10月のオペラ座公演の映像で、自宅をガルニエ宮に!
パリとバレエとオペラ座と 2020.10.24
10月5日、オペラ・ガルニエでバレエのプロセニアム公演が予定どおりに始まった。もっとも10月17日から21時以降の夜間外出禁止令が実施となったことに伴い、開演時間が19時30分より1時間前に早められることになったが、10月29日まで公演は続けられる。
新型コロナウイルス感染防止のため公演途中で中止となった、3月の『バランシン・プログラム』がバレエ団の先シーズンの最後の公演だったが、これはオペラ・バスティーユにて。ダンサーたちがガルニエ宮の舞台を踏むのは、2月の『ジゼル』以来のことである。劇場内、カップルは隣同士に並ぶことができるが、座席の基本は左右を空けて1人おきにチケットを販売。いつもなら大勢の観客で華やぐガルニエ宮だが、完売でも“櫛の歯が欠けた”状況という少々寂しい光景を呈してしまうのも仕方ないことだろう。
オペラ・ガルニエのエプロンステージ。背景の色、照明は作品ごとに替わる。生演奏で踊られる『エトワール・ドゥ・ロペラ』のために、前方の客席を取り払ってピアノが置かれている(10月半ば、背景が黒い紗幕に変更され、寂しいながらもエレガンスと高級感が少々プラスされた)。
10月の2つの公演『Étoiles de l’Opéra(エトワール・ドゥ・ロペラ)』『Rudolf Noureev(ルドルフ・ヌレエフ)』でダンサーたちが踊るのは、オーケストラピットの上に作られたエプロンステージ。彼らの出入りはステージ左右に設けられた階段か、舞台後方左右の衝立の後ろに隠された舞台裏に繋がるアクセスから。舞台装置は一切なく、灰色の舞台背景だけのごくシンプルなステージだ。このように限られた空間、そして昨年末から多数の公演がキャンセルされていることから察するに限られた予算。この中でダンサーたちの健康を守りつつ観客に提案できる最高のプログラムを考えるのは、芸術監督オレリー・デュポンにとって難行だったに違いない。リハーサルスタジオでも距離をとってダンサーたちは稽古をする必要があるので、プログラムを構成するのはソロとパ・ド・ドゥ。オペラ座バレエ団が持つゴージャスなイメージを期待してきた観客は少々肩透かしを食うが、毎晩、久々のバレエ公演を喜ぶ人々の熱い拍手で会場は満たされている。
演目すべてではないが、オペラ座がYouTubeに多数の映像をあげている。映像はどれも3分前後で、作品によっては半分近くを視聴できることになる。それらを自宅で鑑賞し、ガルニエの劇場の赤い座席でステージを見ている気分に浸ってみてはどうだろうか。
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ネオ・クラシック作品を集めた公演『エトワール・ドゥ・ロペラ』
1. アラスター・マリオット『Clair de Lune(月の光)』
公演のタイトルにふさわしくエトワール歴最長のマチュー・ガニオがプログラムのトップバッターだ。オペラ座のレパートリー入りしたこの作品。映像はリハーサルスタジオでの稽古を見せる。
リハーサルとステージの映像、そしてダンサーの語りで構成されたビデオ。月明かりの中に、メランコリー、ポエジーが優美に踊られる様子が垣間見える。
2. ハンス・ファン・マネン『Trois Gnossiennes(3つのグノシエンヌ)』
photo : Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris
エリック・サティのピアノ曲に乗せて踊るのは、リュドミラ・パリエロとユーゴ・マルシャン。無表情なふたりがぴったりと息の合った踊りを見せる作品だ。テクニック面の素晴らしさも観客を酔わせる。
3. マーサ・グレアム『Lamentation(ラメンテーション)』
ベンチに座ったまま奇妙な筒状のコスチュームの中でダンサーが表現するのは、不安や恐怖。オペラ座のバレエファンにはなじみの薄いグレアム作品である。エミリー・コゼット(写真)とセ・ウン・パクの2人が配役されている。photo : Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris
4. ウイリアム・フォーサイス『Herman Shmerman(ヘルマン・シュメルマン)』
リハーサルより。なお公演名はエトワールとうたっているが、この作品はふたりのプルミエ・ダンスールが踊る。photo : Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris
オニール八菜のドライな動きとヴァンサン・シャイエのウェットな動きがどことなく掛け合い漫才のようで、また途中ヴァンサンが黄色いスカートで登場することもあり、ユーモアを感じさせるパ・ド・ドゥ。前作の3分30秒の緊張からの解放感もあいまって、観客を喜ばせている。この作品のみ録音源を使用。
5. ミハイル・フォーキン『La Mort du Cygne(白鳥の死)』
リハーサルより。photo : Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris
リュドミラ・パリエロ(写真)とセ・ウン・パク(ビデオ)の2人が配役され、ピアノとチェロの生演奏で踊る。前者の優雅な死、後者による哀しみを深く感じさせる死。どちらも素晴らしい。
6. ジェローム・ロビンズ『A Suite of Dances』
photo : Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris
チェロ奏者オフェリー・ガイヤールの奏でるバッハの音楽に乗せ、まるで即興で踊っているように思わせる見事なパフォーマンスをユーゴ・マルシャンが見せる。彼のダイナミックな踊りを堪能するには、通常のステージより狭いのが残念だ。
7. ジョン・ノイマイヤー『 La Dame aux Camélias(椿姫)』
肺病に侵された高級娼婦と良家の青年が、人目のない田舎で存分に愛を語る第2幕の白のパ・ド・ドゥ。配役表とともに作品内容を解説するパンフレットが劇場内に用意されているので、このように物語性の高いバレエ作品からのパ・ド・ドゥを理解するのにはとても役立つ。ローラ・エケのパートナーはマチュー・ガニオ、そして最後の3公演はステファン・ビェリヨンだ。photo : Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris
