<オペラ・ガルニエでオートクチュール・ショー その2> ガルニエの舞台の上で、トム ブラウンが初のクチュールを発表。
Paris 2023.07.21
創業20周年、アメリカ人として初のサンディカゲストのクチュリエとしてトム ブラウンはオペラ・ガルニエで初のオートクチュールコレクションを発表した。招待客は正面玄関ではなく裏口から劇場へと。招待客席とランウェイが用意されたのは、なんとガルニエ宮の有名な5%の傾斜のあるステージ上! もっともショーが始まるまで客席はカーテンで仕切られているので、ステージ上かどうかは傾斜の存在から察するだけのことだったが。
グレーでまとめられたランウェイには、駅舎に見らるような釣鐘型のランプが天井からぶら下がり、鳩の姿があちこち……ショーへ好奇心を早くもかき立てる演出だ。トムは招待客たちにもグレーを纏ってくるようにと事前にリクエストしたように、彼のブランドになじみの色がコレクションのライトモチーフである。幕が上がり、目に飛び込んできたのは……オペラ座の観客席で、天井桟敷までびっしりと2000名のフェイク観客が埋めている。彼らの装いはグレーのトム ブラウンの制服。さあ、サプライズとファンタジーに満ちたショーの開幕だ。
グレーでまとめられた会場は、ニューヨークの駅のイメージであちこちに鳩が。photos:Mariko Omura
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駅をイメージさせるランウェイでグレーのコート、ジャケット、キルト、パンツを纏ったモデルのアレック・ウェック演じる旅行者が何かを待つかのように寂しげにトランクの上に腰をかけ、その左右をさまざまなグレーのシルエットが来ては去り、という趣向である。こうしてクラシックなアメリカンスポーツウエアの要素をクチュールのレンズを通して昇華したルックが、メンズ含めて次々と登場した。シアサッカー、ウール、ツイード……約50ルックの素材はさまざまだが色はグレーというコレクションである。特徴的なシルエットは紡錘形の袖と一体化されたコートで、それを纏ったルックは遠目には全身がトロンプロイユのように見えてしまう。その頭上には、天井の鐘に呼応するような帽子クロシェ。足元は駅のベルを想起させる鐘がかかとにセットされ、モデルの歩みにあわせてリンリンと音を鳴らしていた。
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小物が凝っているだけでなく、ビーズ、スパンコールなどをあしらったディテールへの力の入れ方も驚くほどだ。さすがオートクチュールである。亀、タコ、ヒトデといった水の生き物、甲殻類、ロープや灯台などモチーフはどれも海をイメージさせる。マリエのトレーンをもつ男性ブライドメイドも水泳帽にゴーグル……。最後にトム・ブラウンが登場するまでの30分間、シュールなファンタジーがパリ・オペラ座の舞台で展開されたのだ。
汽車や動物の頭など、スティーブン・ジョーンズによる帽子がシュールなファンタジーを盛り上げた。photo:Mariko Omura
トム ブラウンの初のオートクチュールコレクション。オートクチュールならではのサヴォワールフェールとスポーツウエアの出会いに、ディテールの遊びが効いていた。photos:Mariko Omura
www.thombrowne.com/jp
editing: Mariko Omura