東京で『白鳥の湖』を踊るジェルマン・ルーヴェ、29歳のいま。

8月13日と14日に東京シティ・バレエ団の公演『白鳥の湖~大いなる愛の賛歌~』に出演するパリ・オペラ座バレエ団のエトワール、ジェルマン・ルーヴェ。パートナーはプルミエール・ダンスーズのオニール八菜だ。彼は7月20日&21日にオペラ座のLAツアーで踊り、その後参加するガラ公演が開催されるソウルを経由して、と地球をぐるりと回って東京に到着する。7月上旬、オペラ座でのシーズン閉幕公演である『真夏の夜の夢』と『ジゼル』の両方に配役され多忙を極める中、『白鳥の湖』を含めてバレエ作品について、またオペラ座の外の世界のことについて語ってくれた。

彼がバレエ団に入団したのは2011年で、10年が経ったところである。これまで積んだ経験を糧に、素晴らしいパフォーマンスで観客を魅了している彼。この夏、久しぶりに来日して踊る『白鳥の湖』は彼とジークフリード王子との関係を聞くと見ないわけにはいかないと思わせる。そして、また何年か後にも見てみたいと……。

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ジェルマン・ルーヴェ、楽屋にて。撮影され慣れている彼らしく、一瞬のうちにポーズを決める。バレンシアガのTシャツは丈が長すぎて着ずじまいだったのを、この日の朝、自分でカットして着用。キャップはAMI PARIS の2023春夏コレクションSacré Coeurのアイテム。photo:Mariko Omura

― パリ・オペラ座で踊られるのはヌレエフ版です。東京シティ・バレエ団の『白鳥の湖』は初体験ですね。

東京シティ・バレエ団版を踊るのは今回が初めてなのだけど、まったく未知じゃない。というのも、これ、マリインスキーのバージョンにとても近いんです。フランスの新型コロナ感染症防止対策としての外出制限期間が始まる前日、2020年3月15日にマリインスキー劇場で僕は『白鳥の湖』を踊りました。オペラ座バレエ団で僕たちが踊るヌレエフの『白鳥の湖』とは違いがあって、たとえばオペラ座ではポロネーズは男性のコール・ド・バレエだけが踊るのだけど、マリインスキーでは宮廷の男女のカップルが踊り、さらに彼らと一緒にプリンスも踊るんです。東京シティ・バレエ団版も同じなんですよ。もっとも僕たちがゲストで踊るのだからパリ・オペラ座バレエ団のダンサーとしてのクオリティを見せる必要がありますね。だから、今回僕たちは黒鳥の部分など、少しだけヌレエフ版を交える許可をもらいました。東京シティ・バレエのダンサーたちと一緒の部分は彼らのバージョンをリスペクトします。バレエの最後、東京シティ・バレエ団の版はヌレエフ版と違ってロットバルトが死んで最後がハッピーエンディングなんですよ。

― 東京シティ・バレエ団版は藤田嗣治が美術を担当していることも話題です。

振り付けを覚えるのでビデオでこの作品を見ましたが、舞台美術がとてもきれいですね。僕はあいにくとあまり藤田の作品やこの時代の絵画について詳しくないのですが、この背景は素晴らしい。舞台背景というのは僕たちダンサーには全景が見えず、観客席から見て鑑賞できるように作られています。この藤田による美しい背景は、観客を喜ばせることでしょうね。

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東京シティ・バレエ団の『白鳥の湖〜大いなる愛の賛歌〜』より第1幕(左)、第2幕。この2018年のバレエ団の創立50周年記念の公演時に、藤田嗣治による1946年の舞台美術が復元された。photos:©️Takashi Shikama

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第3幕(左)、第4幕。藤田嗣治は生涯で9つの舞台美術を手がけていて、そのひとつがこの『白鳥の湖』である。photos:©️Takashi Shikama

― 『白鳥の湖』のジークフリードはあなたのバレエ人生においてどのように大切な役ですか。

僕がスジェにあがって以来、僕はこの役とともに歩んでいます。コリフェからスジェに上がるコンクールでは課題がこの作品の第3幕からのソロで、自由曲に僕はプリンスのスローのヴァリアッションを選びました。その結果昇級したんですね。初めて『白鳥の湖』に配役されたときはパ・ド・トロワ、ポロネーズ、マズルカを踊り、2度目に配役された2016年の公演ではコール・ド・バレエはせずにスペインの踊り、そしてプリンス役を踊った12月28日にエトワールに任命されたんです。2019年のシンガポール/上海のツアーでも、僕はプリンスを踊っています。レオノール・ボラックが白鳥で、フランソワ・アリュがロットバルトの公演は映像化もされていて……。またローマ歌劇場でバンジャマン・ペッシュが振り付けたバージョンも僕は踊っているんですよ。ドバイのガラ、東京のガラでも『白鳥の湖』のパ・ド・ドゥを踊るなど、世界さまざまな都市でさまざまなバージョンで踊っています。

