同性婚合法化から10年、フランスのLGBTQ+のいま。
Paris 2023.08.17
パリでいま注目の出来事を、パリ支局長の髙田昌枝がリポート。
今年5月、さまざまなメディアに「あれから10年!」という言葉があふれた。フランスで同性婚を認める法律が施行されたのは、2013年5月17日。以来、約7万組の同性婚が成立し、いまや後戻りは想像もできないが、当時はこの法律を巡って世論は真っ二つに分かれていた。賛成派“Mariage pour tous(みんなに結婚を)”に対し、反対派“La manif pour tous(みんなのデモ)”は、大規模な反対運動を展開。結婚には養子を迎える権利も付随するだけに、家族制度の崩壊を恐れる保守派は「子どもにはパパとママが必要」という主張を繰り広げた。当時の統計に、同性婚を認める人は60%、同性カップルが養子を迎える権利に賛成の人は46%、という数字が残っている。
---fadeinpager---
同性カップルの法的権利に扉を開いたのは、1999年のPACS法だった。異性同性を問わず、結婚とは違う形の法的カップルを誕生させたPACSだが、養子を迎える権利は独身者と既婚カップルだけのものだった。2013年の同性婚法施行で同性カップルでも、昨年の法改正でPACSと事実婚でも養子を迎えることが可能になり、21年には、既婚女性だけを対象としていた人工授精の権利が全女性に開かれて、ようやくすべての人に家族を築くための法的環境が一応整備された。とはいえ、ホモフォビア犯罪の件数は減らず、性的マイノリティへの差別が後を絶たないのも事実だ。
---fadeinpager---
今年、LGBTQ+プライド月間である6月にイプソス社が世界30カ国で行った調査結果が話題を呼んだ。フランスで「自分をLGBT+だ」と答えた人の割合は10%、ただし1997年以降生まれのZ世代では22%に上るという。ジェンダーやセクシュアリティに向き合い始めるティーンエイジャーたちは、パンセクシュアルやアセクシュアル、ノンバイナリーといった言葉に抵抗がない。それは彼らが、物心ついた時から、伝統とは違うカップル像や、恋愛性愛のあり方に接してきた世代だからなのかもしれない。現在、パリのポンピドゥー・センターで、アートがいかに性のマイノリティを表現し、バックアップしてきたかを語る展覧会が開催中だ。自由・平等・博愛を価値観として掲げるフランスにとって、性的マイノリティの権利向上は社会正義の前進。PACSと同性婚法で育ったZ世代が、さらにその歩みを進めていく。
*「フィガロジャポン」2023年9月号より抜粋
text: Masae Takata (Paris Office)