発見&再発見が楽しみなパリ・オペラ座2022~23。

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左: シーズン2022〜23のプレス発表はオペラ・ガルニエのリハーサルスタジオにて開催された。右: オーレリー・デュポン芸術監督とアレクサンダー・ネーフ総裁。photos:Mariko Omura

<新シーズン序幕公演はL.A.のハリウッド・ボウル、ガラは2月21日、「パトリック・デュポン追悼公演」にて>

オペラ座の次シーズン2022~23のプログラムが芸術監督オーレリー・デュポンによって、3月30日にプレス発表された。彼女の言葉も交えながら、内容を紹介してゆこう。

例年、新シーズンは9月20日前後の開幕ガラから始まるのだが、2022~23年度は7月20日&21日に行われるロサンゼルスでの公演が“プレリュード”と称して新しい季節の口火を切る。7月の海外ツアーはこれまではシーズンの最後という扱いだったのだけれど、ハリウッド・ボウルというパリ・オペラ座バレエ団の舞台としては異例な会場でのイベントだからだろうか。参加するダンサーたちにとっても刺激的なツアーに違いない。席数が約18,000席ということなので、満席の場合は2日で合計約3万5000名が鑑賞することになる。フレンチエレガンスがアメリカ人の興味をどれほどひくことができるのか。これはとても興味深い。

プログラムはグゾフスキーの『グラン・パ・クラシック』、プレルジョカージュの『ル・パルク』のパ・ド・ドゥ、フォーキン作『瀕死の白鳥』、シャロン・エイアルの『Faunes』、ファン・マーネン作『3つのグノシエンヌ』、ヌレエフの『白鳥の湖』第2幕のパ・ド・ドゥ、アリスター・マリオットの『Clair de Lune』、フォーサイスの『the Vertiginous Thrill of Exactitude』と、クラシック、ネオクラシック、コンテンポラリーがバランスよく配されている。現在のパリ・オペラ座をアメリカの一般大衆に紹介するにふさわしいガラ公演といえそうだ。なお演奏はL.A.フィルハーモニックで、オペラ座の音楽監督のギュスタヴォ・デュダメルが指揮をする。

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左: シャロン・エイアルの『Faunes 』。photo:Yonathan Kellerman/ONP 右: ファン・マーネンの『3つのグノシエンヌ』。photo:Elena Pauer/ONP

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「パトリック・デュポン 追悼公演」
オペラ・ガルニエ/2023年2月21日~23日 

毎シーズン、華やかに装飾されたガルニエ宮でデフィレから始まりディナーで終わる開幕ガラが新しい季節の始まりを告げる。それが今回は予定されていない。ガラはどうなっているのか?というと、「パトリック・デュポン追悼」公演が2月21日、22日、23日にプログラムされ、その初日がガラ公演だ。昨年61歳で急逝した彼はパリ・オペラ座バレエ学校で学び、カンパニーに入団後、1980年にエトワールに任命され、そして90~95年には芸術監督を務めていた。オーレリー・デュポン芸術監督は「パトリック・デュポンへオマージュを捧げるのは大切なことだと思います」と語る。

この公演は壮麗なデフィレでスタート。そして彼のレパートリーの中からベジャール振付の『さすらう若者の歌』、ノイマイヤーの『Vaslaw』と続く。前者は2007年にローラン・イレールのアデュー公演で踊られたのがオペラ座では最後だった。パトリック・デュポンはこの作品を友人であるオペラ座のダンサーのジャン=マリ・ディディエール、そしてルドルフ・ヌレエフと踊ったそうだ。さて『さすらう若者の歌』以上に踊られる機会のなかったのが『Vaslaw』で、これはジョン・ノイマイヤーがニジンスキーへのオマージュとして、パトリック・デュポンに創作した作品である。踊られるのは1992年6月以来だから、カンパニーの現役ダンサーでも舞台でこの作品を見たことがある人は少ないのではないだろうか。追悼公演を締めくくるのは、彼自身が踊るのが大好きで、また芸術監督時代に3度もプログラムしたほど気に入っていたクラシック作品の『Etudes』だ。

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左:『Vaslaw』を踊るパトリック・デュポン。photo:Jaques Moatti/ONP 右: 2021年9月の開幕ガラでも踊られた『Etudes』。写真はセウン・パクとポール・マルク。photo:Julien Benhamou/ ONP

