新エトワールと芸術監督がもたらす、パリ・オペラ座の新しい風 ギヨーム・ディオップ、 謙虚でロマンティストな若きエトワール。

Paris 2023.09.07

昨年12月に就任したジョゼ・マルティネス芸術監督が、早々と3名のエトワールを任命。若手の登用も積極的に行う監督のもと、フレッシュな活気が漲り、オペラ座に新黄金時代の到来の予感が。


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©James Bort/Opéra national de Paris

ギヨーム・ディオップ|Guillaume Diop
パリ生まれ。コンセルヴァトワールを経て、2012年からパリ・オペラ座バレエ学校で学ぶ。18年に入団。21年、将来有望なダンサーに授けられるカルポー賞とAROP賞を受賞する。22年コリフェ、23年スジェに昇級。3月11日、けがで降板したユーゴ・マルシャンに代わって参加した韓国ソウルでのツアー中、LGアーツセンターにて『ジゼル』のアルブレヒト役を踊り、プルミエ・ダンスールを飛び級してエトワールに任命された。

 

「任命の瞬間、自分の仕事が認められたことに、思っていた以上に感動があって……あれほど泣いてしまうなんて思いもしなかった」

3月11日をこう振り返るギヨーム・ディオップ。その涙は安堵からで、「主役を踊れる機会があってもまだスジェなのだから、何かあったらある日突然それが終わってしまうこともあるんだと思っていたから」と。

大きなリスクを背負い彼をプッシュしていたのはオーレリー・デュポン前芸術監督だったので、彼女以外の監督から任命されたことによってオペラ座のダンサーとしての正当性が得られたと強く感じられた、と語る彼。任命以前、カンパニーにとって歓迎すべき素晴らしいジョゼの就任でも、自分にはどうなのだろうと実はひとり不安を抱えていたそうだ。

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『ジゼル』でアルブレヒトを踊り任命されたギヨーム。出発前、ジョゼは彼のリハーサルコーチを務め、与えられた芸術的指摘をすぐに反映できるキャパシティ、成熟度を確認したという。

フランス人の母とセネガル人の父を持つ彼。ふたつの国のおかげで文化的にも豊かになれると語り、この長い脚は父のおかげ!と笑う。父からは褐色の肌も受け継いでいて、バレエ学校時代は、ダンス界での自分の未来にそれが不安や疑問を呈することとなった。

「オペラ座の学校時代、以前からのダンス教師の勧めでニューヨークのアルビン・エイリーのところに研修に行きました。肌の色はダンサーにとってバリアではないんだと確信するためだった。ここに行ったことで、自分はダンスで生きていける、と強く感じることができました。大切なのは仕事に打ち込み、踊る喜びを保ち、前進のために疑問を常に持ち続けること。今回の僕の任命が、夢の実現に肌の色はブレーキではない!というメッセージになったのであれば幸せです」

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彼の名前が一躍注目を浴びたのは、カドリーユだった2021年6月、エトワールにもハードルの高いヌレエフの古典大作『ロミオとジュリエット』の主役に配役されたことからだ。入団3年未満で舞台経験も少ない頃の出来事ながら、それをまったく感じさせず、技術的・演技的に見事な舞台だった。信頼する教師からの「公演開始1分前にギヨームは姿を消す。君はロミオになるんだ」という言葉に従った彼。ステージで踊るのはロミオなのだから、とストレスはなかった。この成功にメディアから多くのインタビュー依頼があった彼だけれど、あえて一切受けなかった。

「自分の仕事に集中したかったし、言葉で表現するのが難しかったから。というのも、カドリーユがエトワールの役を踊るというのはオペラ座では珍しいことで、この状況を僕はうまく受け入れられずにいたんだと思う。だから舞台上ではロミオになれても、ギヨームとして語るというのは複雑に思えて……」

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エトワールとしての初舞台となった『ダンテ・プロジェクト』のリハーサル。

今シーズン最後の公演は『マノン』のデ・グリュウ役。『椿姫』のアルマン、『オネーギン』のレンスキー同様に踊りたいと夢見ている役のひとつだ。大きな重みのある役だけど、フレッシュな若さをもたらせたらと願っている。ファッション界からも注目を浴び、デフィレに招かれたり、雑誌でモデルを務めたりする彼は外交的性格かと思いきや、控えめで恥ずかしがり屋なのだという。他者とのコミュニケーションが不得意で、自分の殻に閉じ込もり……それが芸術性を豊かにするのだと語る。時間があると公園やセーヌ河岸で読書。好んで読むのはロマンティックなフィクションだ。自分の内面、実体験を作品の人物作りに役立たせることがダンスのおもしろいところ、と目を輝かせる。

*「フィガロジャポン」2023年9月号より抜粋

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連載:パリとバレエとオペラ座と

editing: Mariko Omura

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