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『白鳥の湖』より。東京でもこのオペラ座のコスチュームで踊る。photo:Julien Benhamou/Opéra national de Paris

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― ジークフリード役は自分にぴたりと合う役だと感じますか。

誂えたようにぴったり、と言っていいでしょうか。まるで水の中の魚! この役に出会ったのはまだ芸術面では経験を積んでいない若い時でした。この役が僕に送り返してくるものがとても多くあって、僕の人格、人生の工程に反映があります。思春期に自分がどんな人間になるかわからない、何が好きなのか、どんな願望があるのか、どういったタイプのアーティストになるのか……自問がありました。ほんの少し前までダンサーとして自分が向かう方向を僕はわかっていませんでした。また人間としても。そういったことから、『白鳥の湖』はまるで僕個人の物語を語っているように、この役に入るのが快適に感じられたんです。ごく自然に自分をプリンスに重ね合わせて、感動があって。僕は活気にあふれ、いささか血気にはやる面があり、衝動的な人間です。だからこのように静かな役に出会うと、少しばかり戸惑わなくもないけれど、逆にそれによって自分の内側をより深く追求することになって……バージョンはどれでも、鎮静効果のある役に出会ったと言えますね。最初に踊った時は役柄に僕が導かれました。でも、年齢を重ねるにつれて、今度は僕のほうが役を導くことになるんです。つまり、あるところで僕たち自身のビジョンを役にもたらすのです。歳をとり、経験を重ねて自分の中に貯めたことがたくさんあることによって、新しいビジョンを役に投影するようになるのです。

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『白鳥の湖』より。ジークフリード王子を踊るために生まれてきた、と思わせる彼の美しい舞台姿をこの夏、東京で。photos:Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris

― 自分にぴったりと感じた役はほかにもありますか。

ロミオ役です。ヌレエフ版も2018年に踊ったサッシャ・ヴァルツのも素晴らしいものでした。3日の物語を3時間のバレエで踊るのだけど、無邪気、傲慢、真の愛情、欲望、恐れ、死、怒り、復讐、罪悪感……感情面でいうとまるで何十年も生きた人間のような役です。激昂してティボルトを殺し、その罪悪感に苛まれ、ジュリエットの許しがあって……。それゆえにこの役によって成長させられるんです。内面が豊かになります。オペラ座で有名なヌレエフ版と同じくらい、サッシャ・ヴァルツ創作の『ロミオとジュリエット』も気に入ってるんですよ。原作によるとジュリエットのほうが若いのだけど年齢以上に成熟していて、彼女がすべてを決定して彼を導いています。バレエ作品には男性の想像の世界というバレエが多くありますね。『ジゼル』にしても第2幕の森の場面は罪悪感を抱えたアルブレヒトの人生です。『白鳥の湖』だって、森の中で起きることは彼の頭の中のことと言えます。宮廷、母親から抜け出す手段としてですね。『ラ・シルフィード』にしてもジェームズの物語。自分の想像の産物であるシルフィードに心を捉えられ、近づくことのできない対象に願望を抱きます。こういったバレエと『ロミオとジュリエット』は違いますね。ジュリエットの物語でありロミオの物語なんです。舵をとるのはジュリエット。ヌレエフ版ではレオノール・ボラック、サッシャ・ヴァルツ版ではリュドミラ・パリエロがパートナーで、彼女たちに導かれるのをすごく楽しみました。

