プティ・パレの冬は『リベラ、闇と光』展と『野生のスウェーデン』展。
Paris 2025.01.07
『リベラ、闇と光』展
スペイン人画家Jusepe de Ribera(フセペ・ディ・リベラ/1591~1652年)と言われても、何も作品が思い浮かばない、初めて聞く名前......日本でもそうだろうけれど、フランスにおいてもこのように人々が反応する画家である。フリーダ・カーロの夫で画家のディエゴ・リベラと勘違いする人も。
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11月6日から2月23日までプティ・パレで開催されている『リベラ、闇と光』 は、この"カラヴァッジョの後継者" "バロック絵画の最大の画家" "17世紀の偉大な画家の一人"とされるリベラの世界初の大々的な回顧展だ。絵画、版画、デッサンなど展示は100点以上。プティ・パレのディレクターで展覧会の共同キュレーターであるアニック・ルモワンヌの力がこもり、世界中の美術館や個人からの貸与作品を集めて画家のローマ時代とナポリ時代の両方を見せることで全キャリアを辿れる展示を作り上げた。リベラの作品になじみのない来場者に彼の作品の特徴へと目を向けさせる仕掛けも用意された見ごたえのある展覧会。この時代やこうしたテーマの絵画にあまり関心がない人も惹きつけるリベラという画家、そして彼が生きた時代を発見できるおもしろさにあふれている。
<ローマ時代>
スペイン人のリベラはカラヴァッジョより20歳下で、時代的にはスペインに残っていたならヴェラスケスとほぼ同時代を生きた画家である。5~6歳で故郷を離れてきたローマで10年を過ごし、その後、スペイン副王がナポリ総督を務めるスペインの植民地だったナポリに移してキャリアを形成した。彼はスペイン本土に戻ることなく人生を終えているが、自分がスペイン人であることを誇っていたという。
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展示は時代順に進む。始まりは「ローマのリベロ:カラヴァッジョ作品を糧にする」だ。彼がローマに着いたのは1605~06年と言われ、それはカラヴァッジョが殺人を犯してナポリに逃亡した頃である。ふたりが出会ったかどうかは不明だが、リベラはロ・スパニョレット(小さなスペイン人)と呼ばれることになるローマで10年暮らし、カラヴァッジョの作品を糧に、自身の絵画の土台を築いていった。含みのあるリアリズム、生身の人間の挑発的なモデル使い、ドラマチックなクレール・オブスキュール(明暗法)、演劇的仕草、むき出しのリアリズム、正面向きの半身像......あえて下層階級に目を向けることもリベラの仕事の特徴となった。
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テーマ「自分の道を見つけ、自分の場所を見つける」で語られるように、彼は10年の間にローマの偉大なコレクターたちのサークルに迎えられることになる。その中には有名なボルゲーゼ枢機卿も。とはいえ、リベラのローマ時代については長いことあまり語られていなかったという。2002年に『サロモンの審判』と題された作品を集めた会があり、それまでフランス画家のものとされていた同名作品の作者はリベラだった!ということがきっかけとなり、彼のローマ時代が再発見されることになったのだ。
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<ナポリ時代>
「リベラとナポリ:栄光の時代1616~1652年」の部屋から、リベラがナポリに引っ越した1616年からの作品の展示が始まる。この17世紀初頭はナポリがとても活気に満ちていた時代。この地で彼は画家の娘と結婚し、地元の貴族たち、宗教関係者からの注文が入るようになり一生を終えるのだ。ナポリに彼が来た時にはカラヴァッジョはすでに亡くなっていたが、この地で彼が残したクレール・オプスキュール作品に対峙したリベラの作品にはカラヴァッジョの影響が反映されている。
新しいタイポロジーを生み出す彼の才能が語られるのは、次のテーマ「謙虚な人々の輝き」にて。内側の豊かさと外見の貧しさにフォーカスして、心理的真実をリベラが描いた作品が展示されている。この部屋で来場者の目を引いているのは"ヒゲを生やした女性"と副題のついた『マグダレーナ・ヴァンチュラとその夫』(1631年)で、これは彼に多くを発注したアルカラ公爵のオーダーによる作品だ。次の部屋「日常を賛美する」では、ローマでもナポリでも社会からはみ出した部分にリベラが興味を抱いていたことを示す作品が展示されている。ナポリではスペインの副王の公式画家であり、宗教関係者から注文が殺到していた画家ではあるが、彼はジプシーや老婆、乞食の子どもなども描き、日常生活の貧しさの中に素晴らしさを見いだしていたのだ。
