ドロテ・ジルベールとジェームス・ボルトの素敵な関係。

二人の出会い

2013年、オペラ座のエトワール、ドロテ・ジルベールをエジェリーに、レペットの初の香水の広告キャンペーンの撮影が行われた。カメラマンは当時モード界で写真家として、映像アーティストとして頭角を表しはじめていたジェームス・ボルト。この撮影で出会った二人は結婚し、二人の間には現在4歳の愛らしい女の子がいる。彼のインスタグラムのフォロワーは、最近彼が投稿したドロテ・ジルベールの写真に添えられたメッセージに目をとめたのではないだろうか。「僕が撮影する君の写真は、毎回が君への愛の告白」!!!

女性として、ダンサーとして、母として充実した日々を送るドロテ。彼女はジェームスに導かれ、女優業にも一歩踏み出したところだ。しかも、共演者にカトリーヌ・ドヌーヴを得て! タイトルは『Naissance d’une étoile(エトワールの誕生)』で、18分の短編作品。ジェームスの初の映画監督の仕事であるから、夫婦一緒に新しい冒険に乗り出したことになる。彼にこの初体験について、話してもらおう。

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ドロテ・ジルベールをフィーチャーした短編のポスター©Fulldawa Films

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映画監督デビューしたジェームス・ボルト。MIYAVIを含む、ピアジェが選んだ世界の9人の男の撮影も彼の仕事だ。©James Bort Factory

初の映画監督作品

「僕とドロテのことを知るプロデューサーから、この短編の提案がありました。エトワールに任命される直前のダンサーが妊娠を知る……選択を前に、今日の女性はどうするべきか、というシノプシスが気に入って引き受けました。女性について語りたい、とちょうど思っている時で、女性の葛藤、戦いを語れる! と。とても良いタイミングで舞い込んだ提案だったのです 。長さが18分というのは、フェスティバルに参加する際の基本の長さ。短編というのはコンペティションなどで上映されるものなので、長編作品のようには一般の人向けではないんです」

芸術監督役はカトリーヌ・ドヌーヴが演じるのがいい、と思った彼。会ったことなど一度もないけれど、プロデューサーが彼女にシナリオを届け、その結果、出演承諾を得ることができたそうだ。初作品にしてドヌーヴを監督し、指示を出す……。

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『Naissance d’une étoile』のヒロイン、エマを演じるドロテ・ジルベール(右)とオペラ座の芸術監督を演じるカトリーヌ・ドヌーヴ。©Fulldawa Films

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撮影中、ドヌーヴにシーンの説明をするジェームス。©Fulldawa Films

「そうです。彼女だって他の俳優たちと同じように、撮影現場でそれを期待してるんです。仕事が好きで、チャレンジをしたいと思って参加をしているのだから、崇拝の気持ちで尻込みしてる監督など期待していません。彼女に対して、ノンという必要もありました。あとで、もっと彼女をプッシュすればよかった、って思ったほどです。彼女は素晴らしいですよ。すべてが見通せていて、言葉のひとつひとつ、フレーミング、小道具……何事にも適切な意見を持っています」

予算も限られているし、撮影にオペラ座が使えるのは4日間。日頃は時間をかけて作業をするのを好む彼なので、4日という短期間はいささかフラストレーションであるとはいえ、オペラ座のダンサーの物語なので、他の劇場での撮影などは論外である。この4日間、何ひとつエラーは許されない。シナリオは半年かけて推敲してあり、それぞれの人物像については俳優たちと練ってあったが、さらにカメラ担当、照明担当、衣装担当といったスタッフ全員と入念なミーティングをしてから撮影に臨んだそうだ。こうすることで、彼自身は現場で俳優の仕事に集中ができる。これで、準備万端! と思いきや、撮影前日にジェームスがパニックを起こすような事が起きてしまった。今となっては笑って語れるが……。

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楽屋でのドロテも映画のワンシーン。©Fulldawa Films

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バレエ・マスター役はピエール・ドゥラドンシャン。2014年、『湖の見知らぬ男』でセザール新人男優賞を受賞し、その後も『ジャンの息子』の主演でセザールの最優秀男優賞にノミーネートされるなど、演技派の俳優だ。©Fulldawa Films

「冒頭シーンで主人公エマが着る赤いドレスです。僕のイメージはバレエ『オルフェとユリディス』でヒロインが着る赤いドレスで、これを使う予定をしていました。撮影前日にふと、バレエ作品の衣装を映画に使うのは著作権の侵害になるのではないかって……。早速確認したところ、まさにその通り。あわてて映画の衣装担当者があちこちのブランドで赤いドレスを探したものの見つからず。もっと早くに気がついていたら、似たようなドレスを作ってもらうこともできたのだけど……それで、2年くらい前にドロテがニューヨークで買った私物を使うことになりました。『オルフェとユリディス』のは袖があるのに対し、10ドル程度のこちらの赤いドレスはノースリーブ。肌がよく見えて、結果的にはこちらを使ってよかった、と思っています」

