熱狂のオリンピックが、パリの街に残したものとは?
Paris 2024.11.24
9月14日、アスリートたちがシャンゼリゼ大通りをパレードし、空に浮かぶ聖火台が最後の姿を見せ、パリジャンはオリンピックの熱狂に別れを告げた。「街じゅう工事だらけ」「住民の暮らしに悪影響」と批判が絶えず、前評判は最悪だったパリ・オリンピック。フタを開けてみると、セーヌでの開会式に始まってパリを代表するモニュメントを背景に繰り広げられた大会に、ふだんは批判精神いっぱいのパリっ子も「大成功」と鼻高々だ。「パリを離れてちょっと後悔」「ヴァカンス先でテレビ観戦」と告白する人は少なくない。治安や物価問題、政治の混乱などの社会不安をいっとき忘れさせたこの大会の興奮を、パリ市としては存分に活用したいところなのだろう。オリンピックがパリに残すものは?が話題になっている。
いちばんの話題は、エッフェル塔の五輪シンボル存続問題だろう。「エッフェル塔は広告塔ではない」から、「シンボルも塔も長期的に掲示できる構造ではない」という技術的な指摘、エッフェルの子孫も反対して論争中だが、市長は2028年のLA五輪まで掲げる構え。9月末に一旦撤去され、より軽い素材で再度掲げられるとのことだが、11月も終わろうといういまもエッフェル塔に五輪は戻ってきていない。
反対に残したいという声が多いのは、夜空に浮かぶ姿が新しいシンボルとして愛された聖火台。ただしこちらは、場所の問題だけでなく、毎晩空に浮かべるための諸経費が懸念されている。
一方、開会式のセレモニーでセーヌに現れた10人の歴史上の女性たちの金の彫像は、18区の大通りにまとめて設置されるという。
だがこの大会がパリに残したのはシンボルだけではないだろう。スポーツ全般への関心が高まり、各種スポーツ教室の入会者数が急上昇。ルブラン兄弟が活躍した卓球では、ラケットの売り上げが50%から70%もアップしたと報道された。また、ハンディキャップを超えて挑戦を続けるアスリートの姿が感動を呼んだパラリンピックが浮き彫りにしたのは、エレベーターのある駅が30にも満たないメトロのアクセシビリティ劣等生ぶり。イル=ド=フランス地域圏知事は「みんなのためのメトロ」を掲げ、国と関係自治体、パリ市の協力のもと、200億ユーロの予算を投じて改善に取り組む姿勢を明らかにした。
もうひとつ、世界中の話題になった遺産は14億ユーロをかけて浄化したセーヌ川だ。市長は来年夏に市内の3カ所に遊泳ゾーンを設置すると宣言している。果たしてどれだけのパリジャンがセーヌに飛び込むだろうか。
*「フィガロジャポン」2024年12月号より抜粋
text: Masae Takata (Paris Office)