シャトー・ルイーズ・ドゥ・ラ・ヴァリエール、おもてなしの極意【後編】
Paris 2024.09.11
ロワール地方に2022年秋にオープンしたシャトー・ルイーズ・ドゥ・ラ・ヴァリエールは周囲に広がる森を含めて19ヘクタールと、とても広い敷地内にある20室のシャトーホテルである。宿泊客だけでなく、食事客もここに来ると友人宅に招かれたような温かみと寛ぎを感じるのは、オーナーのミラ・グルベンシュタインがその昔の城の女主人"シャトレーヌ"よろしく遠来の客をおもてなしするからだろう。18世紀風のコスチュームに身を包んだホテルのスタッフの姿に最初は驚かされるけれど、衣装にふさわしい物腰で城主の招待客に接するようにホテルに来る人々を彼らは迎えてくれる。ホテル内のあちこちにあしらわれた庭の花に心休まされて......シャトー・ルイーズ・ドゥ・ラ・ヴァリエールにはart de recevoir(おもてなし)の心があふれている。宿泊してもしなくても、素晴らしい時間を過ごすことができる場所なのだ。
最寄り駅から車で向かうシャトー・ドゥ・ラ・ヴァリエール(出迎え料金は100ユーロ)。見えてくるのは、エントランスの塔と門に残された中世の城時代の名残だ。塔は喫煙室として現在活用されている。photography: Mariko Omura
ホテル内、いたる所庭の花を活けたガラスやカラフのクリスタルが光を輝かせている。photography: Mariko Omura
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きれいなテーブル・セッティングもおいしい食事の思い出に
シャトーの朝は美しいビュッフェで始まる。グリーン系でまとめたタペストリーのかかる壁の前のテーブルに並べられたビュッフェは絵画のように美しく、手をつけてしまうのがためらわれるほど。レストラン内で、あるいはお天気に恵まれたらフランス庭園を見下ろすテラスで、おいしい朝の時間をゆったりと過ごそう。
味わいと視覚からの楽しみは、L'Amphitryon(アンフィトリオン)と命名されたレストランのランチやディナーでも続く。アンフィトリオンというのは、モリエールの戯曲の登場人物で、19世紀のフランスでは饗宴を催して客をもてなす主人を意味していた。このレストランでは、地元の素材を用いた味わい深くエレガントな料理に合わせた食器やグラスのセレクションが見事なのだ。たとえプールサイドのランチでも、白いクロスをかけたテーブルには花が飾られ、透明なカラフの中でスティルウォーターとスパークリングウォーターが揺れる。シャトーではコカ・コーラさえ、カラフに移されてサービスされる。"シャトレーヌ"ミラによる、洗練されたアール・ドゥ・ターブルに乾杯だ。
レストランの暖炉の上のメインスペースを占めているのは、ルイーズの肖像画の複製である。オリジナルはヴェルサイユ宮殿が所蔵しているそうだ。暖炉には敬虔なカトリック教徒の彼女がモットーとしていた「神の側にいるように、王の側に」が刻まれている。レストランでは彼女だけでなく、ルイ14世、弟のフィリップ・ドルレアン、そしてルイ14世とルイーズの間に生まれた5人の子どものうち、成人して認知されたマリ=アンヌ・ドゥ・ブルボンとルイ・ドゥ・ブルボンの肖像画を壁に見ることができる。スタッフは客の好奇心にこたえ、時代背景とともに彼らの物語を話してくれるので気軽に質問してみるのがいいだろう。
複数の肖像画が掲げられたレストラン内。photography: Mariko Omura
朝食ビュッフェのテーブル。photography: Mariko Omura
フランス庭園を見下ろすテラス席。朝の青い光の中で朝食を。photography: Mariko Omura
ゲストのリクエストにこたえて、プールサイドでのランチ。庭園でのピクニックも過去に行っている。photography: Mariko Omura
19世紀の中国製のお皿やいまや存在しないフランスのマニュファクチャーのものなど、ミラが集めたアンティークの器も食事の楽しみだ。
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プールとスパで心と体をリラックス
プールは宿泊者だけの利用に限られている。20室しかないのでプールの中に人があふれることはない。プールサイドに用意されてるのはボックステントのベッドだ。人目を気にする事なく、水着姿でお昼寝したり読書したり。客の立場に立った女性オーナーならではの配慮と言える。
プールに隣接している建物は、スパのLa Rosée(ラ・ロゼ/朝露)。ルイ14世がルイーズを"ロゼ"と呼んでいたことからの命名だ。ミラが選んだのは、うれしいことにVelmontとBiologique Rechercheというヨーロッパで最高のふたつのスパメゾンである。メゾンのマニュアルをマスターし、また日本で"古美道"も学んだという施術者に身を任そう。
スパの建物。photography: Mariko Omura
スパに隣接したプール。サイドには長椅子とボックスベットが並ぶ。photography: Mariko Omura
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ティータイム? シャンパンテイスティング?
