『バレンシアガ・バイ・デムナ』展、本人がキュレートした10年の軌跡。

Paris 2025.07.02

今年3月、モード界を騒然とさせたのはデムナがバレンシアガを去り、グッチのアーティスティック・ディレクターに就任するというニュースである。そして、ついにその時が目前に迫ってきた。7月9日、彼はオートクチュールショーでバレンシアガでの任務を終える。そして、パリ7区のケリング本社にて開催されている『バレンシアガ・バイ・デムナ』展も、この日で終了だ。これは2015年から2025年まで過ごしたバレンシアガでの10年間の、主要な概念的・テーマ的特徴を探求する展覧会。彼自身のキュレーションで振り返るという企画である。

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『バレンシアガ・バイ・デムナ』はインターネットで予約をすれば誰でも無料で入場できる。Courtesy of Balenciaga

最後のプレタポルテコレクションとなったSPRING 26コレクション「Exactitudes」を発展させた展覧会で、展示の最初の部屋はショーの招待状として選ばれたオブジェの展示だ。2021年の土の香りのする手書きの手紙&VRヘッドセットに始まり、使い古しのiPhone、アクリルケース入りのVHSテープ、偽札......最後、54回目のクチュールコレクションのゴールドメタルの糸のボビンへと続く。これらが長いガラスケースに一列に並べられ、ひとつひとつをじっくり鑑賞しつつケースに沿って歩く来場者の歩みはまるで、デムナとの最後の別れを惜しむ......といったように、とてもゆっくり。かつて礼拝堂だった場所ということもあり、会場を厳かな雰囲気が包む。

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最初の部屋には、ショーのインビテーションとなった意表をつくオブジェが一列に並ぶ。photography: Mariko Omura

これに続くのが、30のコレクションから彼が厳選した象徴的な101点の展示。プレタポルテ、クチュール、アクセサリー、フットウエアなどで、未完のアーカイブピースやガリエラ美術館からの貸与品も含まれている。会場で最初に迎えられのは、彼のバレンシアガとの初のコンタクトとなる1通のメッセージだ。アントワープ王立芸術アカデミーを卒業した彼が、バレンシアガのメンズチームに送ったインターシップのリクエストに対して受け取った断りのメールである。時は2007年5月17日。それから10年も経たずに、そのメゾンのアーティスティック・ディレクターに就任することになるとは!

クリストバル・バレンシアガのコードの再解釈、プロポーションの探求、「レディメイド」の研究、トロンプルイユ、アップサイクル、ファッションの既成ルールの再考、そして「人々は何を着て、どのように着こなすのか、そしてファッションとラグジュアリーの微妙な境界線はどこにあるのか」といった現代ワードローブへの継続的な考察が、会場内に十字を描くように配された展示台上で展開されている。

展示中の50点にはオーディオシステムが備えられ、デムナがそれぞれの作品に込めた意味と創作プロセスを語っている。これは近づくと言葉として耳に入ってくるが、50の声が重なりあう会場全体には不協和音で奏でられる実験的音楽のように響く。目の前に並ぶ彼の作品を特徴づけるデザインコード、ボリューム、シルエット、そしてアティテュードを体現するクリエイションは、クリストバル・バレンシアガがスペインで1917年に創立したクチュール・メゾンのアイデンティティの現代的再定義の見事な証である。バレンシアガの「Art in Stores」プロジェクトに参加したアーティストとのコラボレーションもアート作品として展示。6種のシューズとアクセサリーは、Andrew J. Greeneの「Timeless Symbols」シリーズの作品と融合し、ステンレススチールの支柱の上に設置されて内蔵モーターによって回転し......。コンテンポラリーアート展を見ている、そんな錯覚が起きるのも不思議のない展覧会だ。

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photography: Annik Wetter

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photography: Annik Wetter

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photography: Annik Wetter

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特製マネキン、実際にそのアンサンブルを着用したモデルのハイパーリアリスティックなスカルプチャー、ドライクリーニング店風のハンガー、そしてガーメントとそのインスピレーションの源となったアーカイブスタイルの併置など展示法にも注目したい。photography: Annik Wetter

展示の最終地点で無料カタログが来場者に渡される。デムナによるラジカルで非順応的なクリエーションの素晴らしい記録だ。最後には彼からの長いメッセージが。展示作品のみならず、このために制作されたビジュアルも掲載されたファッション雑誌風のこのカタログは、コレクターズアイテムとなることだろう。

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カタログ。Courtesy of Balenciaga

『Balenciaga by Demna』展
開催中~7月9日
Kering
40, rue de Sèvres
75007 Paris
入場無料
予約はこちらから
問い合わせ先:
バレンシアガ クライアントサービス
0120-992-136(フリーダイヤル)
https://www.balenciaga.com/ja-jp

editing: Mariko Omura

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