スイーツのマルティール通り近く、食事はビストロノミーのレヴァデで。
Paris 2024.01.05
スイーツの店やパン屋などが多く並ぶパリ9区のマルティール通り。この通りとアンリ・モニエ通りを結ぶのがクローゼル通りといって、その昔ゴッホ、セザンヌ、ゴーギャンたちが集まった画材屋「タンギー爺さん」が14番地にあった。いまはジュエリーのブティックとなっているが、この時代の絵画に興味がある人たちにとって14番地は一種の聖地である。ちなみにタンギー爺さんは1984年に亡くなる2年前、店を同じ通りの9番地に移転した。
クローゼル通り14番地に掲げられているプレート。ゴッホのファン、あるいは原田マハの『たゆたゆえども沈まず』の読者には語りかけるものがあるだろう。photo:Mariko Omura
その斜め向かいの23番地に、ビストロノミー・レストランの「L'Evadé(レヴァデ)」がオープンした。そう聞くと、フランス人はなんでレストランの名前が"逃亡者(évadé/エヴァデ)"なんだ?と思うようだ。これは通りに名前を残した、19世紀の軍人ベルトラン・クローゼルに由来している。ナポレオン失脚後、彼はアメリカに追放されるのだがその間にナポレオンへの忠誠心から彼の"逃亡"を組織しようと務めた......ということから。また過去の時代へと来店者を誘う店内を仕切る古い木の梁の存在や、周囲の通りの雑踏からは信じられないほど静けさ、秘密めいた雰囲気の内装ゆえに現実から逃避の時間が過ごせるという意味も込められているのだ。
シェフはレミ・プーラン。25年の料理人生の間、プランス・ドゥ・ギャル、ローラン、トール・ダルジャンといった店を経由している。15年来の友人で共同経営者のアントニー・リヴィエールととすでに彼は7区にレストランを開いていて、レヴァデはこの秋に始まったふたりの新たな冒険である。
左: シェフのレミ・プーラン(右)とアントニー・リヴィエールによるビストロノミー・レストラン。 右: 建物の時代を物語る木の梁が店内を仕切っている。photo:(右)Mariko Omura
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レミ・プーランがここで実践するのは「ガストロノミーのテクニック、ビストロの素材」という料理だ。季節の素材を用いているのでメニューの内容は月ごとに変化するが、ワサビやハリッサといった国籍さまざまな香辛料や材料の思いがけない組み合わせがどの料理でも味わえる。また特別な素材としてメニューを飾るのは、リ・ド・ヴォー、アンガスビーフのリブロース、コート・ド・ヴォー。野菜料理が注目されるいまの時代、肉好きには朗報だろう。サービスのオリーブオイルたっぷりのフォカッチャから食事はスタートする。なおランチタイムはメニューからのチョイスで、前菜+メインまたはメイン+デザートが35ユーロ(ディナーは44ユーロ)、前菜+メイン+デザートが39ユーロ(ディナーは52ユーロ)。デギュスタシオン・メニューは昼夜ともに60ユーロで、それに40ユーロをプラスすると各料理とワインのマリアージュが楽しめる。革表紙の立派なワインリストが物語るように、レミとアントニーが力を注いだワインのセレクションが自慢の店だ。ウイスキーも種類豊富で、アイルランド、スコットランド、そして日本産も。
左: シェフ特製のフォカッチャで始まる食事。 右: アンガスビーフのリブロース(42ユーロ)はシェアして味わうもよし。photo:(左)Mariko Omura
名物の前菜は、くるみ入りのパテ・アン・クルート。14ユーロ(セットメニューの場合は3ユーロプラス)
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前菜(アラカルトで各14ユーロ)から。左はサーモン・コンフィ。ワサビ、黒ゴマ、そして柑橘類のカラマンシが風味を添える。右は冬におなじみのビストロ料理のポワロー・ヴィネグレットのシェフ風。卵の黄身、チェチーナ、そして胡椒というユニークなハーモニー。photo:(右)Mariko Omura
メイン(アラカルトはランチ各26ユーロ、ディナー各32ユーロ)。左は鴨のフィレ肉。カブ、洋ナシ、ビーツが添えられ、ローズマリーとトンカが繊細に香る。右は野菜料理のメインとして、サルデーニャの粒パスタ、フレグラにセロリとノワゼットを加えてリゾット風に。たっぷりのトリュフで仕上げ!photos:Mariko Omura
デザート(アラカルトは各12ユーロ)から、ポメロとメレンゲ。なお季節を問わない定番デザートは、シャーベットを添えたチョコレートスフレ(セットメニューの場合、3ユーロプラス)。
界隈のレストランは、食事はともかく仲間と飲んで食べて楽しい時間を過ごすというタイプがほどんど。それらと一線を画すレヴァデは、良い雰囲気でおいしい料理を食べたい人々を迎えている。いまどき珍しくひと皿のボリュームもなかなか。お腹を空かせて行こう。
editing: Mariko Omura