassane Konéによるポエジー漂う刺繍のタブロー。街中で撮影した人物の写真が創作のインスピレーション源だそうだ。アーティスト自身が植物で染めたソフトな色合いの糸を主に用いている。photo:Mariko Omura
左: Aliioune Dioufによる『La Saint-Louisienne 』の一部。 中: Julian Faradeがペイントした布にセネガルの刺繍が施されている。 右: Fatim Soumaréによるコットンの『タネを蒔く鳥』が見事だ。photos:Mariko Omura
左: Marie-Madeleine Dioufによるインディゴをテーマにしたインスタレーション。 右: 南アフリカ出身のアーティストMbalii Dhlaminiによるインディゴ染めのデッサン。photos:Mariko Omura
会期:開催中〜2023年7月30日
La Galerie du 19M
2, place Skanderbeg
75019 Pars
開)11:00~18:00(水〜金) 11:00〜19:00(土、日)
休)月、火
www.le19m.com
@le19M
editing: Mariko Omura