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公演『ルドルフ・ヌレエフ』
1. 『くるみ割り人形』 第1幕のパ・ド・ドゥ
リハーサルより(写真は4番目に踊られる第2幕のパ・ド・ドゥ)。 『ドン・キホーテ』でヌレエフ作品を全幕で過去に踊っているドロテ・ジルベールとポール・マルク。プリンスを夢見る少女クララを踊るドロテの演技が、短いパ・ド・ドゥの中にも光る。photo : Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris
2. 『シンデレラ』 スツールのパ・ド・ドゥ
photo : Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris
リハーサルより。アリス・ルナヴァンがきらきら輝いてオーラを放ち、フローリアン・マニュネは優しさあふれるスターを演じ……珍しい組み合わせながら、バレエの物語に関係なしにパ・ド・ドゥに観客を引き込む上質の仕事が素晴らしい。photo : Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris
3. 『ロミオとジュリエット』 バルコニーのパ・ド・ドゥ
リハーサルより。photo : Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris
ミリアム・ウルド=ブラームとジェルマン・ルーヴェあるいはマチアス・エイマンによる、バレエのガラ公演でおなじみのパ・ド・ドゥ。ミリアムの失われぬ新鮮な魅力は、ジュリエットの高揚する恋心にぴったり。
4. 『くるみ割り人形』 第2幕よりパ・ド・ドゥ
クララが夢から覚める前の、ゴージャスなパ・ド・ドゥ。プルミエ・ダンスールに短期間であがり、パ・ド・ドゥのポルテ経験が浅いポールをドロテが素晴らしくリードする。photo : Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris
5. 『ドン・キホーテ』 第3幕よりパ・ド・ドゥ
衣装を着けてのリハーサルより。photo : Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris
ヴァランティーヌ・コラサントとフランチェスコ・ムーラはともにガラ公演『パリ・オペラ座バレエのイタリア人たち』のメンバー。オペラ座ではこれが初めてだが、ふたりで組むことが多いのだろうと感じさせる、素晴らしいパートナーシップを披露する。彼らの圧倒的なエネルギーと強靭なテクニックに会場が沸きに沸く。
6. 『白鳥の湖』 第2幕のパ・ド・ドゥ
リハーサルより。photo : Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris
アマンディーヌ・アルビッソンとオードリック・ベザール。互いに相手をベストパートナーと認めるふたりは、息のぴったりと合った安定した踊りを見せる。photo : Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris
7. 『マンフレッド』
photo : Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris
詩人バイロンが書いた、自分が愛するすべてを破壊してしまうという呪うべき運命を背負ったマンフレッド。そこにヌレエフがバイロン自身の人生も混ぜあわせて創作をした。マチアス・エイマンが長い休養から復帰した際に踊った、彼にとっては思い出深い作品なのだろう。深みのあるパフォーマンスで観客の心をつかむ。ジェルマンと交代でマチアスが『ロミオとジュリエット』を踊る公演では、フランチェスコ・ムーラがこの作品を踊る。大抜擢である。
8. 『眠れる森の美女』 第3幕よりパ・ド・ドゥ
photo : Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris
オーロラ姫とプリンスの結婚の祝宴で踊られるパ・ド・ドゥ。レオノール・ボラックとジェルマン・ルーヴェのスイートな若々しさを、ピンクとブルーのパステルカラーの衣装が強調する。
公演『ルドルフ・ヌレエフ』はダンサーの降板により10月半ばから10月26日まで『眠れる森の美女』がプログラムから外れた間、演目の順序が次のように変更された。
1.『くるみ割り人形』第1幕のパ・ド・ドゥ
2.『シンデレラ』スツールのパ・ド・ドゥ
3.『マンフレッド』
4.『くるみ割り人形』第2幕のパ・ド・ドゥ
5.『ロミオとジュリエット』バルコニーのパ・ド・ドゥ
6.『白鳥の湖』第2幕のパ・ド・ドゥ
7.『ドン・キホーテ』第3幕のパ・ド・ドゥ
公演『エトワール・ドゥ・ロペラ』はダンサーの降板により『Herman Shmerman(ヘルマン・シュメルマン)』がプログラムから外れたため、最後の2公演は演目の順序が次のように変更された。
1.『Clair de Lune』
2.『Trois Gnossiennes』
3.『Lamentation』
4.『La Dame aux Camélias』
5.『La mort du cygne』
6.『A Suite of Dances』
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madameFIGARO.jpコントリビューティング・エディター
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。フリーエディターとして活動した後、「フィガロジャポン」パリ支局長を務める。主な著書は『とっておきパリ左岸ガイド』(玉村豊男氏と共著/中央公論社刊)、『パリ・オペラ座バレエ物語』(CCCメディアハウス刊)。
Instagram : @mariko_paris_madamefigarojapon