花で紡ぐパリの日常。

48°Nord−アルザスのサウナとヒュッゲな時間

日本に一時帰国していた5月、ファッションウィークの6月を駆け抜けて、日常に戻ってきました。
マルシェで食材を買い込み、朝、いつものパワーサラダ(と呼んでいる、単に好きな食材を好きなだけ盛り合わせたサラダ)、オーツミルクのカフェオレ、クロワッサンが食卓に並んだ瞬間、いつもの風景、いつもの暮らしが帰ってきたことを実感して、幸せが込み上げてきます。
マグカップでカフェオレを飲みながら、嵐のように過ぎ去った日々を振り返っていると、春に旅したアルザスの記憶が蘇ってきました。

4月のイースターの頃。朝から支度して、家族でTGVに乗り、フランス北部へ向かいました。

下車したのは、Strasbourg(ストラスブール)駅。老舗のパティスリーも多く、パティシエである夫が好きな街で、気がつけば毎年のように訪れていますが、今回の最終目的地はStrasbourgからさらにローカル電車で行ったところ。

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その乗り継ぎの2時間ほどの間に、毎回寄るお馴染みのビストロAU BRASSEURへ駆け込み、タルト・フランベ(紙のように薄く焼いたピザ)とシュークルートを一瞬でペロリと平らげました。
イースターといえば、アルザス地方では「パスカル・アニョー」という子羊を模ったシンプルな焼き菓子が名物なのですが、この日は夫お目当てのパティスリーは軒並みお休みだったので、通りがかりのパン屋でパスカル・アニョーを手にいれました。素朴な味で、長く愛されるのがわかります。

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Strasbourg駅からTERに乗り継ぎ、20分弱。Sélestat駅に到着してから、さらに車で30分ほど行ったところにある、Hotel 48°Nordが、今回の旅の目的地です。どこかへ観光するわけでもなく、ただここで心身を充電するためにやってきた場所。

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自然と調和するミニマムな建築が美しい宿は、北欧の「hyugge(ヒュッゲ)」の精神と、アルザスの自然とが融合した最高の隠れ家です。ひと組ごとに貸切のコテージのテラスに立って、丘からの景色を見下ろすと、自然の中にすっぽりと包まれているよう。

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私たちが宿泊したコテージ「Fjell Hytte」は丘の頂上にあり、レセプションのある建物からはカートに乗って向かいます。どんな室内なのかと期待を膨らませコテージのドアを開けると、究極にシンプルでコンパクトながらも、洗練されていて過ごしやすい白木の空間。

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寝室、サロン、そして、それぞれのコテージについているサウナとジャグジーバスが特徴です。

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宿の方から、「豪華な設備ではないけれど、世界一のサウナです」と言われたサウナ。実は、私はこれが初めてのサウナ体験、いわゆる「サ活」なのでした。
サウナというと、暑くて狭い室内で汗をかく、息苦しそうというイメージだったのですが、いざ体験してみると全く閉塞感はなく、むしろ強く感じたのは「広がり」でした。
発汗して、水滴が皮膚の上を流れていくのに意識を向けながら窓の外を眺めていると、雄大な自然と、身体との境目がぼんやりしてきて、世界と自分が曖昧につながっているのを感じます。
遠い、穏やかな緑の稜線、空をたゆたい常に形を変え続ける雲、風に揺れる眼前の木々、そういった自然の呼吸と、自分という個体の呼吸が呼応しているようで、身体が呼応しているようで。その感覚だけに身を任せていられる時間がとても贅沢でした。

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砂時計が15分の経過を教えたら、コテージ外にあるジャグジーバスで汗を流し、またサウナに戻る流れの繰り返し。息子はサウナには入れませんが、ジャグジーバスで延々と遊んで、大喜びでした。

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心身癒されたあと、敷地内を散策していると、菜園が見えました。
この宿のもうひとつの魅力は、食。シェフのFrédéric氏は地産地消にこだわっていて、(カフェや紅茶を除き、)この菜園をはじめとして、宿から50キロ以内の場所で取れた有機食材しか使わない(だから例えば、カカオなどは使わない)のだそう。
夕食時にもらったメニュー表にも、食材の産地と、それはここから何キロメートルのところかが明記されているほどの徹底ぶりでした。

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身近な食材が、独創的な手法によってアートに昇華される光景を、見て、味わったコース。普段、幼い息子と一緒にコース料理を食べる機会はほとんどないので、非日常のひとときでした。

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満腹で幸せな眠りから覚めると、朝靄のなか美しく浮かぶ風景が眼前にありました。カフェマシーンでエスプレッソを淹れテラスに出ると、カフェがあっという間に冷めてしまう、山の朝の冷気。肌寒さとカフェの苦さが、一日の始まりを身体に知らせてくれます。

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束の間の滞在でしたが、心身ともにリセットできました。そして以前よりも少し、軽やかに、そして足裏に地を感じながら生きていけるような、力をもらった旅でした。

守屋百合香

フラワースタイリスト
パリのフローリストでの研修、インテリアショップ勤務を経て、独立。東京とパリを行き来しながら活動する。パリコレ装花をはじめとした空間装飾、撮影やショーピースのスタイリング、オンラインショップ、レッスン、コラム執筆などを行う。
Instagram:@maisonlouparis
www.maisonlouparis.com

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