CHICHI PARIS ~パリに住むエステティシャンのblog~

今妻と元妻で遺族年金を仲良くシェア?離婚も再婚も複雑なフランス

ブルターニュに引っ越したフランス人の友人とマレ区のサロン・ド・テで待ち合わせました。約束の時間きっかりに到着すると、雨が降る中で既に20人位並んでいる。タルトやケーキが有名な人気店なのです。すると、15分前に来ていたという友人が中から手招きしていました。

IMG_7902.jpg席に座るなり「信じられない。彼は私を苦しめることが目的なのよ!」と大きなため息をついた彼女。6年目に突入した離婚裁判中の彼女は、もう6年以上も夫と別居中で、今回は弁護士との面会と裁判所に出頭するためにパリに来ているのです。フランス人で珍しく専業主婦だった彼女は、26年の結婚生活で築いた不動産もお金も全部欲しいのだけど、言い渡されたのは彼女の希望とはかけ離れた結果でがっかりして、離婚裁判に強い新しい弁護士に変えたと言う。

「でも、prestation compensatoire(離婚手当)の一括払いに同意してくれたんだからよかったわね」と、慰めるしかなく・・・。

離婚手当とは、離婚後にどちらか片方の生活の質が落ちないように、お金を持っている方がない方に支払う経済支援のことです。既にこの6年間の別居期間の間、夫は毎月フランス人の平均収入に値する生活費を彼女に払っていて(彼女が無職なので夫には収入に応じた額を支払う義務がある)、彼女が今住んでいるブルターニュの家は彼らの別荘でその費用も彼が負担している。「別荘はあなたの物になるんだし、離婚手当を分割払いでも払わない男性も多いのに、一遍に払ってくれるなんて悪くない話だと思うけど?」と言うと、「私が死ぬまでお金が十分に足りるか分からないし、別荘も傷んでいて工事が必要で維持費も掛かる。私には年金もないのよ!」と返ってきた。

フランスでは職に就いていない人に年金の受理資格はなく、専業主婦でいると老後に年金がもらえない。それだけが理由ではないけれど、どんなにお金持ちと結婚していても、何かよっぽどの事情がない限り女性は皆んな仕事を持っている。そんなフランス社会の中で、彼女は非常に稀な働く気がないフランス女性なのです。口では働きたいと言うのに、いざ働き始めると続かない。毎日職場に行くことが苦痛になってしまうらしい。優しくて美人、真面目で根はとてもいい人なのに、その度なんだかんだと言い訳をして辞めてしまう。一度なんてブティックで2ヶ月間働いた後、心と体の休息が必要だとインドに旅立ち、オーガニック3食付きの高級アユールヴェーダ施設に2ヶ月間滞在していた(笑)

日本では専業主婦として夫の収入で生活している女性もまだ多く、両親のようにお金の管理を妻に任せている家庭も珍しくないと話して以降、彼女は「自分は家庭的な女」なので、日本人男性と結婚すべきだったと常々嘆くのだけど、パリの広々としたアパルトマンに住み、バカンス用の別荘も持ち、子供達を幼稚園から私学に通わせ、アイロン掛けと掃除する人をそれぞれ雇い、ボン・マルシェで買い物をする生活をさせてくれる日本人男性がそういるとは思えないのですけど・・・(^_^;)

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話を聞いているうちにだんだんと、うんざりしてきた。棚には美味しそうなタルトが並んでいて、しかも彼女がこの店を指定してきたのに、この6年間ですっかりケチになった彼女は紅茶しか頼まないというので私も紅茶しか頼まなかったし、店内は暑くて混み合っていてガヤガヤうるさく、「離婚だ、お金だ」と大声を張り上げて喋ることに疲れてきたのだ。

「ご主人は10歳も年上だし、万が一亡くなれば彼の遺族年金が貰えるだろうから、経済的なことはそんなに心配しなくていいわよ」と話題を切り上げようとしたら「義父は98歳、義母は94歳で病気ひとつしないで元気。おばあちゃんは102歳で亡くなった。ケチだから粗食で、たばこもお酒も飲まず、スポーツ大好きで体を鍛えていて、絶対に私よりも長生きする。そのうえ、もし今の彼女と再婚したら取り分が少なくなる」と目を三角にして矢継ぎ早に言うので、思わず吹き出してしまった。

フランスは離婚しても元妻が再婚していなければ、無くなった元夫の遺族年金を受け取る仕組みになっていて(年齢や子供の有無、収入などの条件有り)、元夫が再婚していた場合は現在の妻と元妻が結婚年数に応じて分配するシステムがある。これも離婚後の生活の質を落とさないためらしいのだが、死後まで元配偶者の生活援助をしなくてはならないとは摩訶不思議だ。