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カトリーヌ・ドヌーヴ、ドロテ・ジルベールと共に。©Fulldawa Films

ラヴェルの『ボレロ』の音楽が流れる中、赤いドレスを着たドロテを中央に据え、グラフィックでとても印象的なシーンから映画はスタートする。そのシーンのデザインも彼自身によるものだという。

「妊娠を想起させる要素として、球状のランプが欲しいと思ったんです。5つのテーブルにそれぞれランプを置いて、中央にはドロテがひとり。コール・ド・バレエではなくエトワールはひとりで踊ること、孤独、放棄……といったイメージです」

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映画の冒頭シーン。©Fulldawa Films

スタートはブログ

始めたての映画監督業。当然ながら、まだまだ学ぶことがたくさんあるという。が、 好奇心に導かれて仕事の領域を広げ続けている彼は、映画に限らず何事についても独学なのだという。画家の父の影響を受け、とても幼いころからデッサンしたり、絵を描いたり、芸術への興味を抱えていた彼は、11〜12歳のころにすでに自分はパリの美大で学ぶ! と心に決め、それを実行した。無縁だったモード界を知るのは、卒業後のことだ。

「10年くらい前、ファッションのブログをやっていた女友達がいて、ブログってなに? と興味をそそられて僕も始めたんです(http://www.jamesbort.com)。小さなカメラを抱えて、街に出て行って、文章も書いて。こうしてモード界と接することになって……。ガランス・ドレやサルトリアリストのような感じですね。まだブロガーの走りの時代で、インターネットやファッションなど知らない世界を発見できたのはすごくうれしかった。ブログを始めてすぐにディオールの人と知り合ったんです。それでオートクチュールのアトリエを見る機会に恵まれ、職人の手仕事などを撮影し……こうして信頼を得て、ジョン・ガリアーノに紹介されました。彼のショートムービーを撮って、と、これがきっかけとなって、パリのさまざまなメゾンでクチュリエのポートレート、アトリエ仕事、デフィレなどを撮影するようになりました」

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オペラ座のリハーサルスタジオで、撮影の合間に出演者と談笑するジェームス(左)©Fulldawa Films

イヴ・サンローランは香水マニフェストの発表に際して、当時ブロガーだったジェームスにビデオクリップを白紙委任している。彼の創造性がどれほど優れたものか、このことから簡単に想像できよう。単なるカメラマンではなく、スチールにしてもビデオにしても自分の美意識と視点を生かしてアート・ディレクターも兼ねた撮影をする彼。今から9年前、クリエーションの自由を保つべく、彼は自分のプロダクションを設け、James Bort Factoryと名付けた。“ファクトリー”としたのは、1から10まですべてをつくりあげる昔風のアトリエのイメージから。彼のこのサイトでは、エルメス、バカラ、ピアジェなどリュクスなメゾンから依頼された仕事を多くみることができる。

「ブログの成功はとにかくあっと言う間のことで、早かった。これによって僕はリュクスやサヴォワール・フェールといった未知の世界を知ることができて……この当時、サヴォワール・フェールを語るブログは僕だけ。幸運でしたね。最近はモードにとどまらず、フィリップ・スタルクなどデザインの世界にも仕事は広がっています。でも、どんな分野にしても、僕が惹かれることに共通しているのは卓越ということです。ヘア・アーティストでいえば、ジャン・ノレがそうですし、オペラ座バレエ団のダンサーたちにも、卓越ということがあてはまりますね」

ダンスとの関係

オペラ座のダンサーのオフィシャル・ポートレートは、エトワール・ダンサーについては現在ジェームスに撮影が任されている。これは元芸術監督バンジャマン・ミルピエの指名によるものだ。昨年春には、『Etoiles』という写真集も発表している彼。ドロテとの出会いが彼とダンスとの出会いかと思いきや、それよりずっと前のことだという。

「携帯電話の会社から、新タイプの契約のためのプロモーションビデオの白紙依頼があったんです。ダンスにオマージュを捧げよう、というアイデアから、クラシック、ヒップホップ、タンゴなど異なる種類のダンスを1箇所に集めてフィルムをつくったところ、再生回数が何百万もあったんですね。で、このビデオの成功から、いろいろと仕事のオーダーが来るようになりました。その中に、ドロテと出会うことになる、レペットのキャンペーン撮影というのがあったのです」

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『Naissance d'une étoile』のリハーサル・シーンでは、イヴォン・ドゥモル、パブロ・ルガーザ、アントニオ・コンフォルティなどオペラ座のダンサーたちの姿もみることができる。©Fulldawa Films

≫ 後編へ続く

réalisation:MARIKO OMURA

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