「香りはアート」を体感させる。フランシス・クルジャン30年のクリエイションが展覧会に。
Paris 2025.10.31
パリの現代アートセンター、パレ・ド・トーキョーで、異色の展覧会が始まった。調香師フランシス・クルジャン30年のクリエイションを振り返る展覧会は、彼の足跡を追いながら、香りというアート表現の広がりを体感させるもの。

展示は、セーヴル焼きの白い花びらが香る、バラの香りのインスタレーションから始まる。© Elephant
フランシス・クルジャンは、24歳でジャン=ポール・ゴルチエのメンズフレグランス「ル マル」を世に送り出し、一躍世界にその名を馳せた調香師。その後も数々のヒットを飛ばし、2001年には他者に先駆けてオーダーメイドの香りを提案。9年に自分のメゾンを立ち上げ、21年からはディオールのパフューム クリエイション ディレクターを務めている。
『Parfum, Sculpture de l'invisible』展は、その名の通り、香りを"目に見えない彫刻"として捉えたもの。
「ヴェルサイユのISIPCA校で調香を学んでいた頃、『香りはアートだ』と繰り返し説かれた」というクルジャン。「決定的だったのは1999年、ソフィ・カルのプロジェクトのために"お金の匂い"をクリエイトする依頼を受けた時。香りは身に着ける"いい香り"の域を超えたアートなのだと理解したのです」と語っている。
この展覧会は、香りをアート表現として捉えてきたクルジャンの歩みを再体験させるものだ。

ソフィ・カルの依頼による「L'odeur de l'argent」(お金の匂い)は、当時クルジャンが暮らしていたアメリカのドル紙幣の紙とインクの匂いがベースになった。© Elephant
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展覧会の幕開けは、特別な製法で香りを染み込ませたセーヴル焼きの白いバラが並ぶインスタレーション。続いて、20代初めまでヴェルサイユ・ソレイユ・バレエ団に所属し、宮殿のイベントではルイ14世を演じて踊っていたというクルジャンが、居並ぶ観客をアロマキャンドルに見立てたインスタレーション『王のダンス』。ヴェルサイユ宮殿の庭園を舞台に、香水の噴水やシャボン玉を飛ばしたイベント。モネの『庭の女たち』からインスパイアされたアロマキャンドル。クルジャンの香りを目に見えるアート作品に表現したクリステル・ブレの写真。VRマスクにディフューザーを組み合わせ、バーチャル世界に香りをもたらす斬新な試みも体験できる。

2008年夏にヴェルサイユ宮殿で行われた夜のイベントでは、観客を2本メッシュのキャンドルに見立てた『王のダンス』のインスタレーションを実現。© Elephant

クリステル・ブレは、クルジャンの香水をカラー印画紙に数滴垂らしたことから生まれるイメージを写真のかたちに表現した。© Elephant
音楽とダンスに造詣の深いクルジャンらしい作品も見逃せない。オペラ『サロメ』の一幕のために調合した香りでは、「少女から女へと変化するサロメを表現」したという。
展示室にはそれぞれ額に入った香水のレシピとともにムエットが置かれており、アートと香りの関係が、さまざまな形で表現されてきたことが追体験できる。

会場で配られるムエット用のポシェット付きパンフ。展覧会を巡ると、全部で12の香りを持ち帰ることができる。
展示の最後を飾るブースは、「L'alchimie des sens」(香りの錬金術)。クルジャンが14年にバカラの250周年記念のためにクリエイトした「バカラ ルージュ 540」の体験から、この展覧会を機にイメージしたプロジェクトだ。赤いクリスタルをテーマに、作曲家ダヴィッド・シャルマンのピアノ曲が流れ、シネティックアーティストのエリアス・クレスパンが考案したモビールが音楽に合わせて空を舞う。アンヌ=ソフィー・ピックが創作したショコラを味わいながら、演出家シリル・テストによるインスタレーションに身を置く、ヒプノティックな空間だ。
「香りはアート」を追求してきたフランシス・クルジャンの30年。音楽、映像、インスタレーションとともに、五感で楽しめる展覧会だ。

中央にはバカラ ルージュ 540 ミレニアムエディション、その上にエリアス・クレスパンの繊細な彫刻が下がり、ダヴィッド・シャルマン作曲のピアノ曲に合わせて軽やかに動く。© Elephant

アンヌ=ソフィー・ピックはサフラン、タジェット、ピマン・ドゥーがスパイシーなキャラメル入りショコラを考案。味わいながらインスタレーションを堪能して。© Elephant
30 ans de Créations de Francis Kurkdjian』
開催中〜11月23日
Palais de Tokyo
13, avenue du Président Wilson 75016
開)12:00~22:00(最終入場予約は21:00、月、水〜日)、12:00〜24:00(最終入場予約は23:00、木)
休)火
入場無料
予約はこちらから
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text: Masae Takata (Paris Office)