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散々喋った挙句、私のポットにはまだ紅茶が残っているのに「うるさくて落ち着いて話ができないわね。ホテル代がもったいなくて友人の家に泊めてもらっているから、夕飯の支度を手伝わなくちゃ」と立ち上がったので、今日は私が払うからとお金をテーブルに置いたら「あーら、ありがとう」とニッコリ微笑んでくれました(苦笑)

***

その夜、近所に住む日本人の友人とガリエラ美術館の「ヴォーグ パリ 1920-2020年 」展へ。

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100年間分の表紙が一挙に飾られていて壮観。特に初期の頃の表紙はイラストですっきりとしていてエレガント。時代の流れを感じます。

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スターの写真も沢山ありました。先日亡くなったジャンポール・ベルモンドは離婚の際に元妻達に相当搾り取られていそう・・・。

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楽しみにしていたのに、昼間の疲れと空腹でフランス語の解説文がさっぱり頭に入ってこない。友人もサッと見るだけで十分だと言うので猛スピードで見て、自宅で一緒に夕飯を食べました。私達二人だけだったので、献立は簡単にテイクアウトした牛肉のお団子のクスクス、デザートはアイスクリーム。

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昼間の出来事を話したら、彼女が「その通りよ!結婚してから知ったんだけど、もしも夫が先に亡くなったら私も彼の遺族年金を元妻とシェアしなくちゃいけないんだって」と呟いた。彼女は初婚、ご主人は再婚で元妻との間に子供がいる。元妻が再婚してくれたらその資格がなくなるのに、元妻にはパートナーはいるが再婚する気はないらしい。しかも子供が2人いるから確実に権利があるらしく、彼女は密かに今から気を揉んでいるらしい。「子供達は自立した大人なのに、なんでこんなシステムがあるのか理解できない」と繰り返し言う彼女。さらに、ずっと賃貸に住んでいるから二人で家を買うことも夢見るけれど、もし彼女が夫より先に死んだら、彼女が負担した分をいずれ義理の娘達が相続すると思うとそれも抵抗があると言う。私が彼女の立場だったとしても同じように考えるはず。自立している女性で、夫とも義理の娘達とも関係は良好。それでも、夫が先に亡くなっても自分が先に死んでも悩みが尽きないなんて気の毒だ。

恋愛主義のイメージが強いフランス人ですが、離婚も難しいけれど再婚も後々が難しくて、一筋縄ではいかないこともよくある話です。やはり最もシンプルなのは、お互いに結婚歴なし&子供がいないケースだろうけど、私のように四十代になると出会う同年代以上の殆どの男性が「バツあり・子持ち」か「バツなし・子持ち」だ。「バツあり・子供なし」も少数いるけれど、「バツなし・子供なし」の両条件が揃った男性の数はぐっと少なくなり、たまにいても生活力がなかったり、性格が悪かったり個性が強すぎたり、引っ込み思案だったりして、その少ない人数の中から理想の男性に出会う確率は宝くじに当たるようなものだと思う(あくまで私の個人的な意見です)。

数日後、ある日本人女性から四十半ばのフランス人と知り合ってデートを重ねている。今まで出会った人の中で一番気が合って、熱心に働いていて、性格は優しくて穏やか。美味しい物が好きで素敵なレストランに連れて行ってくれる。住んでいるアパルトマンは持ち家で、掃除する人も毎週に頼んでいるから片付いていてインテリアの趣味も良い。だけど、彼の容姿が好みじゃないから恋愛感情を持てないという話を聞いた。訊けば、結婚歴なし、子供なし。思わず「さらぴん(関西の言葉で新品)!?」とはしたない声が出てしまった。怪訝そうな顔をする彼女に「顔は一年我慢すれば必ず見慣れるから、その人を離しちゃダメー!!」と力説してしまいました(^^;;

chichi

立神詩帆 / Shiho Tatsugami
2002年渡仏。エコール・フランソワーズモリスで学び、エステティック・コスメティックCAP国家資格を取得。2011年からパリ7区でエステサロンCHICHI(シシィ)を自営。All About のフランス流美容ガイドとして、パリジェンヌから学ぶ美容情報やライフスタイルに関するコラムを掲載中。
好きなものは、フランスの食文化、1日の終わりのアペリティフ、アルゼンチンタンゴ、旅。

www.chichiparis.com
https://allabout.co.jp/gm/gp/1693/
Instagram: @chichi_paris7

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