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彼がナポリ芸術界の頂点に立つのは1630年代のこと。この時代に彼は古代の寓話にインスピレーションを得て、そこに辛辣さと叙情性を加えて人間的ドラマに仕立てていたのだ。彼の野心から題されたこれら作品群の展示のテーマは「古代の寓話を再発明する」。迫力と美しさにあふれる『ヴィーナスとアドニス』(1637年)などを見ることができる。
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奥まったスペースでは「パトスを描く」と題して、ロンドン、マドリード、パリの3都市からの3作品を並列して展示。同一モチーフに取り組み、常に更新して作品を豊かにしていたリベラの仕事を見ることができる。左壁にロンドンのナショナルギャルリーの『キリストの死を嘆く』(1618~1623年)、右壁にマドリードのティセン・ボルネミッサ美術館の『キリストの死を嘆く』(1633年)。そして中央がルーヴル美術館の『埋葬』(1616~1624年)で、この作品の解説にはカラヴァッジョの『埋葬』(1602~1604年)の写真が添えられている。
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最後は「暴力の見世物」で、リベラの作品で核をなす暴力表現を取り上げている。キリスト教の殉教者たちを描いた作品は彼のナポリ時代を語る際に欠かせぬ作品群だ。とりわけ聖バルトロマイの殉難については1616年から1644年まで複数のバージョンを残しているそうで、ルーヴル美術館もこの主題のサンギーヌ画を所蔵している。
同時代の画家たちからは、リベラの作品はカラヴァッジョ以上にダークで残酷であるとみなされていたという。聖人も物乞いも哲学者も現実も、どれも演劇的な身振り、黒あるいは燃え立つような色、むき出しのリアリズム、ドラマティックな明暗法という自身の言語に置き換えて描いたリベラ。カラヴァッジョの後継者の中で最も大胆で、また最も極端な画家が彼だったのだ。
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『ブルーノ・リリェフォッシュ 野生のスウェーデン』展
プティパレでは『ブルーノ・リリェフォッシュ 野生のスウェーデン』展も2月16日まで開催されている。『リベラ』展を見た後にナポリから北欧に、17世紀から19世紀末へと時空を超えてみよう。この展覧会はプティ・パレで2014年に始まったスウェーデンのABCトリオの最終編。ABCとは19世紀末に北欧のアートシーンで知られていた3名の画家、Carl Larsson(カール・ラーション)、Anders Zorn(アンデシュ・ソーン)そしてBruno Liljefors(ブルーノ・リリェフォッシュ)のことだ。
ブルーノ・リリェフォッシュは自然をテーマに描く写実派である。100点近い作品を展示している展覧会で、街で見かけるポスターに使われている作品は、雪景色の中の野うさぎ。愛らしい動物たちに出会える展覧会かと思いきや......リベラが人間界のリアリズムを描いたなら、リリェフォッシュは自然界のリアリティを追求。野生の動物や鳥たちが生き抜く姿は逞しく、また凶暴でもある。展覧会では魅力的な自然ばかりではなく、リアルな北欧の自然に立ち向かうことになる。
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『Ribera, Ténèbres et lumière』
開催中~2025年2月23日
『Bruno Liljefors, La Suède sauvage』
開催中~2025年2月16日
Petit Palais
Avenue Winston-Churchill 75008 Paris
営)10:00~18:00(月〜木、日) 10:00〜20:00(金、土)
休)12月25日、1月1日
料金:15ユーロ
http://www.petitpalais.fr/
editing: Mariko Omura