ペーパーアーティスト、マティルド・ニヴェの鳥たちが遊ぶプランタンのノエル。

Paris 2023.12.25

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本館とメンズ館を結ぶ3階の通路で、クリスマスのウィンドウのためにペーパーアーティストのマティルド・ニヴェが制作した鳥たちとウインドーの模型を展示。photos:Mariko Omura

クリスマスシーズン、どのデパートの前もクリスマスウィンドウを楽しむ人たちで賑わうパリ。子どもたちが大喜び......というのが常なのだけれど、カトリーヌ・ドヌーヴを開幕式に迎えた今年のプランタンデパートのウィンドウは子どものみならず、大人の女性たちも微笑みながら携帯で撮影を試みている光景が見られる。

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プランタンデパートのクリスマスウィンドウは1月7日まで。photo:Francis Pryerat

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鳥たちが舞うウィンドウに前に立つカトリーヌ・ドヌーヴ。クリスマスウィンドウのオープニングセレモニーより。photo:Stéphane Feugère

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カトリーヌ・ドヌーヴを迎えて、11月22日に開幕したウィンドウは「紙のクリスマス」のテーマの下に、10種のカラフルな紙製の鳥たちが羽を広げて飛翔していたり、クリスマスカードを書いていたり......夢がいっぱいだ。これはペーパーアーティストのMathilde Nivet(マティルド・ニヴェ)とのコラボレーションによるポエティックなウィンドウで、彼女は背景となるパリの街やケツァール、フラミンゴ、フクロウなど合計10種の鳥の彫刻のミニチュアを制作。それをもとに巨大サイズの鳥たちが装飾専門業者によって作られて、ウィンドウに。マティルドによるミニチュアはモード館とメンズ館を繋ぐ通路で展示中。彼女がどのように仕事をしたのか。ウィンドウディスプレイの秘密をここで発見できる。

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ペーパーアーティストのマティルド・ニヴェ。@mathildenivet  www.mathildenivet.com photo:courtesy of Mathilde Nivet

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地上階のウィンドウのために、パリの街の建物もマティルドが紙で制作した。photos:Mariko Omura

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マティルドによる彫刻の鳥たち。羽には柔らかさが感じられ、紙製とは思えない。photos:Mariko Omura

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マティルドと紙との出合い。

この展示会場で流されているビデオで、マティルドが紙と出合ったのは"偶然から"と語っている。彼女は2007年にパリのデュプレ校を卒業しているが、この"偶然"は在学中の2004年に遡る。

「先々モード界に進もうと思って、学校でテキスタイルを専攻しました。ある時、授業でペースト素材の実験という出題があったのです。当時私はあまり良い生徒じゃなくって、提出前日になって白い紙で作業を始めました。目の前にあったのが紙だったので、これが私のペーストということにして......。スクエアにカットして折ってみたり、噛み砕いてみたり、こすってみたり。翌日教室で全員が作品を机の上に並べた時に、私のを見た教授がとてもコンセプチュアルだって......私は挑発的なつもりだったけれど、実のところこれが求められていたことだったんです。このエクササイズはおもしろい、紙は興味ある素材だって思って、紙についての仕事を続けました」

卒業後、ペーパーアーティストの道を歩み始めた彼女。もちろん最初はすぐに仕事があるわけではなく。また当時は珍しかったことだが起業をし、アーティストであると同時に経営面も自分で、という苦労も経験。いまやキャリアは20年近くなる。彼女のサイトを見るとわかるがシャネル、ルイ・ヴィトン、カルティエ、エルメスなどフランスのリュクスのメゾンの仕事を多数こなしている。多くが宝石、香水などの分野だ。

海外からの依頼もある。たとえばいまから10年くらいも前のことだが、日本のBunkamuraのパリ祭のウィンドウディスプレイの仕事をした。エッフェル塔、ムーランルージュ、ノートルダム寺院といったパリの名所をペーパーアートで制作。それらがウィンドウの中にパリの街景色を再現するというものだった。

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エルメスのフランス国内すべてのウィンドウのために、マティルドがアートディレクションと花のプロトタイプを担当した。photo:courtesy of Mathilde Nivet

