Hot from PARIS いまパリで起きているコト 公共・交通施設の偉人名、フランス流オマージュでひと波乱?
Paris 2024.03.28
1月8日、パリ13区の新エリアで、デヴィッド・ボウイ通りのお披露目式が行われた。2016年に亡くなったボウイだが、生きていれば77歳の誕生日。区長やゆかりの人々のスピーチに続いてプレートが除幕されると、集まったファンから歓声が上がった。
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パリには人名のついた通りや広場が実に多い。街を取り巻く大通りはいずれも第一帝政時代の元帥の名前だし、アンリⅣ世からヴィクトル・ユーゴーまで、歴史上の王や偉人の名を冠した通りは枚挙にいとまがない。中学校や高校の名前にはモネやドビュッシーが登場し、市民プールにはジョセフィン・ベーカーもいる。新エリアの広場や道にはバスキアやルイーズ・ブルジョワなどのアーティストが、公園内の小道や運河沿いのプロムナードにはジャンヌ・モローやフランス・ギャルなどの文化人が名を残している。
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命名することで業績を讃えるのがフランス流オマージュなのだが、それゆえに施設や場所の名前には社会的な意味が生まれてしまう。近年問題視されているのは、女性へのオマージュが少ないこと。01年時点で女性の名を冠したパリの道、公園、施設の割合はたった6%だったという。イダルゴ市長のもと、パリ市は各界の女性に125のオマージュを捧げ、現在、女性の名を冠した道や施設は12%を占めるまでになった。
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一方で、社会の価値観が変化したために改名されるケースもある。01年には、奴隷制度に尽力したリシュパンス将軍の名がパリの地図から消え、奴隷出身の作曲家シュヴァリエ・ド・サンジョルジュ通りが生まれた。昨年も、植民地政策を象徴するビュジョー元帥の名が取り払われ、レジスタンスの戦士ユベール・ジェルマン通りに変わったばかりだ。時代とともに変化する人物評価。偉人の銅像撤去と同じ理屈だが、フランスでは、通りが改称されると住所も変わるからやっかいだ。
もうひとつ、春オープン予定のメトロの新駅が議論を呼んでいる。「リラの門の切符切り」にちなんだリラ市のセルジュ・ゲンズブール駅のアイデアは10年以上前に生まれたが、開通を前に反対の声が上がったのだ。「暴力的で悪名高い女性蔑視者、近親相姦の擁護者の名前にNON」という呼びかけに、すでに16,000人以上が賛同。ポスト#MeTooの余波は、思わぬところに広がっているようだ。
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*「フィガロジャポン」2024年4月号より抜粋
text: Masae Takata (Paris Office)