ロワール渓谷、古城のホテルで極上のアール・ドゥ・ヴィーヴル【前編】
Paris 2024.09.04
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11世紀から15世紀にかけて王侯貴族たちによって多くの城が建立されたロワール地方。見学者を迎える城もあれば、ホテルとして現代に生きている城もある。その中でユニークなのは、ロワール渓谷のトゥールとアンボワーズの間に位置するルーニィという村に2022年秋にオープンし、ルレ&シャトーの5ツ星を得ているシャトー・ルイーズ・ドゥ・ラ・ヴァリエールだ。ホテルに名前を残しているのはルイ14世の最初の公妾だった女性で、この建物はトゥールに生まれ育った彼女が、週末を過ごした場所ということから。フランスの歴史に強くなくてもラ・ヴァリエールという言葉に聞き覚えがあるとしたら、それはこの名前がリボン結びされたロングタイを指す言葉としてデザイナーたちが用いているからだろう。ルイーズが実践していたオシャレがこれだったのだ。
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客室の名前にフランス国王の寵姫(ファヴォリット)たち
ここは別荘暮らし、歴史、官能という3つの言葉をうたい文句にした、スイートを含め全20室というこじんまりとしたホテル。おもしろいのは、その多くの部屋の名前がルイーズ・ドゥ・ラ・ヴァリエールを筆頭にフランスの歴代国王の寵姫たちの名前であることだ。ルイーズを追いやりルイ14世の寵姫となったモンテスパン夫人の部屋もあれば、その彼女に次いで愛妾となり、さらに王の再婚相手となるマントナン夫人の部屋もある。ルイ15世が愛したポンパドゥール夫人、彼女の亡き後を継いだデュ・バリー夫人の部屋があり、古くはアンリ2世の愛人ディアーヌ・ドゥ・ポワティエやアンリ4世の愛を受けたガブリエル・デストレといった名前も。フランスの寵姫たちの歴史を生きるホテルであるが、それに加えてルイ16世の妻マリー・アントワネット、ナポレオン1世の最初の妻ジョゼフィーヌ、ナポレオン3世の妻ユージェーニー・ドゥ・モンティホといった妃たちも部屋に名前を授けている。
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インテリアは16世紀から19世紀まで
シャトーのいちばん古い建物は16世紀の建築で、そこに19世紀に増設が行われた。敷地内に点在して建てられていた守衛の家、庭師の家、オランジュリーなども宿泊施設に改装されて、合計20室のホテルだ。 室内装飾はそれぞれ部屋に名を授けている人物の個性にインスピレーションを得ていて、その時代の家具を揃えて室内に各人物の世界を再現。テレビやコーヒーマシンといった実用的な品は、額やカーテンの裏に隠されている。室内に一歩足を踏み入れるや、宿泊客は過去へのタイムトリップへと誘われるのだ。2022年の秋に開業して以来、すでに6回宿泊した客がいると言う。異なる部屋に眠ることで毎回が新しい体験となるのだから、リピーターにならざるを得ないホテルと言えそうだ。
客室のカテゴリーは広さによってプレスティージュ・ダブルルームからシグネチャー・スイートまで6タイプに分けられている。どの部屋もピンクのウェルカムマカロンとキングサイズのベッドというのは共通だ。バスルームのアメニティはゲランのオーアンペリアルというのが、ホテルのテーマにぴったり!
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デザインは室内装飾界の巨匠ジャック・ガルシア
このホテルの持ち主は、骨董と歴史におおいなる情熱を傾けているスイス人女性ミラ・グルベンシュタイン。彼女の願いが叶って、ホテルのデザインをジャック・ガルシアが実現することになったそうだ。ラ・ヴァリエール家から買い取ったファミリーの中で相続があり、売りに出たシャトーをミラが訪問した時は放置された状態だった。ロワール渓谷のシャトー巡りを自分の母や子どもたちと何度もし、フランスに家族で住むための3~4室の家が欲しいと思った時に、迷わずこの地方で家探しを始めた彼女。小さな家を見つけるはずがなんとシャトーを購入してしまったのだ。その間に彼女は夫の勧めでホテル経営について学校で学び、5ツ星のホテルを作り上げる自信も身に付けてていた。
ジャック・ガルシアが空間の仕事をし、彼の指示に生徒のように従って2年以上をかけて16世紀から19世紀までの家具を集めたのが彼女である。骨董屋、ブロカント、競売場......時には3台のコンピューターを前にネットオークションに参加したことも。ガルシアが希望する時代、色、雰囲気がぴったりな上、状態の良い古い家具を見つけ出す、という難題にミラは果敢に取り組んだのだ。子どもの頃から何ひとつ恐れない性格だったという彼女。その結果が、20室のエレガントでセンシュアルなインテリアである。現代時間を遡って過ごすシャトーでは、インテリアに合わせ、夜には18世紀風の白いコットンの寝間着がベッドに用意される徹底ぶりだ。
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ルイーズ・ドゥ・ラ・ヴァリエールとルイ14世、愛の7年間
ルイ14世から"朝露(ロゼ)"と呼ばれたように、ルイーズ・ドゥ・ラ・ヴァリエール(1644~1710年)は初々しくフレッシュな若い女性だった。ふたりの出会いについてシャトーで語られる物語に耳を傾けると、きっかけはルイ14世が弟のフィリップ・ドルレアンの妻、アンリエット・ダングルテール(彼女の名前の部屋もある!)に恋をしたことからだ。弟の妻との関係という醜聞が宮廷の中に知れ渡るのを防がねば。それでアンリエットに、若く愛らしいルイーズを侍女として雇うことにしたのだ。ふたりの女性は常に一緒にいることになるので、たとえ王がアンリエットに目を向けても、側には彼がルイーズを見ているとしか思えない......という策略だったところ、ルイ14世はこのルイーズに本当に恋をしてしまったのだ。1661年、彼女が17歳の時のことだった。
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公妾となったルイーズは、王との間に5~6人の子どもをもうけ、そのうちふたりが成人している。愛妾との子どもを王は認知する必要がないのだが、このふたりについては認知した。マリ=アンヌ・ドゥ・ブルボンとルイ・ドゥ・ブルボンである。愛されていたルイーズだが、信仰心の篤い彼女は、婚外出産したことや王妃マリー=テレーズに対する後ろめたさもあり、モンテスパン夫人が王の前に登場した際に王との3角関係に耐えられず、31歳で修道院へと。厳しいカルメル会の修道院で、ルイーズは65歳の人生を終えたのだ。
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editing: Mariko Omura