
ケムリ研究室no.2 ☆砂の女
『砂の女』は、言わずと知れた安部公房の代表傑作な長編小説。
私にとっては原作小説以上に鮮明な思い出として残っているのが、パリ5区の古い映画館で観た1964年公開の勅使河原宏監督による映画作品です。
フランス語を習い始めた当時、語学学校通いで毎日の予習復習+宿題がしんどく、自宅でもTV・ラジオも日本語禁止にしていたので、おもいっきり日本語に飢えていました。
日本語が聞きたい…浴びたい…と渇望していたその時、目の前の古びた映画館の上演看板『砂の女』という日本語に気持ちがホロっ。
砂漠の真ん中で出会ったオアシス気分、引き込まれ、その映画を全集中で観ました。
「砂の女」役を演じていたのは、岸田今日子さん!
(他のキャストは知らない方ばかり…)
そんな思い出深い作品の舞台ということで、これは是非!
と世田谷パブリックシアター「シアタートラム」で上演中の『ケムリ研究室no.2 砂の女』を観に行ってきました。
「ケムリ研究室」とは、劇作家、演出家、音楽家のケラリーノ・サンドロヴィッチさんと女優・緒川たまきさん(お二人はご夫婦)が企画、キャスティング他、多くのパートを二人三脚で担う演劇ユニット。
今回の舞台もほぼ原作通りの展開でしたが、改めて深く面白く、アリ地獄のようにズブズブとハマるストーリーに簡単には語りつくせない感慨深さがジワジワと広がる素晴らしいお芝居でした。
女を演じたのは、緒川たまきさん。
男を演じたのが、仲村トオルさん。
シリアスでシニカルな展開の中で、ケラリーノ・サンドロヴィッチさんらしい「間」や繰り返しが面白く、幾度も私は(客席全体も)必死に笑いを堪えました。
そして緒川たまきさんは声が綺麗で、いくつになっても色褪せない透明感を放っていました☆
(チケットぴあオフィシャルサイトより↓)
海辺の砂丘に昆虫採集にやって来た男が、女が一人住む砂穴の家に閉じ込められ、様々な手段で脱出を試みる物語。
そんな奇妙な設定に小説なら読者、映画・舞台なら視聴者は最初は非現実的で「え?」と感じると思いますし、突然閉じ込めれた男の怒りや行動は、ごく自然で当たり前に感じます。
なのに男は、いつからか不自由で理不尽な砂の世界での生活に馴染んでいく…。
その結果、自由になれるチャンスがあっても、それを欲しなくなってしまう。なぜ?
人は不自由な中で文句を言いながらの方が少し楽な生き方で、全ての責任も負う覚悟で掴む自由は怖いのかも?
また、本作の中では「部落」と呼ばれる田舎で生きていくことの大変さ、東京(都会)にはない感覚、その対比で感じる良し悪しは両方を知っている私には沁みました。
男女のドロッとした部分もあり。
自分は社会的に認められ、家族に求められる存在だと信じていたのに実際は…な世間。
砂一粒は小さい存在なのに、大きな流れの中で、ある時は全てを飲み込み、押し流してしまうほど脅威的なものになってしまう。
私には「砂の女」はまだまだ難解です。
今回の舞台で20代、30代の時にはない感想も持ちましたし、きっと今後の人生でも変わってくると思うので、生涯を通じて繰り返し触れて考えたい作品です。
そして今回知ったのですが、原作「砂の女」は、1968年にフランスで1967年度最優秀外国文学賞を受賞。
改めて、これは世界に誇れる素晴らしい近代日本文学!
最後に。この日、観客席には男性の方が多くてちょっと驚きました。
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パリの1枚。
全体的にグレーだったある日。
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