ミリー・ラ・フォレ、驚きの巨大アート「キュプロプス」【後編】

Paris 2024.08.05

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ミリーの森に住む片目の巨人。オレンジ色の瞳は微妙に左右に動いている。photography: Mariko Omura

ミリー・ラ・フォレの町外れの森に、ひとつのアート作品がこれでもかという迫力で鎮座している。それはジャン・ティンゲリー(1925~1991年)が妻ニキ・ドゥ・サン・ファール(1930〜2002年)の協力を得て、ギリシャ神話に出てくる片目の巨人キュプロプスをテーマに制作した高さ22.5メートル、重さが350トンの彫刻「Le Cylop(ル・シクロップ)」だ。彼は廃材を用いて、機械のように動く彫刻で知られるスイス出身のアーティスト。メセナたちのおかげで作品「ル・シクロップ」は修復され、2022年に一般公開が再開された。といっても、「ル・シクロップ」を見られるのは、毎年4月の頭から11月の万節祭(トゥーサン)の学童休暇の終わりまでと限られている。2024年は4月6日から11月3日までだ。

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森のサイクリングコースの途中に入口がある。photography: Mariko Omura

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ル・シクロップの正面。325平米の顔はニキ・ドゥ・サン・ファルによって1987年に鏡のモザイクで覆われた。

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象の鼻のように長く延びる滑り台の中を水が流れる。photography: MarikoOmura

"怪物"とも呼ばれるこの作品。ティンゲリーのアイディアをもとに1969年から制作が始まり、彼の死後、妻のニキが引き継いで作品を完成させた。このプロジェクトにはアルマン、セザール、ダニエル・スポエリ、ジャン=ピエール・レイノーなど彼の仲良しのアーティストたち約15名も参加という集団による作品である。ティンゲリーは作品が保護されるべく1987年に国に作品を寄贈していて、1994年に当時の大統領が除幕式を行なって一般公開が始まった。

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集団による作品はガラス、セラミック、テキスタイル、石膏など使われている素材がさまざま。それゆえに修復に時間を要することになった。photography: Mariko Omura

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遠くからはなんだか得体の知れない巨体に見える作品は、鏡のモザイクで覆われ、顔の中央では片目がオレンジ色に光っていて、滑り台のように延びた舌の上を水が流れている。裏に回ると巨大な象のような耳! そして鉄板の建物の後ろからは貨車が飛び出し、宙に浮かんでいる。内部は迷路のような5フロアで、時間によって、複数の歯車が回転して大きな鉄の球を移動させ、それが玉突きのように他の球を上に押し上げて......その間、森の静寂は見事に破られる。

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真横から見た作品。巨人は顔だけで体がない。photography: Mariko Omura

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廃材の鉄が使われている。高さに圧倒される作品。ぐるりと一周して作品を鑑賞しよう。

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レールを伝って左から送られてきた球が他の球を上へと突き上げる。

キネティックアート、アール・ブリュット、ヌーヴォー・レアリスム、ダダ......どの芸術運動にもカテゴライズできず、またこれらすべてともいえるティンゲリーのル・シクロップ。おもしろい作品なのに、ミリーというアクセスが不便な場所なのが残念だ。見たくても見られない......そんな場合はポンピドーセンター脇のストラヴィンスキー広場へ。1982年に設置され、昨年修復されたジャン・ティンゲリーとニキ・ド・サンファールの共同制作によるカラフルな噴水で満足することにしよう。

Le Cyclope
Rue Louis Pasteur 66番地の森側の延長上
91490 Milly-La-Forett
営)10:30~18:30(昼休みあり)(2024年10月27日以降~17:45)
休)月~金(7月、8月は月、火)、祭日(7月14日、8月15日を除く)
料)無料
※内部ガイド:12ユーロ (8歳以上)
https://www.lecyclop.com/
Instagram

【関連リンク】
ミリー・ラ・フォレに、ジャン・コクトーの家と庭を訪ねる。【前編】

editing: Mariko Omura

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