― 昨秋のピエール・ラコットの創作『赤と黒』のジュリアン・ソレル役はどうでしょうか。

そうですね。主人公のジュリアン・ソレルと自分を重ね合わせ、この作品を踊るのは楽しみでした。小説によると彼が生まれたのは僕が生まれ育ったところから、そう遠くありません。舞台となっているのはフランシュ・コンテ地方ブザンソンの架空の町で、僕が生まれ育ったブルゴーニュ地方の隣です。父がブザンソンの出身なので、僕、ここで過ごした時間がけっこうあります。小説に出てくるヴェリエールのモデルとなった街は父の生まれた街に似てるんですよ。またバレエの最初に兄弟と違ってジュリアン・ソレルはその世界に入れずにいることを見せる製材所のシーンがありますけど、僕も弟は自転車に乗ったりスポーツに興じているそばでダンスをし、夢を見ていました。そして僕もジュリアン・ソレルのように地方の自宅を離れてパリに来て、というようにいろいろと自分と重なる部分があります。ジュリアン・ソレルが庶民階級という自身の社会階級から抜け出し、パリのハイソサエティに身を置くことになりますね。僕も小さなぶどう栽培の農家の生まれで一般的な農業従事者の世界で育ったけれど、いまはパリ、オペラ・ガルニエにいて、時々モードやリュクスの華やかな場で社交をして……これって、まるでジュリアン・ソレルがラ・モール侯爵の自宅のサロンにいるようですよね。彼のように僕は野心家ではなく、情熱に導かれているという違いはあるけれど。このようにさまざまな面を重ね合わせて、役に入るのを楽しんだのです。野心ゆえに、彼は死へと自分の運命を向かわせてしまいます。自分の生まれた社会階層の奴隷ですね。階層の裁判で死刑になって。上流社会に手が届いたと思ったけれど、所詮は地方出身者なのです。このバレエではレーナル夫人、ラ・モール家の令嬢マチルドとの関係をロマンティックに語るだけではなく、いかに誘惑が階級上昇のための道具となるのかを表現するかという仕事がとても興味深かった。若い青年が世間に出て、身体的な欲望を知り、同時に自分の美貌を武器として利用して誘惑することを覚えて……単に欲望や愛を語る以上のことでした。

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『赤と黒』で、令嬢マチルド役のレオノール・ボラックと。photo:Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris

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左:レーナル夫人役のリュドミラ・パリエロと。 右:マチルドの父ラ・モール侯爵が娘の夫にふさわしい身分をと、陸軍騎兵中尉となったジュリアン・ソレル。photos:Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris

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― 来シーズンに予定されているケネス・マクミランの『マイヤリング』。もしこれに配役されていたらミスキャストと感じたでしょうか。

こうしたことってほかのダンサーたちとも話すんですよ。確かにミスキャストと感じたかもしれません。というのも皇太子ルドルフのパーソナリティは僕のパーソナリティとは異なります。だけど、そこに僕たちダンサーの演技者の仕事の見せどころがあると思うのです。ひとつのタイプの役しか合わないというのでは残念でしょう。自分と役の人物像との衝突を追求することによって、培うものがあるのですから。それに観客の立場に身を置いて想像してみるに、似たようなルドルフ王子を何十回も見ることには興味ないと思うのです。同じ物語にも複数の語り方があるはずです。生きた芸術の世界に生きる人間として、アーティストが役に対峙して、自分に似ていない人物に何かをもたらすことに関心があります。この仕事で最もおもしろいのがこれだと思うんです。ダンスや演劇における人物というのはいわば封筒です。その内側に込めるものを僕たちは仕事するわけですね。『マイヤリング』についてはマクミランの財団が配役にとても要求が厳しく、オペラ座と一緒に配役を決定します。彼らはこの人物にはこのタイプ、というように選ぶようです。感受性の高さを感じさせ、より軽やかさのあるダンサーは『白鳥の湖』に配役し、男性的で地にしっかりとした踊りをするダンサーはルドルフ役に、というのは、男らしさの表現にはいろいろな方法があるのだからちょっと残念ですね。僕は12月に踊る『コンタクトホーフ』のリハーサルが『マイヤリング』の公演に重なるのでもともと配役の対象外だったけれど、もし『マイヤリング』を踊ることになり、それがルドルフ役ではなくほかの役に配されることになっていたら、うれしくなかったでしょうね。