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<2022年9月から2023年7月まで>

アラン・ルシアン・オイエン (タイトル未定)
オペラ・ガルニエ/2022年9月20日~10月13日 

パリ・オペラ座バレエ団の2022~23年のプログラムを順を追って見てみよう。開幕作品は、ノルウェーの振付家アラン・ルシアン・オイエンによるコンテンポラリー作品の創作だ。もともと20年4月に予定されていて、オーディションでダンサーも選ばれ、創作も進んでいたのだが、新型コロナ禍による劇場封鎖に伴い公演は中止となった。芸術監督はオイエンの仕事をダンス・シアターの世界と語る。彼の作品は前シーズンの公演『若きダンサーたち』で、『…アンド・キャロライン』のデュオが踊られた。今回の創作はアメリカ人写真家グレゴリー・クレウドソンの仕事にインスパイアされたオイエンがフィクションをテーマに約20名のダンサーたちにクリエイト。なお22~23年のパリ・オペラ座バレエ団のための創作はこれを含め、合計2作品用意されている。

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ケネス・マクミラン『マイヤリング』 
オペラ・ガルニエ/2022年10月25日~11月12日

10月25日から11月12日までは、シーズン発表時に芸術監督が“ダンサーたち待望”のと枕詞をつけたケネス・マクミランの『マイヤリング(うたかたの恋)』だ。これも2020年の5月に予定されていて、稽古も少し進んでいたのだけれどオイエンの作品同様、公演が中止となった。1978年に英国ロイヤル・バレエ団のために創作された3幕のバレエで、シシーと愛称されたオーストリア皇妃エリザベートを悲劇の底に突き落とすことになる息子ルドルフの心中がテーマのバレエである。原題のマイヤリングとは、王家の狩猟館がある地名。デュポン芸術監督はこの作品について「重要な役が複数あり、ソリストも大勢配役されます。ルドルフ役を演じるには、しっかりとしたテクニックはもちろんですが、演劇的センスと人間的成熟がダンサーに要求されます」と語り、マチュー・ガニオ、ユーゴ・マルシャンの2名の名前を挙げた。配役発表を楽しみに待つことにしよう。

英国ロイヤル・バレエ団での公演より。

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ピナ・バウシュ『コンタクトホーフ』 
オペラ・ガルニエ/2022年12月2日~2023年1月1日

例年どおり、12月はオペラ・バスティーユとオペラ・ガルニエでクラシック作品とコンテンポラリー作品が踊られる。オペラ・ガルニエは、パリ・オペラ座にとってピナ・バウシュ作品のレパートリー入り3作目となる『Kontakthof(コンタクトホーフ)』だ。ヴィム・ヴェンダースが3D形式で映像に収めた映画『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』で見られる4つの作品のひとつである。1978年にピナ・バウシュが自身のカンパニーのために創作したもので、ボールルームを舞台に演劇とダンスが混じり合う作品だ。情熱、ヴァイオレンス、ユーモア……自身のパーソナリティを露呈させる強い表現力が踊る男女20名のダンサーたちに求められるという。おもしろい配役となることだろう。この作品をプログラムしたことについて、ピナ・バウシュと仕事をしたことがあるデュポン監督は「ピナはとても厳しいけれど、同時にユーモアの持ち主です。それは過去にレパートリー入りした『春の祭典』『オルフェとユリディス』では感じられないことですが、この『コンタクトホーフ』では……」と。

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ルドルフ・ヌレエフ『白鳥の湖』 
オペラ・バスティーユ/2022年12月10日~2023年1月1日 

一方、オペラ・バスティーユではこのシーズン唯一の純粋なクラシック作品であるヌレエフ振り付けの『白鳥の湖』が踊られる。彼がマリウス・プティパのこの作品をパリ・オペラ座のために作り直したのは、いまから約40年近く前の1984年だ。今回の公演中、12月14日に300回目の公演が祝われる。また、2023年は1993年に亡くなった彼の没後30周年を記念する年でもある。さて前回全幕で踊られた2019年2月は、オデット/オディールがアマンディーヌ・アルビッソン、レオノール・ボラック、ヴァランティーヌ・コラサント、ドロテ・ジルベール、ミリアム・ウルド・ブラーム、セウン・パク。この年末公演に現在オフ中のアマンディーヌとレオノールが戻ってくるのかどうか……。ジークフリードはマチュー・ガニオ、ジェルマン・ルーヴェ、フロリアン・マニュネ、ユーゴ・マルシャン、ポール・マルクだった。なお一般観客向けのプログラム発表が4月2日にオペラ・ガルニエで行われた際にサプライズとして登場し、パ・ド・ドゥを披露したのはセウン・パクとポール・マルク。新世代エトワールカップルは『ロミオとジュリエット』『ラ・バイヤデール』に続き、どうやら『白鳥の湖』でも息の合った感動的な舞台を見せてくれるらしい。

