新エトワールと芸術監督がもたらす、パリ・オペラ座の新しい風 エトワールとして、新しい冒険へ大きく羽ばたくオニール八菜。
Paris 2023.09.06
昨年12月に就任したジョゼ・マルティネス芸術監督が、早々と3名のエトワールを任命。若手の登用も積極的に行う監督のもと、フレッシュな活気が漲り、オペラ座に新黄金時代の到来の予感が。
©James Bort/Opéra national de Paris
東京に生まれ、3歳でバレエを習い始める。2001年ニュージーランドに引っ越し、オーストラリア・バレエ学校に学ぶ。09年、ローザンヌ国際バレエコンクールで優勝。契約団員を2年務めた後、13年パリ・オペラ座バレエ団に正式入団する。14年コリフェ、15年スジェ、16年プルミエール・ダンスーズに昇級。23年3月2日、公演「ジョージ・バランシン」で『バレエ・アンペリアル』を踊りエトワールに任命された。
「来シーズンは希望した作品が全部踊れると知って、すごくビックリ。それまでは毎シーズン、踊りたい作品がひとつ踊れれば満足、という感じだったので……」
オニール八菜は3月2日にオペラ座のピラミッドの頂点に達したことを、こうして徐々に実感しているようだ。任命直後、「配役表に最初から自分の名前があるのを見るのが、これからのいちばんの楽しみ」と語っていた彼女である。どれほど大きな驚きだったか想像に難くない。着任前に『マイヤリング』の彼女を見て、なぜまだエトワールではないのだろうかと思い、着任後『白鳥の湖』のパ・ド・トロワで登場した彼女に特別な光を見いだしたというジョゼ・マルティネス芸術監督。彼が任命した初のエトワールが彼女である。
突然、代役で踊ることになったジョージ・バランシンの『バレエ・アンペリアル』で3月2日、念願のエトワールに。たった2日の稽古への取り組み方も芸術監督には任命の判断材料となったのだ。©Agathe Poupeney/Opéra national de Paris
「その瞬間は頭の中が真っ白! 何年も何年も待っていた夢だったので、信じられませんでした。努力を続けていれば任命はありえる、と団員たちへのメッセージとなったらうれしいですね。オペラ座で12年を過ごし、残り12年。これからが楽しみです。いいタイミングで任命されたと思っています」
入団後、順調にプルミエール・ダンスーズまで上がったが、それからが7年と長かった。ステージ数は多くても踊りたい作品ばかりではなく、また後輩たちが上がっていくのを見て、もう自分はだめなのかと絶望することもあったそうだ。大変だった時代もいまや昔。
「エトワールになってもプレッシャーは感じません。責任を持って踊ってゆきますが、それが重いという感じはないですね。いつ任命されてもエトワールとしての踊りを見せられることを目指して準備してきたせいでしょうか。ここ2~3年、踊りへの欲が増し、また人間的成熟の大切さを感じているんです。経験を深め、それを踊りに反映すること。舞台で踊るのも好きだけど、スタジオでの稽古の時間もあれこれ考え、大事に使って楽しんでいます」
そんな彼女に対する芸術監督の信頼は厚い。次々と新しいチャレンジを彼女に用意しているようで、たとえば5月にマチアス・エイマンが『ボレロ』で復帰した話題があったが、彼の公演予定日の代役に彼女を選んだのだ。彼女は踊らずじまいとなったが、「リハーサルでは周囲には男の子たちもいて……。あのテーブルはただの赤いテーブルではないと感動しましたね。上に立った瞬間、絶対に次は本番で踊りたい!って思いました」
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公私ともに仲良しのジェルマン・ルーヴェと『ダンテ・プロジェクト』のリハーサル。©Benoîte Fanton/Opéra national de Paris
同時任命されたマルク・モローからのお祝いで、ふたりはローラン・ギャロスでテニスを観戦し、彼女からはサロンでふたり一緒のフェイシャルケアをプレゼント。ギヨームも含めて仲良しエトワールなのだ。「年齢の違う3人でこれからオペラ座を一緒に支えてゆくのだと感じています」
ジョゼは外部でのガラや海外のステージへの参加なども彼女に奨励。文字どおり、世界が大きく開かれてゆくのを彼女は感じているそうだ。来シーズン、9月21日のガラにエトワールとして初のデフィレがある。「エトワールのひとり目で出て、あの長い距離をたったひとりで歩くって……緊張しそう!」
真新しいシャネルのチュチュとディアデムを身に着けて歩くゴージャスな彼女に、大きく温かな拍手が送られることだろう。
*「フィガロジャポン」2023年9月号より抜粋
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editing: Mariko Omura