― 2022年の年末公演はオペラ・バスティーユで『白鳥の湖』、オペラ・ガルニエではピナ・バウシュの『コンタクトホーフ』。あなたは後者に配役されているのですね。

はい。ピナ・バウシュのこの作品にはとても関心があって、レパートリー入りすると知ってオーディションに参加したいと名乗り出たんです。『白鳥の湖』の公演が同時にあると知る前のことでした。『白鳥の湖』を踊ることはキャリアにおいて大切ですが、オペラ座で僕はすでに踊っています。僕の3つの夢は『白鳥の湖』、ベジャールの『ボレロ』、そしてピナ・バウシュの何かひとつ、なのです。ピナの『オルフェとユリディウス』や『春の祭典』もいいけれど、僕の希望は演劇的面の強い作品で、最近の中でいえば『アグア』や『パレルモ・パレルモ』、そして『コンタクトホーフ』。それでこれがレパートリー入りするのを知って、踊れたら幸せだ!と。それにこの2~3年、僕はクラシック作品ばかりを踊っています。クラシックは好きだし、そこで存分に自分を開花させることができる。でもコンテンポラリー作品を体験することで、自分がとても豊かになれる……というか新しい体験なら、クラシックでもそれは言えますね。『白鳥の湖』と『コンタクトホーフ』の両方を踊れないかと思ったのだけど、時間的な面で不可能でした。身体的にはできると思います。『白鳥の湖』は何度も過去に踊っているので、たとえば明日踊らなければならない、となっても、振り付けも役柄も音楽もすべて入ってるので踊れます。不可能というのは『コンタクトホーフ』は3時間くらいのヘビーな作品で、それが12月中に20公演くらいあります。配役がひとつの可能性もあるし、稽古も1日丸ごとのようなので……。オーディションの結果採用されないかもしれないけれど、参加しました。そして採用されたんです。オーディションはピナのカンパニーのジュリー・シャナハンとでした。僕、楽屋に彼女の写真を貼っています。長身でブロンドの素晴らしいダンサー。彼女以外にもピナのカンパニーのダンサーの写真はほかにも……僕のアイドルたちですね。ヴッパタール舞踏団がパリで公演をするたびに、僕は17歳の時から見に行ってます。最初に見たピナの作品はパリ・オペラ座の『春の祭典』。ミテキ・工藤、ジェラルディヌ・ヴィアール、エレオノーラ・アバニャート。この3名がとても強烈だったことを覚えています。ここからピナ熱が始まって……。これまで15作品くらい見ているでしょうか。

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2021年度の年末公演は、レオノール・ボラックをパートナーに『ドン・キホーテ』を踊った。photos:Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

― 3つの夢のうち2つが実現ですね。

といっても『コンタクトホーフ』の公演は12月と先のことで、まだ踊ったわけではありません。昨年怪我をして以来、縁起を担ぐわけじゃないんだけど……。2021~22シーズンは僕にはちょっと複雑なものだったんです。2021年6月の『ロミオとジュリエット』の前、僕は4月に新型コロナに感染していて10日休んだんですね。その後、仕事を再開して、また感染して10日休んで……。『ロミオとジュリエット』の稽古が始まって、その3週間後に左足を捻挫してしまった。また10日休み、レオノール・ボラックとの『ロミオとジュリエット』のプレ・ゲネプロがあって、これはすごくうまくいったのに、その翌日の舞台稽古で今度は右足を捻挫。これは筋裂傷だったのでロミオ役は降板しました。僕とレオノールに代わって、初日の公演をポール・マルクとセウン・パクが踊り、そしてセウンがエトワールに任命されました。レオノールは僕の代わりにギヨーム・ディオップ(コリフェ)と踊りました。ギヨームにとってビッグチャンスでしたね。彼は好きなダンサーなのでうれしいです。僕の捻挫は医者によるとコロナに関係しているようです。足の問題ではなく、集中力が失われ、鼻腔にも問題が生じることによって足を正しく位置することができないということで。夏休みが明けて『赤と黒』のリハーサルがあり、公演はとてもうまくいっていました。ふくらはぎの拘縮はあったけどケアをしていたので不安はなかった。ところが11月3日、僕の4度目で最後の公演という晩に、ふくらはぎを裂傷してしまったんです。この作品は第1幕でなかなかハードなヴァリアシオンがあります。でも、その後1時間くらいステージ上ではいろいろあってもアクティングばかり。そして幕間があり、第2幕では15分くらい座っていた後、いきなりテクニックを要するヴァリアシオンがあるんです。この時にふくらはぎを痛めてしまいました。この公演ではステージのリノリウムのせいで、僕だけでなく大勢がふくらはぎをやられました。足にひどく床がくっつくので、ターンとか動きのために足に強いることが大きかったせいです。

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『赤と黒』、美しい舞踏会のシーン。photo:Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris

