能オペラ「王女メディア」
1週間前のことになりますが、荒川区のサンパール荒川で開催された
「あらかわ創造舞台芸術祭2015」に行ってきました。
(以下の舞台画像・能面はパンフレット及び荒川区芸術文化振興財団より)
西洋芸術のオペラと日本伝統芸能の能の融合をわかりやすく試行する大胆な企画公演。
プログラムは第1部がオペラで「セヴィリアの理髪師」の「陰口はそよ風のように」、
「カルメン」の「ハバネラ」、「椿姫」の「乾杯の歌」などのとても有名オペラから
特に人気のある曲をオペラ歌手が歌うことで、まずは「オペラ」というものを感じ、
第2部が「能楽」の「高砂」、「猩々」などの上演でした。
私は「能」や「謡」を鑑賞するのは初めてだったので、どんなものか?楽しめるのか?と
ちょっと不安に思いながら観たのですが、これが想像以上に面白く、退屈しませんでした。
「猩々」(しょうじょう)は、中国・唐の時代のお話。
昔、高風という親孝行な青年がいました。
ある夜、「市に出て酒を売ればお金持ちになれる」という夢を見た高風は、夢のお告げ
の通り市で酒を売り始めると、商売はうまくいき、どんどんお金持ちになっていきました。
いつも高風からお酒を買っていく者がいたのですが、その人はどんなにお酒を飲んでも
顔色が変わりません。
名前を尋ねると、水中に住む「猩々」(しょうじょう)だと答えました。
ある日、高風は川岸に酒壺を置いて猩々が来るのを待っていると、猩々が現れ、
猩々は友の高風に逢えた喜びを語り、酒を飲み、舞を舞います。
そして心の素直な高風を称え、今までの酒のお礼として、酌めども尽きない酒の泉が湧く
壺を贈った上で、酔いのままに寝てしまいます。
猩々は、いつもお酒を飲んでいるので全身真っ赤で陽気に舞を舞うお酒の妖精。
(真っ赤で舞う猩々の舞いは素敵で見惚れました♡)
秋の夜更けに酔っぱらってよろめいた高風は、これが夢の出来事だったと気がつきます。
でも、どこからが夢だったのか?確かに猩々からもらった酒壺は手元にある...。
その後高風の家は長く栄えた、というハッピーエンドな能でした。
こうして1部で西洋文化のオペラを聴き、2部で日本最古の舞台芸術「能楽」を鑑賞し、
最後の3部に続きました。
それが、新作「能オペラ」の「王女メディア」。
能とオペラの融合した新しい舞台芸術で、エウリピデスによるギリシャ悲劇
「王女メディア」を作曲家・田淵大次郎氏が1幕オペラとして作曲したもの。
能舞台のかわりに砂を敷いた丸い舞台に、場面の切り替えごとに上から一筋の砂が音も
無く流れ落ちる能らしい研ぎ澄まされた印象的な演出。
舞台向かって右手には和装の4人のオペラ歌手が室内楽に合わせて歌いました。
「王女メディア」は有名なオペラ歌手マリア・カラス主演のパゾリーニ映画でも知られて
いる愛憎ドロドロ、怒り、憎しみ、悲しみいっぱいのギリシャ悲劇。
(↓なぜか自宅にあった王女メディアのDVD。今度観てみようと思います。)
ざっくりなストーリーは、コルキス(黒海東南)の王の娘、メディアは黄金の雄羊の毛皮を
求めてやってきたイアソンと恋に落ち結婚♡
イアソンはメディアに助けられ黄金の毛皮も手に入れ、ふたりはコリントスへ亡命します。
その後、イアソンはメディアがいるにも関わらず、コリントス王の娘を妻に迎え、
しかもメディアは追放されることになります。
メディアは夫の裏切りに激しい怒りを覚えるのでした。(あったりまえです!!)
メディアは夫に復讐するため、コリントス王とその娘に毒を塗った金の薄衣を贈り毒殺、
更に自分とイアソンの間にできた子供をも殺す計画を立てます。
しかし、我が子を殺めることに悩み苦しみ、何度も思いとどまろうとしますが、
結局イアソンへの怒りと復讐心が勝ち、自分の子供も殺してしまうという悲劇です。
この能オペラの「メディア」と「メディアの亡霊」の2つの面を作成したのが、
漆芸作家の吉野貴将氏。
舞台上では、メディアと亡霊のメディアが同時に妖しく、美しく、恐ろしく、舞いました。
とにかく「能」を鑑賞するのが初めての経験だったので、動きの作法もわからず、
感想らしい感想も持てませんが、瞬きも忘れてオペラグラスでジーーっと見ていると、
その能面の表情はオペラの歌詞と重なり感情がどんどん変わって見えたり、ちょっと
うつむいた時にできる陰影でまた表情が変わって見え、左半分と右半分でも顔が違って
見えたりしたのがとても不思議で印象的した。
(↓メディアの面)
そして衣装がスゴイ!
遠目にも美しく、歌舞伎などで観る着物とはまた全然違ったものでした。雅!
能は難しくて高尚過ぎて私には無理だと思っていたものの一つですが、今回はわかり
やすいストーリー性のあるものだったこともあり、とても楽しく鑑賞することが
できました。
(↓こちらはメディアの亡霊の面)
プロジェクトの企画・構成を担当したオペラ歌手志田雄啓氏(舞台ではテノール担当)
によると、「能とオペラ」のコラボレーションを元に「日本人の美意識に基づく、
新たな舞台芸術」を作り上げていこうという企画で、参加者全員が能楽のレッスンを受け、
その美意識を共有した上で「日本人の美意識に基づく新しい舞台芸術の創造」を目指す、
という「あらかわ舞台芸術創造プロジェクト」。
オペラとの融合という試みもユニークで、きっとこういう舞台芸術はパリでも
受け入れられるのでは?と思いました。
また機会を見つけて、能や能オペラを鑑賞したいと思います。
おまけのパリは、「サンジェルマンにオープン♡」をBelle et Bonneで☆
⇒ http://belleetbonne.blog.fc2.com/blog-entry-561.html
à demain(^.^)/~~
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荒川区芸術文化振興財団
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