花模様がいっぱいの展覧会、コンピエーニュ城にでかけよう。
Paris 2013.07.03
大村真理子の今週のPARIS
フランスでヴェルサイユ宮殿、フォンテーヌブロー宮殿に次ぐ人気を誇るといわれるコンピエーニュ城。最寄りのコンピエーニュ駅まではパリ北駅から直通電車で45分、そして駅から徒歩約15分で城に着く。
地図を見ると一目瞭然だが、城の後方に巨大な森が広がっている。ウィーンから嫁いできたマリー・アントワネットが夫となるルイ16世に初めて対面したのが、この森の中の橋のたもととか。シャルル13世が14世紀に城を建てさせ、その後、フランスの歴代の王たちは狩猟のためにコンピエーニュを訪れては、このコンピエーニュ城に宿泊したのだ。18世紀後半に建物は改築され、さらに19世紀初頭、ナポレオン1世がこの城を居住用にと大改装した。
ナポレオン1世の妻ジョゼフィーヌのための寝室や、ウージェニー皇妃の茶話室やら、豪華な城内を見学できる。画家ジロデが19世紀初頭の改装にかかわっていて、彼の筆による天井画、絵画などをみることもできる。
この城が最も華やかだったのは、第二帝政期(1852~1870)である。この場所をとりわけ愛したナポレオン3世(1世の甥)とウージェニー皇妃は、毎秋1か月間、週替わりで海外の皇室、外交官夫妻、芸術家など100名近くを滞在させ、その間頻繁に、狩猟、コンサート、そして舞踏会を催したのだ。パリを離れ、皇帝夫妻とゲストは無礼講でこのお祭り月間を楽しんだという。第二帝政期のファッションは、クリノリンでスカートを膨らませたドレスが文字通り幅を利かせていた時代である。そして、オートクチュールの始まりの時代でもある。舞踏会はさぞ華やかだったに違いない。
額の女性がウージェニー皇妃。揶揄されるようなエピソードを残さなかったせいか、マリー・アントワネットに比べると知名度が低いが、当時のファッション・リーダー的存在である。
「テキスタイル・クレージー」展より。(左)花模様をプリントした1860年ごろのシルクのソワレ。©Conseil Général de la Nièvre (中)1867年ごろのデイ・ドレス。©RMN-Grand Palais(domaine u Palais de Compiègne) Stéphane Maréchalle (右)1865年ごろのカシミアの室内着。紫は第二帝政期に生まれた新しい色。©Musée de l'impression sur Ettofes/ photo David Soyer
現在コンピエーニュ城で10月14日まで開催の「テキスタイル・クレージー 第二帝政期のモードとインテリア」が面白い。当時のドレス、家具、布地、絵画、写真など200点近くを3部構成で展示している。この時代、テキスタイルは富かさのシンボルで、布はドレスに使うだけでなく、室内の家具も壁も布で覆って、富を競ったそうだ。こうした大量の需要に応えるべく織物の工業化が進み、技術開発もされ......。
展示より。(左)パリのエリゼ宮のために作られたウージェニー皇妃のベッド。第二帝政期でもっとも美しい寝台といわれている。(中)暖炉の被い、椅子、カーテン、壁......なんでも布で被った時代だ。(右)ソファーのカンバセーションが生まれたのも、この第二帝政期だ。
ミリタリーのユニフォームをあしらった第二帝政期の屏風。まるでオランピア・ル・タンの作品ようにモダンだ。
世界で最初のデパートといわれるボン・マルシェが生まれたのは第二帝政下、1852年である。ドレスはそれまで女性の嗜好、身体に合わせて作られていたが、最先端の商売をするボン・マルシェではプレタの前身ともいえるドレス・キットを発売した。これはドレスの民主化第一歩だ。それと並行して、クチュリエが提案をするというオートクチュールの歴史が始まる。クチュールの創始者といわれるフレデリック・ウォルトがメゾンを開設したのは、1858年。コンピエーニュ城で開催される舞踏会のため、彼は何着をこしらえたことだろう。このおかげで、リヨンの絹織物業界は多いに潤うことになった。
展示より。(左)レースが機械織りされるようになった時代である。(右)キット販売されたドレスの例。
(左)ウージェニーの下着類。(右)1867年、焼失し今は存在しないチュイルリー宮での公式パーティの光景。©RMN-Grand Palais( domaine de Compiègne)/DR
テキスタイルの歴史における華やかな時代をこの展覧会でみることができるのだが、そうした説明抜きに、モードとインテリアの美しい展示品を眺める楽しみがある。新しい色ヴァイオレットがこの時代に生まれ、マリー・アントワネットを見本にしていたユージェニー皇妃の18世紀嗜好がみられる花や植物の刺繍やプリント......。この時代に機械化が進んだレースを見るのも興味深い。インテリアにおいては、この時代、ブルジョワの家庭では、家具配置の礼儀を無視して不揃いな椅子で応接間を飾ったりというモダニティがあったそうだ。
展示された布見本から、この時代におけるモチーフのモダニティ、染色技術の発達、織物技術の進歩などが見て取れる。
庭のバラ園の向かいには、軽食がとれるティールームもある。パリのある朝、晴天だったらコンピエーニュへと半日の旅に出るのも悪くないのでは。
食器類がとてもチャーミングなティールームSalon du thé du Jardin des Roses。ランチプレートは11.50ユーロ。お菓子とお茶のセットは7.5ユーロ。
Palais de Compiègne
Place du Général de Gaulle
60200 Compiègne
Tel:03 44 38 47 00
営)10時~18時
休)火曜
入館料 9ユーロ
www.musee-château-compiegne.fr