ホテルのもっとも古い建物は1542年の建築で、その1階を占めているのがエントランスの左手に広がるライブラリーバーだ。その名は壁にずらりと並ぶ皮革の装丁本を見れば納得。ホテルのゲストは自由に手に取ることができ、中には古いフランス語で書かれた300年以上も昔の本も混じっている。厚い石の建物ゆえ夏でも涼しいので、ゲストはここで寛ぎ、冬は大きな暖炉の周りに自然とゲストたちが集まってくるそうだ。ルイーズ・ドゥ・ラ・ヴァリエールが宮廷に召されるまで週末を過ごしていたのがこの建物で、曽祖父が以前あった中世の城を1542年に改装した。ルイーズ・ドゥ・ラ・ヴァリエールの名をいただいた部屋があるのは、このバーの上のフロアである。
部屋で過ごす時間と同じように、素晴らしい時間が過ごせるライブラリーバー。photography: Mariko Omura
ライブラリーバーのブランデー。ミラのカラフ・コレクションの見せ所だ。photography: Mariko Omura
バロック音楽が流れるジャック・ガルシアによる壮麗な内装の中、庭の花を生けた花瓶が柔らかな光を添えている。バーといってもさまざまな用途に用いられる空間。ホテルはふたつのユニークな体験を提案している。午後にはサンドイッチやスイーツとともに紅茶を味わう英国式ティータイムを。夕方には6種のシャンパンのテイスティングで、チーズに合う、トーストしたパンに合う......など、それぞれのシャンパンの個性に合うプチフールとともにシャンパンをテイスティングするゆったりとした時を過ごすのだ。どちらも18世紀風衣装をつけたスタッフにサービスされ、エピキュリアンなタイムトリップの体験となる。
ティータイムセット。紅茶が2〜3杯、3種のサンドイッチ、3種のスイーツが含まれている。photography: Mariko Omura
6種のシャンパンテイスティング。それぞれの味にあうプチフールがセットされている。締めのロゼには甘いプチフールだ。photography: Mariko Omura
ルイナールのブラン・ドゥ・ブランでテイスティングが始まる。photography: Mariko Omura
アンティークの器やTrudonのパヒュームキャンドルなども販売する24時間オープンのフロントでは、さまざまなリクエストに対応している。ホテルを起点にしたロワールの城巡りのオーガナイズや、クラシック・スポーツカーMorganのレンタルも。車は2019年に誕生110年を祝って限定復刻された110台のうちの貴重な1台だという。これを借りてクラシックカーならではのモーター音を聞きながらロワール川沿いをドライブするのもいいだろう。アンボワーズ城まではたった15分くらいとか。20室のこじんまりとしたホテル。やってくる人々を客ではなくシャトーの友人としてもてなしたいミラにとって、良き滞在、良き時間を約束できるサイズなのだ。一目惚れして入手したシャトーを購入の10倍以上の費用をかけ、ジャック・ガルシアの協力を得て理想のホテルを生み出したミラ。シャトー・ドゥ・ラ・ヴァリエールで、上質な贅沢に包まれた滞在を!
英国のクラシックスポーツカーMorganで近郊のドライブを。photography: Mariko Omura
editing: Mariko Omura