花で紡ぐパリの日常。

ミモザを訪ねて、南仏イエールへ。(2)

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翌日、イエールからまたも足を伸ばし、海を渡ってポルクロール島へ。このポルクロール島、私たちにはあまり耳馴染みのない地名ですが、ヨーロッパで一番美しい浜辺に選ばれたこともあり、毎年夏になればヨーロッパの人たちが押しかけて大賑わいになるのだそうです。
イエールからバスでトゥール・フォンデュという要塞のある岬へ行き、そこからフェリーに乗って20分程で到着します。

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もともと今回のバカンスでは、ミモザ探訪を目的にイエールを選んだのですが、イエールについて調べているうちにこの島の存在を知り、絶対に行きたい!と猛プッシュしました。その大きな理由が、この島が、ジャン=リュック・ゴダール監督の映画『気狂いピエロ』のロケ地になっていたことを知ったからです。
私が15歳のころ、地元の小さなレンタルビデオショップでゴダール作品に出会いました。(その頃はもちろんNetflixなんてなかったのです。)初めて観たのは『アルファヴィル』。その作品に大きな衝撃を受け、熱に浮かされたかのように慌てて次に借りたのが『気狂いピエロ』だったと記憶しています。そしてこの映画のラストのセリフが、映像と相まってあまりに美しく、思わず手帳に書き留めていました。
そのセリフは、かのランボーの詩『永遠』から引用されたものだと知ったことが、私がフランス文学、ひいてはフランス文化への興味の扉を開くきっかけになったのでした。(ちなみにゴダール映画中の詩の引用は他の作品にもみられ、例えば『アルファヴィル』はポール・エリュアールの詩を多く引用しています。『アルファヴィル』は私の人生で最も好きな映画の一つに、そしてエリュアールは最も好きな詩人の一人になりました。)
そういった訳で、私が初めて映画で観たときから20年、そして映画の公開年である1965年から数えれば55年以上の時を経て、初めてポリクロール島に降り立ったのでした。

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島は自然保護のため車やバスは禁止されていて、移動は徒歩か自転車のみ。他の多くの観光客同様、私たちも島の入り口でレンタルサイクルをして、プラージュ・ノートルダム(浜辺)へと漕ぎ出しました。周遊路は小さなアップダウンを繰り返す道で、普段運動不足の私は少し筋肉痛になるほどでしたが、息子は夫の自転車の後部座席でスヤスヤと寝息を立てていました。イル・ド・レへ行った時もそうでしたが、彼は自転車の後部座席に座るとスコンと眠ってしまうようです。

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島の周遊路には、自転車を止めて浜辺へ降りるポイントが何箇所かあります。私たちもしばらくサイクリングを楽しんだ後、(息子を起こし、)浜辺へ降りていきました。
海から空へと、どこまでも透き通る、混じり気のないブルーのグラデーションは、55年前にも同じようにここにあったのでしょうか。少女時代に憧れていた、映画の中の、名前も知らなかった遠い場所に、35歳になった自分が立っていること、しかも小さな息子の手を引いていることなんて、当時の私には想像すらつかないでしょう。人生とは本当に予測できないもので、だからこそ、とても面白いものです。

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そんな感慨に耽ったのも束の間で、あとはただ、目の前に広がる美しい景色に、時を忘れてぼんやりと見入っていました。息子は海に向かって石ころを投げる遊びがいたく気に入った様子で、「ぽいっぽいっ」と言いながら、延々と石を投げていました。
ふと時計に目をやると、あっという間に三時間以上も経っていて驚きました。帰りのフェリーの時間が迫っていたので、慌てて荷物をまとめて自転車に乗り込みました。

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フェリーのデッキに座っていると、潮風が心地よく、眠りそうになりました。「見つかった?何が?永遠が。海に溶け合う太陽が」(アルチュール・ランボー『永遠』より)ちょうど映画のラストシーンに流れていたこの一節を思い出させる夕陽が海へ沈んでゆく頃、バスに揺られ、イエールに帰ってきました。

―(3)へ続く―

守屋百合香

フラワースタイリスト
パリのフローリストでの研修、インテリアショップ勤務を経て、独立。東京とパリを行き来しながら活動する。パリコレ装花をはじめとした空間装飾、撮影やショーピースのスタイリング、オンラインショップ、レッスン、コラム執筆などを行う。
Instagram:@maisonlouparis
www.maisonlouparis.com

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