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2022〜23の唯一の古典大作となる『白鳥の湖』。photo:Julien Benhamou/ ONP

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「バランシン・プログラム」(『バレエ・インペリアル』『Who Cares?』)
オペラ・ガルニエ/2023年2月8日~3月10日 

2023年を迎え、2月8日から始まる「ジョージ・バランシン」で『バレエ・インペリアル』と『Who Cares?』がオペラ座バレエ団のレパートリー入りをする。前者はチャイコフスキーのピアノコンチェルトを音楽に、バランシンが“スピリチュアルな父”と敬愛するマリウス・プティパのアカデミックなバレエへのオマージュとして1941年に創作。コスチュームもチュチュにティアラと超クラシックだ。後者は、ニューショークの街のエネルギッシュな活気を想起させる振り付けである。こちらの音楽はジョージ・ガーシュウィンで。オペラ座のオーケストラを指揮するMikhail Agrestは、これがデビューとなる。さて過去において、バランシンの『ジュエルズ』『真夏の夜の夢』がレパートリー入りした際にはクリスチャン・ラクロワが新解釈したコスチュームが作られたのだが、プログラム発表の冒頭で、総裁アレクサンダー・ネーフが経費節減を語ったくらいだから今回は期待できないことのようだ。

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Bobbi Jene Smith(タイトル未定) 
オペラ・ガルニエ/2023年3月17日~30日 

前出の「パトリック・デュポン追悼公演」の後、3月17日から3月30日まで踊られるのはボビー・ジェイン・スミスによるオペラ座バレエ団のための初の創作である。2021~22年に作品が踊られ、観客を興奮させた振付家シャロン・エイアルとホフェッシュ・ヘクター同様に、彼女もガガ・スタイルの生みの親であるオハッド・ナハリンのバットシェバ舞踏団でダンサーとして踊っていた。10年過ごしたところで2014年に祖国アメリカに戻り、コレオグラファーとしてキャリアをスタート。この創作には約20名のダンサーが参加するそうだ。音楽はジョン・シベリウスの曲がオーケストラ演奏され、さらにこの作品のためにセレスト・オラムがクリエイトした音楽がプラスされる。指揮者も女性ということで、デュポン芸術監督は“とてもフェミニンな公演”と強調した。

なお一般観客向けの発表に際してダンサーのオーディションについて質問された芸術監督はこう語った。「振付家が初めてオペラ座のダンサーのオーディションをする時、自分の作品に取り込む才能を見いだすために彼らに向けるまっさらな視線があります。それは私たちにとって発見となり、団員それぞれを進歩させてゆくためにも役立つことなのです」

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バレエ学校公演 オペラ・ガルニエ/2023年4月15日~18日 
クロード・ベッシー特別公演 オペラ・ガルニエ/2023年4月19日

4月は例年どおり、パリ・オペラ座のバレエ学校の生徒による公演だ。踊られるのは3作品。クロード・ベッシーがバッハの曲に振り付けた『Concerto en Ré』、かつて学校の生徒だったマルタン・シェに依頼した『Ma Mère l’Oye』、そしてヌレエフ没後30周年記念の意味もあり、『ライモンダ』第3幕という構成である。これはパリ・オペラ座のエトワールバレエ学校で30年間ディレクターを務めたクロード・ベッシーの生誕90周年を祝うプログラム。4月19日は彼女に捧げる特別料金のソワレ公演となる。

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「ベジャール・プログラム 」(『火の鳥』『さすらう若者の歌』『ボレロ』)
オペラ・バスティーユ/2023年4月21日~5月28日 

4月21日から5月28日までは『モーリス・ベジャール』。『火の鳥』、パトリック・デュポン追悼公演でも踊られる『さすらう若者の歌』、そして『ボレロ』のトリプルビルである。『火の鳥』は1970年にオペラ座のエトワールだったミカエル・ドナールに創作され、また『さすらう若者の歌』は71年にルドルフ・ヌレエフとパオロ・ボルトリュッジに創作されたというように、創作ダンサーへもスポットを当てたいというデュポン芸術監督の意図からのセレクションである。ダンス史にオマージュを捧げ、新しい世代に伝説的作品を提案し続けていきたいとも彼女は語った。

