オリンピックの開会式、フランス人現地記者はどのように見ていた?
Paris 2024.08.03
今大会を通して、編集者ジョセフ・ゴーンのミッションはただひとつ。開会式が行われたパリを縦横無尽に駆け巡った。
夜、バーのスクリーンに映し出された開会式。photography: Joseph Ghosn
「雨の中でも素晴らしい」と、開会式の真っ最中、ポン・デ・ラルマ左岸のスタンドから、ずぶ濡れになりながらもうれしそうな読者が書き込んだ。ファンゾーンでは、人々が静かに踊り始めた。別の読者からは、天候の影響を受けないシュヴァル・ブラン・ホテルからメッセージが届いた。
「ここでは、ちょっと尖ったディスコハウスのようだ」。どこもかしこも、予想以上に早く夜が訪れ、雲と雨が最後の日光を消し去った。雨の中の雰囲気はどうだったか? 街は中心部とそれ以外の部分で分断されていた。セーヌ川沿いのパリはどこも満員だ。観光客やセリーヌ・ディオンのファンが、雨と同時にやってきた。セーヌ川と並行して走るこれらの地区では、セーヌ川を行き交うさまざまな国の船のように、通りでは様々な外国語が聞こえてくる。まるでテクノパレードにいるような感じだが、船は水上にあり、普通のパレードとは一味違う。夜は活動的だった?
私たちは一週間不安感を抱いていた。けれどいま、パレ・ロワイヤルやサマリテーヌの周りでは、まるで隠れ家から出てきたように、多くの人々が現れた。セーヌ川の近くに居場所のない人たちは、別のセレモニーや、大きなテレビ画面を探して群れを成して歩いている。中心部から少し離れると、街の様子が少し変わる。パリ北駅やパリ東駅の方へ行くと、緊張感はあるものの、あまり激しくはない。雨が少し感傷的な気持ちにさせているのかもしれない。バーからバーへ、通りに向けられたスクリーンを見ながら、私たちは近所を歩き回った。どのカフェやテラスも、大会の開幕を見に来る小さなコミュニティがあるようだ。ここで数分立ち止まり、また別のテラスへ移動しながら、次に何が起こるのか、ショーのハイライトや最も盛り上がる瞬間を待っている人々が立っている。「式典はテレビのほうがよく見える」と言う。
あるふたりの男性が、苦い赤い酒を飲みながら、エマニュエル・マクロン大統領が歌手アヤ・ナカムラの写真に、意味のわからないキャプションを付けた投稿について話しているのが耳に入った。「大統領、最近ちょっとジャジャ(アヤ・ナカムラのヒット曲)してない?」と、アヤのヒットを指して鼻で笑う声が聞こえた。突然、周囲が一気に音が大きくなり、叫び声や喜びの声、終わりのない笑い声が響き渡った。私たちはその音がするカフェへ急いで向かい、興奮を引き起こした映像を見逃さないようにした。スクリーンにはジダンの顔が映し出されていた。「ジズー!」と皆で一斉に叫び、1998年7月12日の勝利と2006年7月9日のヘディングゴールを同時に再現するかのようだった。7月はジダンの月だ。「フランスはジズーの笑顔だ!」と感激し幸せそうな観客が叫んだ。彼は偉大なカール・ルイスをすぐには認識できなかったが、(フレンチディスコの巨匠)セローンのディスコの名曲「Supernature」のイントロが流れると、すぐに腕を上げて楽しむ様子が見られた。
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最新式のアープ・オデッセイ
「Supernature」は1977年の誕生以来、世界で最も聴かれているフランスの曲のひとつだ。パリで雨の中、その曲が響くのを聴きながら、この曲が偶然に作られたことを思い出した。数年前、セローンが最新式のシンセサイザーであるアープ・オデッセイが届いたとき、その使い方がわからず、ランダムにいくつかの音をピアノの鍵盤で弾いた結果、この曲が生まれたという。これは試行錯誤の産物だったのだ。今夜、雨の中、セローンの曲に合わせて街にいる人々は踊った。すると、友人から「ガールフレンドにふられた」という悲痛なメッセージが届いた。彼をひとりにしないため、そして悲しみや落ち込みがひどくならないように、私たちに合流するように伝えた。オーヴェルヴィリエのポール・ド・オーヴェルヴィリエにあるスタション・ガール・デ・ミンで、ゲームの期間中に続く一連のイベントが始まる。優れたDJスンデー、通称「ファン・ズー」が今夜プレイする。彼ほど憂鬱な人たちを踊らせる方法を知っている人はいない。午前5時55分になっても、まだ女の子から電話はかかってこないが、止むことのない雨のように、パーティは始まった。
text: Joseph Ghosn (madame.lefigaro.fr) translation: Hanae Yamaguchi