謎めいたホテル、北マレのブードワール・デ・ミューズへ。
Paris 2024.10.27
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100年の眠りから覚め、18世紀の建物が4ツ星ホテル、そしてバスサロンであり、またカクテルバーの「Boudoir des Muses(ブードワール・デ・ミューズ)」として9月半ばにオープンした。フランスの歴史建造物指定を受けている建物は、語られるところによると1807年までイマーシブな公演が行われていた劇場だったという。中央の吹き抜けのホールで行われる催しを、観客はホールをぐるりと囲む各フロアの廊下から下を眺めて鑑賞するという形式だった。どんな催しだったのかは不明だけれど、劇場でありメゾン・クローズ(売春宿)でもあったということから想像するに、いささかエロティックな内容のものではないかと......。ナポレオン1世が「ここで働く女性たちの道徳心は軽すぎる」と宣言して、建物を閉鎖。その後、前身とは打って変わって女性のための修道院となったという。驚くべき二面性の歴史を秘めた建物だが、21世紀のいまにいたるまで一貫して場所の主役は女性なのだ。
新生したホテルのストーリーテリングは、このフェミニンかつ少々謎めいた過去がベースとなっている。通りに面したエントランスの床には蛇が這い、小さなレセプションデスクへと入ってきた者を導く。そのデスクの後ろに見えるのは教会の懺悔室の扉?といったように、ホテルに着くや建物の謎めいた歴史へと誘われることになる。
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吹き抜けのホールを囲む5つのフロアを占める客室は、スイートとアパルトマンを含めて合計28室。最近はシャワーだけのホテルが増えている中で、ブードワール・デ・ミューズでは4つのスイートとアパルトマンがバスタブ付きだ。もっともこのホテルではバスタブが部屋になくても、地下1階のバスサロンで特別な入浴タイムが楽しめるのだ。サロンHedonéはジャクジーとハマム、サロンVénusはジャクジーとサウナを備えている。サロンなので寛ぎのスペースもゆったりと。2名で1時間30分の貸切ができ、グラスシャンパン(テタンジェ・ブリュット・レゼルヴ)のクープがサービスされる。バスサロンは宿泊客でなくても利用ができるので、覚えておくといいだろう。
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ホテルの内装を手がけたのはミカエル・マラペール。センシュアルでいささかダークな雰囲気のパブリックスペースと正反対に、彼は客室に修道院的インテリアを目指した。どの部屋も落ち着きのある色でシンプルかつ明るくまとめられている。18世紀の建築物の天井や壁を貫く木の梁がインテリアに取り入れられている部屋も。最上階を占める72平米のアパルトマンもそのひとつだ。ここはダブルベッド、ソファベッドが備えられ、最高6名が宿泊できる。
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地上階のホールでは毎晩異なるプログラムで女性をテーマにした女性によるパフォーマンスやトークショーなどが開催される。朝はここが朝食スペースで、ホテルの宿泊客でなくても利用可能だ。ランチタイムはクローズ。夜は食事だけのための客用に一角スペースが用意されている。メニューはホテルの歴史が持つ二面性をテーマにしていて、1つの素材を2つの方法で調理というコンセプトだ。たとえば、帆立貝はカルパッチョ(25ユーロ)あるいはポワレのエシャロットソース(25ユーロ)、というように。フォアグラ、牡蠣、アボカド、エビも同様だ。バーカウンターも誰でも利用でき、2種のモクテルを含む10種のオリジナルカクテルを味わえる。そのカクテルの名称もホテルの過去からのインスピレーションで、YOSHI WARA STREETやMadame Ohなどと、なにやら怪しげ......ユニークなホテルの誕生である。
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editing: Mariko Omura