『さすらう若者の歌』は異なるパーソナリティのふたりのダンサーによって踊られるそうで、芸術監督はユーゴ・マルシャン×ジェルマン・ルーヴェ、マチュー・ガニオ×ポール・マルクの名を挙げた。もちろん配役発表ではなく、あくまでも例としてであるが。2月のパトリック・デュポン追悼公演でこの作品が踊られるので、どんな組み合わせで見られるのかがわかる。『ボレロ』は芸術監督自身も踊った作品で、前回はマリ・アニエス・ジロ、アマンディーヌ・アルビッソン、マチアス・エイマンだった。デュポン監督は「これも伝説的な作品のひとつで、ダンサーたちが踊りたいと夢見るものです」と語り、今回また新たなダンサーを配役する意欲を匂わせて作品を紹介した。

久々に踊られる『火の鳥』。このトレーラーではバンジャマン・ペッシュの懐かしい姿が見られる。また『さすらう若者の歌』はローラン・イレールとマニュエル・ルグリだ。

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ウェイン・マクレガー『ダンテ・プロジェクト』 
オペラ・ガルニエ/2023年5月3日~5月31日 

アートファンで会場があふれるに違いないのは、5月3日から30日のウェイン・マクレガー『ダンテ・プロジェクト』だろう。英国人アーティストのタシタ・ディーンが初めてバレエの舞台装置と衣装を手がけた作品で、英国ロイヤル・オペラハウスとオペラ座との共同プロダクションである。2021年12月にロンドンで初演された。パリ・オペラ座でマクレガーの5作品目にあたるこの作品は、ダンテの『神曲』がベースである。詩人の没後700周年を記念する3章構成の創作だ。作品である。音楽はトーマス・アデス。公演に際し、オペラ座の音楽監督ギュタヴォ・デュダメルが4公演を指揮し、残りの公演は作曲したトーマス・アデス自身がタクトをふる。マクレガーの前回のオペラ座での作品はオラファー・エリアソンが舞台装置を担当した『Tree of Codes』だった。この作品もそうだったが、アーティストの仕事を堪能するには今回もステージ全体が見渡せる、上階の席を確保するのがいいだろう。

2021年12月に英国ロイヤル・バレエで初演された時の映像より。

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「ピーピング・トム』(招聘公演)
オペラ・ガルニエ/2023年6月7日~11日 

6月には、2021年1月に予定されていたゲストカンパニー「Peeping Tom(ピーピング・トム)」による『the missing door』『the lost room』『the hidden floor』のトリプティック公演だ。覗き屋という意味の不思議な名称のピーピング・トムは、ベルギーでガブリエラ・カリゾとフランク・シャルティエによって2000年に設立されたダンス・シアター・カンパニー。映画撮影の現場のようなハイパーリアルな舞台装飾の中で、ダンサーたちは驚くほど柔軟でアクロバティックな身体能力を発揮する。芸術監督はピーピング・トムを招けることは喜びであると語った。

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ピーピング・トムの『トリプティック』より。photo:Virgnia Rota/Peepint Tom

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ケネス・マクミラン『マノン』 
オペラ・ガルニエ/2023年6月20日~7月15日

シーズン閉幕公演のひとつはオペラ・ガルニエで6月20日からケネス・マクミランの『マノン』。アベ・プレヴォーの小説が原作で、音楽はジュール・マスネ。豪奢を好むマノンの世界がゴージャスに展開した後、第3幕は一転しての悲劇である。パリ・オペラ座で踊られるのは2015年5月以来で、現芸術監督のオーレリー・デュポンがロベルト・ボッレをパートナーにアデュー公演を行った。彼女だけでなくこの時にマノンを踊ったエレオノーラ・アバニャートもレティシア・プジョルもその後引退してしまっている。マノン役に誰が新たに配役されるのだろうか。

このマノン役は現芸術監督オーレリー・デュポン。

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カロリン・カールソン『シーニュ』 
オペラ・バスティーユ/2023年6月21日~7月16日 

オペラ・バスティーユでは6月21日から、キャロリーヌ・カールソンの『Signes』だ。オリヴィエ・ドゥブレによる絵にインスパイアされて、カールソンが1979年にパリ・オペラ座のために創作したコンテンポラリー作品。舞台装置、コスチューム、ダンスをトータルに楽しむには、オペラ・バスティーユの後方席からの鑑賞がよいだろう。今回この作品を最後にエトワールのエミリー・コゼットがオペラ座を去る。この7〜8年は2回の出産の合間に舞台で踊るといった感じだったので、最近のバレエファンにはなじみの薄いダンサーだろう。任命されたのはヌレエフの『シンデレラ』だったが、アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルなどコンテンポラリー作品で個性を光らせるダンサーである。この『シーニュ』でも印象に残る舞台を見せることを期待しよう。

カラフルに展開する『シーニュ』。マリ= アニエス・ジロはこの作品でエトワールに任命された。

editing: Mariko Omura

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