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 モンテーニュ大通りにオープンしたジャックムスのブティックのために、レモンの木や花といった紙の彫刻を。photo:courtesy of Mathilde Nivet

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ハサミ、カッター、紙。ペーパーアートにテクノロジーは不要。

10区にある彼女の共同アトリエには、デスクの上にコンピューター、そして道具類が並ぶ。制作は郊外の自宅に設けたアトリエで行い、パリではアートディレクションやコンセプトの仕事を行っている。ウィンドウの仕事と撮影のセットデザインをメインにしているそうだ。いずれの場合も、彼女が使う道具は特別な品ではない。ハサミとカッター、それにプラスして紙にボリュームをつけるロール、紙に細工するプリオワール(へら)、ピンセット......。

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彼女がペーパーアートに用いる道具はハサミとカッターが基本。特殊なタイプではない。時には香草をカットするためのキッチンバサミも活用する。紙にエンボス加工を施す時は、金属ボールが頭についたトランサーを使用。photos:Mariko Omura

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ルイ・ヴィトンのウィンドウのための紙の彫刻は巨大なドラゴン。竹やメタルをストラクチャーに使用し、紙にはさまざまなテクニックを用いた。短期間での準備だったため、過去の仕事の中でもっとも苦労した思い出がある。photo:courtesy of Mathilde Nivet

「紙で興味深いのはテクノロジーがいらないことね。材料は誰でも安く入手できます。必要なのはサヴォワールフェール、そして情熱。これが結果をもたらすのです。用いるテクニックはカットする、貼り付ける、折る、組み合わせるととてもベーシックですが、クリエイションのアイデアが大切なんです。私はデッサンをし、アートディレクションをし、制作はアシスタントがしています。紙というと平面だけれど、最近はこのプランタンのウィンドウの鳥のように、立体の仕事も少なくありません。平面にデッサンしたものから立体のオブジェを作る時は、洋裁のように型紙を作りますが、これはなかなか複雑な仕事なんですよ」

可能性が無限にありそうなペーパーアート。手がけてみたいとマティルドが夢見ている仕事は何だろう、と聞いたところ「20年のキャリアにおいて、私はすでにたくさんのことをしています。籐細工の技術にインスパイアされた編みをいつか試してみたいと夢見ていたのですが、昨年のクリスマスシーズンにロンドンのハロッズのヘネシーのウィンドウでそれを実現する機会があったんです。長い間の夢を叶えられ、これはとてもうれしかったですね」。

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紙を編んだペーパーアートの実現という夢を叶えたヘネシーのウィンドウ。photo:courtesy of Mathilde Nivet

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プランタンのウィンドウ。

「どの仕事でもリサーチからスタート。花や鳥など、どの仕事でも機会があれば実物を見るようにしています。プランタンの鳥については希望の鳥のリストがあって、それをもとにしました。1種の鳥についてさまざまな写真を探し、過去に作られたものについてもチェックして......とリサーチには結構時間がかかっています」

こうして決定した10種の鳥について、彼女はそれぞれ紙の彫刻を作った。ショーウィンドウの装飾制作会社がそれらをもとにした羽を広げた鳥やマリオネットの鳥を制作し、我々が見るウィンドウを飾っているのだ。なおプランタンでは吹き抜けのアトリウムで展開されているプラダのポップアップ空間を飛んでいる鳥も彼女のペーパーアートである。

「デパートのクリスマスのウィンドウというのは、フランス人が毎年楽しみにする伝統のひとつのようなもの。高級ブランドのウィンドウを手がけても、それは万人向けではありません。それに対してデパートのウィンドウの仕事というのは大勢の目に触れるものなので、この仕事ができて幸せです」

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左: プランタンのクリスマス・ショッピングバッグにも用いられているペーパーアート。 右: "紙のノエル"がテーマのプランタン。マティルドはアトリウムのプラダのポップアップの鳥も担当。写真はそのメーキングから。photos:courtesy of Mathilde Nivet

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極彩色の鳥が舞うアトリウム。こちらも開催は1月7日まで。photos:Mariko OMURA

Printemps Haussmann
64, boulevard Haussmann
75009 Paris
営)10:00〜20:30(月〜金) 11:00〜18:00(日)
無休
www.printemps.com

editing: Mariko Omura

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