
ニッシム・ド・カモンド伯爵の優美なテーブルセッティング
パリにある個人の邸宅美術館の中で一番好きな、ニッシム・ド・カモンド美術館を訪れました。
銀行家モイズ・ド・カモンド伯爵が建てたモンソー公園に隣接する豪奢な邸宅で、美術収集家だった彼のコレクションや調度品を見ることができます。日本語のオーディオガイドの無料貸し出しがあり、基本のガイドの他、家具や美術品の個別の詳しい説明もあります。個人の邸宅なので美術館としては小規模で隅々まで見てまわっても疲れないし、当時の大ブルジョワの暮らしを知ることができる貴重な美術館です。
特筆したいのは素晴らしいキッチン!
真っ白いタイルに採光と換気のための大きな窓、石炭と薪をくべるクラシックな黒い調理台、真鍮の蛇口がついた洗い場がある明るく大きなキッチンは私のまさに理想で、何かの偶然が起こってお金持ちになったら同じキッチンが欲しい。せめて似せたキッチンを作りたい・・と見学するたびに妄想にふけっています。
さらに、主人用のキッチンやダイニングだけでなく、執事室、使用人のキッチンや彼らの私物を入れておく戸棚がある使用人専用ダイニング、出来上がった料理を上階のダイニングに運ぶリフトなど調理から主人のダイニングまでの動線を見ることもできるようになっていて興味深いです。フランスでは自分のナプキンが分かるように各々が違うナプキンホルダーを使うのですが、使用人の各ナプインホルダーも一つ一つ違っていてなかなか凝っています。
ところで、今回ここを訪れた目的は、開催中のTable dressée(テーブルセッティング)展を見るためです。
テーブルアート好きとしては、銀食器のPuiforcat(ピュイフォルカ)、クリスタルのSaint-Louis(サンルイ)、リネンのD. Porthault(デ・ポルトー)の協賛で行われているセッティングは見逃せない!
ピュイフォルカはフランスの最高級なカトラリーで、いつかここの純銀製のカトラリーを揃えるのが私の夢。サンルイはバカラと並ぶクリスタル工房で、創業1586年と一番歴史が古いのがサンルイです。デ・ポルトーも超高級リネンのブランドで、自宅近くにブティックがありよく寄りますが、繊細な刺繍が施された美しいテーブルクロスやベットカバーを眺めているとどれも欲しくなってしまいます。
美しいセッティング。ダイニングに隣接された食器が壁一面に飾られている小部屋も必見です。
当時の実際の食事のメニューも記せられていて、食事風景が窺い知れ、時代をタイムスリップしたような気持ちになりました。
しかしながら、華やかな世界から一転。栄華を極めたモイズ・ド・カモンド伯爵は時代に翻弄され悲しい末路を辿ります。妻とは結婚直後からうまくいかず離婚、愛息のニッシムが第一次世界大戦出征中に若くして亡くなり、娘も親戚もアウシュビッツ強制収容所で命を落とします。1935年に彼が亡くなると、遺言により彼の邸宅とコレクションが全てフランス国家に遺贈され、息子への追悼の意を込めたニッシム・ド・カモンド美術館が誕生しました。
ここを訪れるたびに、家族を全て失った伯爵がどんな気持ちでこの邸宅で余生を過ごしたかを想うと切ない気持ちになります。
セーブルセッティングは2月24日まで開催です。ご興味のある方はぜひ。
Musée Nissim de Camondo
https://madparis.fr/francais/musees/musee-nissim-de-camondo/
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