静まり返った週末
パリはとても静かで、買い物をする人やジョギングをする人をちらほら見かける程度です。
花屋もビストロも休業。
緑色の十字が目印の薬局は営業しています。
外出制限が始まる前にパリから田舎や地方の別荘や親類宅へ避難した人達と、そういう家を持っていなかったり仕事や健康上の都合などで、そしてフィリップ首相やマクロン大統領の「長距離移動はしないで下さい。人の移動がウィルスを運びます。」の呼びかけに従って居残りを決めた人達に分かれます。
私はそういう家を持っていないしパリを離れたいとは思わない居残り組ですが、住んでいるアパルトマンの住民は、仕事の都合で残った家族、奥さんと子供逹は田舎に出発してご主人は残った、持病を持っているからかえって買い物や万が一の時に病院が遠い不便な田舎に行くよりもパリに残ることにしたなど色々です。さっさとパリから離れた人々はウイルスをフランス中に撒き散らしていると避難の対象にもなりましたが、慌てて出発する人々で電車も飛行機も混雑し、田舎についた開放感で海辺や街を散歩している様子がTVで映っていたからです。
私は各自の事情で適切に判断すれば良いことだと思う。小さな子供達を狭いアパルトマンの中に閉じ込めておくのは可哀想だし庭がある田舎の家で過ごしたほうがよい、小さなワンルームに住んでいる学生さんが地方の親元に帰る、など様々な理由があるからです。夫の仕事の都合で治安と衛生状態が良くないアフリカの某国に住んでいる妊婦の知人は、国境閉鎖を危惧して、仕事ですぐに離れられない夫を残し、幼児と乳児のふたりを連れてエチオピア経由の最後のフライトでパリに到着し、休む暇もなく車を走らせて外出制限のタイムリミットの正午ぎりぎりにブルターニュの実家に辿り着きました。
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先週の木曜日は暖かくお天気が良い日でした。薬局に行くために側を通ったエッフェル塔のあるシャン・ド・マルス公園には結構沢山の人がいて、子供逹が嬉しそうに自転車に乗っていました。ジョギングやウォーキングなど軽い個人スポーツのための外出は許可されているので、それを都合よく解釈した人々が公園に集まっていたのです。案の定その夜内務省の発表で、金曜日から週末にかけて、シャンド・ド・マルスへの外出は禁止となってしまいました。セーヌ川沿いの道、アンヴァリット広場も禁止。リュクサンブール公園も閉門されてるとのこと。TVではアナウンサーが、買い物は家から500m以内、スポーツは1Kmから最大2Kmまでの移動にしましょうと何度も呼びかけていました。エネルギーの有り余る子供を外で遊ばせてあげたいという気持ちはよく分かるけれど仕方がありません。
隣人のマダムはパリの国立病院に勤める研究者ですが、現場はとても悲惨な状態だそうです。疲労がピークに達してメトロで通勤するのが辛いので特別許可をもらってご主人に車で送り迎えをしてもらいながら頑張っています。医療現場で治療に当たっている方々、感染して苦しまれている方や亡くなられた方、在宅勤務が不可で感染のリスクを負いながら通勤したり働いている方達に比べると、もっか休業中で家にいる私の場合は感染を避けて家にいるのが最も人に迷惑を掛けないのならこんなに容易なことはない。それに人工呼吸器やベットが不足して医療現場がパニックの現状では、発熱しても緊急性がない場合は安静にして自宅から出ないように指示されるだけだと聞きました。
そろそろ食料品の買い置きが少なくなってきたので、人との接触を避けるために、早起きして朝7時にマルシェに行ったらまだ他の買い物客がいなくて、魚屋のムッシューが「今日一番目のお客だよ」。
帰り道にふとこの光景どこかで見たことがある・・・と思ったら、8月のパリにそっくりだと気が付きました。パリジャンがこぞってバカンスに出発した後、特に8月15日のAssomotion(聖母被昇天祭)の祝日前後1週間は、観光地以外は商店もレストランも閉まり街は静まり返ります。
そのとき向こうから近づいてきた犬の散歩中のふたり組みのムッシューを思わず二度見してしまいました。マスクの形がおかしいしサイズも小さい。色もカラフル。なんと飛行機で貰えるアイマスクにしていたんです。マスクはどこも完売で、入荷しても本当に必要とする人のために健康な人はできるだけ買わないようにしましょうとも言われています。「なら、これでいいじゃん!」と、堂々とアイマスクを口にしてしまうところがフランス人らしい。中国でブラジャーのカップを加工するアイデアがありましたが、ないなら自作する日本人、そしてアイマスクを代用するフランス人。効果の程は分からないけど(?)案外盲点をついた良いアイデアかも!ガランとした街で思わず一人でニヤニヤしてしまいました。不安な日々の中でちょっと気分が軽くなった出来事でした。
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