オペラ座のシャネル、ガラ、そしてユーゴ・マルシャン その2 デフィレで幕を開けたオープニング・ガラ。

オープニングガラは恒例のデフィレで開幕した。学校の生徒たち、そしてカンパニーのダンサー全員がオペラ・ガルニエの絢爛たるステージに一堂に会するデフィレ。最初は女性、次いで男性という順序で、どちらも生徒たちは低学年から、ダンサーたちはカドリーユから行進を始める。ただステージ上を彼らが歩くだけの毎回同じ演出ながら、美しく感動的である。ステージ裏の鏡とシャンデリアの間であるフォワイエ・ドゥ・ラ・ダンスまで舞台を広げて、という会場の美しさもさることながら、エレガンスを第一義にするフレンチスタイルを学ぶ生徒、学んだダンサーたちは歩く姿だけでも絵になるのだ。世界中、バレエカンパニーは数あれど、これほど美しいデフィレを実現できるのはパリ・オペラ座ならではだろう。

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全員がマスクをつけたデフィレ。公演はl’opéra chez soi にて無料配信(https://chezsoi.operadeparis.fr/ballet/videos/gala-d-ouverture)。photo : Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

今回のデフィレは演出上ダンサー間のソーシャルディスタンスがとれないことから、全員がマスクをつけての行進。ビジュアル的に人々の記憶に残る特殊なケースとなった。舞台に新しい人が登場するたびに観客席からは大きな拍手が起こり、ソリストたちに贈られるブラボーの嵐が雰囲気を盛り上げるのが通常のデフィレである。無観客、無反応のデフィレはダンサーたちにもいささか物足りないものとなったのかもしれない。もっとも昨年10月に開催された『オペラ座のエトワール』『ヌレエフ』の2つの公演でソリストたちはオペラ・ガルニエで踊っているが、2月の『ジゼル』以来この舞台を踏んでいないコール・ド・バレエのダンサーたちにとっては、マスク&無観客にせよ喜びの瞬間だったに違いない。

この日のプログラムは、『グラン・パ・クラシック』のパ・ド・ドゥというクラシック作品からスタートした。シャネルによる衣装を着けて華やかに舞台に登場したのはユーゴ・マルシャンとヴァランティーヌ・コラサント。前シーズンの開幕ガラではドロテ・ジルベールをパートナーに『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』を踊ったユーゴは、超技巧を披露して会場から拍手喝采を浴びた。ヴァランティーヌは文句のつけようのないテクニックで『ドン・キホーテ』を踊り、オレリー・デュポン芸術監督がエトワールに任命しないわけにはいかなかった、というエピソードを持つダンサーである。そんなふたりによる『グラン・パ・クラシック』。観客が会場を埋めていたら、さぞ大きな拍手が起こったことだろう。

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『グラン・パ・クラシック』より。photo : Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

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シャネルによる衣装を着けたヴァランティーヌ・コラサント。ステージに立つ前に、フォワイエ・ドゥ・ラ・ダンスにて。photo : Olivier Saillant

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次いでジェローム・ロビンスの『イン・ザ・ナイト』。ショパンの音楽にのせて踊る3カップルは、リュドミラ・パリエロ×マチュー・ガニオ、レオノール・ボラック×ジェルマン・ルーヴェ、アリス・ルナヴァン×ステファン・ブリヨンというエトワール6名の実に豪華な配役だった。ピアノの生演奏、黒い空間に浮き彫りされるダンサーたち……パリ・オペラ座のレパートリーに欠かせないネオクラシック作品の魅力をおおいにアピールした。

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ファースト・パ・ド・ドゥを踊ったのはエトワールのベテラン、リュドミラ・パリエロとマチュー・ガニオ。ふたりのステップには安定と優美が込められていた。photo : Julien Beanhamou / Opéra national de Paris

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2016年12月にエトワールに任命されたフレッシュなレオノール・ボラックとジェルマン・ルーヴェによって踊られたセカンド・パ・ド・ドゥ。photo : Julien Beanhamou / Opéra national de Paris

公演の締めくくりは、12月13日にエトワールに任命されたばかりのポール・マルクを含めて5名のダンサーが舞台上にエネルギーを発散させたフォーサイスの『the Vertiginous Thrill of Exactitude』。コンテンポラリー作品が最後なのは、前回のオープニングガラも同様で、この時もフォーサイスの作品だった。オープニングガラの当初のプログラムによると、予定されていたのは『イン・ザ・ナイト』ではなくランダーの『エチュード』である。エトワールのドロテ・ジルベール、マチアス・エイマンはこちらに配役されていたために、演目変更後のガラ公演には出演せず。円熟の極みにあるふたりのダンサー、そして同様の状況からプルミエール・ダンスーズの実力派セ・ウン・パクも不在となったのは無観客のオープニングガラに物足りなさをプラスした感がある。今回だけが例外で、シーズン2021〜22の開幕ガラが9月下旬にいつもどおりに開催されることを期待しよう。

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『The Vertiginous Thrill of Exactitude』。最新エトワールのポール・マルク(左)、彼の後を追うプルミエ・ダンスールのパブロ・ルガザ(写真右)、エトワールのアマンディーヌ・アルビッソン(写真右)、エトワールのリュドミラ・パリエロ、プルミエール・ダンスーズのオニール八菜の5名のダンサーによって踊られた。photos : Julien Benhamou / Opéra national de Paris

大村真理子 Mariko Omura
madameFIGARO.jpコントリビューティング・エディター
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。フリーエディターとして活動した後、「フィガロジャポン」パリ支局長を務める。主な著書は『とっておきパリ左岸ガイド』(玉村豊男氏と共著/中央公論社刊)、『パリ・オペラ座バレエ物語』(CCCメディアハウス刊)。
Instagram : @mariko_paris_madamefigarojapon
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