― 『赤と黒』は1公演だけオニール八菜と踊ってますが、彼女と組むことはオペラ座ではあまり多くないですね。

彼女が配役されることがあっても、彼女は大柄なので僕より大きなダンサーと組むことになるので……。『赤と黒』は僕のパートナーだったリュドミラ・パリエロが踊れなかった晩に八菜と一緒に踊り、うまくゆきました。僕たちふたり、舞台をすごく楽しみました。その前には、無観客のステージでオフィシャルではないけれど一度だけ踊った『ル・パルク』でも彼女と一緒でした。映像に残されてるけど、これ、本当にすごくいい!!(笑) 一緒に踊るのが僕たちとてもうれしいんです。彼女はパートナーとして最高です。僕にとっては人間的にコネクションがあるなら、身体的な面は二義的なこと。彼女とはオペラ座で一緒に成長しているという関係なんですね。僕はオペラ座のバレエ学校から入団し、彼女は臨時団員から始めて外部試験を受けて入団しました。ふたりともコリフェに上がるのを3年待って……同時に上がって、さらにスジェにも同時に上がっています。彼女はレオノールとユーゴと同じコンクールでプルミエに上がりました。その後に僕はプルミエに昇級が決まったところで、エトワールに任命されたのです。姉と弟みたいな関係であり、仲の良い友だちです。お互いに補い合う関係でもあって、彼女は僕に日本文化、ニュージーランドやオーストラリアの文化をもたらしてくれ、僕は彼女にフランス文化をというように。その彼女とこうして東京で『白鳥の湖』を踊れるのは、本当にうれしいです。

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― 2月に上梓した『Des choses qui se dansent』について話してください。

これは新型コロナ感染症以前からのプロジェクトでした。2019年9月頃だったかな。若い編集者が僕のインタビューがおもしろいからそれを深めたい、というようにコンタクトしてきて。このようにこの本の経緯は僕からの発案というのではないけれど、本を書きたいということは長いこと思っていたことです。デビュー作品としては、自分自身についてく書くのがいちばん簡単です。だから、ごく自然に自分を語る本になりました。ユーゴ・マルシャンも『Danser』を出版したけれど、これはまったく偶然なんですよ。本のタイプは違うけれで、同じ時期の出版は避けて僕のほうは少し後にしました。書くにあたって編集者に伝えた唯一の条件は、僕自身が書くということでした。もちろん出版前に相談し、訂正した箇所もあるけれど本の中の言葉のひとつひとつ、フレーズのひとつひとつが僕のものです。フランスの外出制限期間中、身を寄せていたサン・トロペの近くでという良い環境の中で時間が十分にとれて、そうでなかった場合より上手く書けたのではないかと思います。新型コロナ感染症ゆえにオーストラリアツアーを含め、たくさんのことがキャンセルされて悲しく、体調万全の27歳の時に踊れないというのも残念だったけれど、新型コロナはまったく何ももたらさなかったわけじゃなかったわけですね。

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自分について語った『Des choses qui se dansent』が2月にFayard社から出版された。

― 出版後、本に対する世間の反応は想像以上でしたか。

まったく何も期待してなかったので、思いがけない反応ばかりと言えますね。書いていることはほとんど誰にも知らせていませんでした。僕は自分のために書きました。出版は2022年2月なので、1年半がかりと長い期間がかかったことになりますね。とてもパーソナルでとてもインティメートな本です。プロモーションをスタートして、メディアにコンタクトをし、会う人みんなが本を読んでいて、まるで僕のうちに秘めた箱を彼らが開いたというように思え、最初はとても奇妙に感じました。ダンスや言葉や物事をいろいろな人たちと分け合うことができて、うれしかったですね。出会いに恵まれました。この本を書いたことで、僕はオペラ座のエトワールというだけでなく、確信、アイデア、欠点、矛盾を持つひとりの人間であることも語れました。僕は誰かということを。今後も書き続けたいですね。小説? 自分の物語を利用して書くのは簡単だけど、創造するには語ることがなければ書けません。大変だろうけどこれは試してみたい。この本を書き終わった時、肩の荷が降りたという感じが少しあり、また不安もありました。ダンスと同じ。自分は終わりまで行きつけるのか、水準に達することができるのか、自分に失望するか、人を失望させるだろうかという疑問がありました。書いていてほぼ終わりにいたったところで、おかしなことにとても能率が上がって、3日で2章という勢いで大量に書きました。最初に書いたエトワール任命の部分は実際に本でも始まりになってるけれど、僕は時代を追って書いてもいないし、また本も僕が書いた順でもありません。僕はよくある自伝にしたくなく、それに26~27歳だったので自伝を書くには若すぎます。書いているときのエモーションに沿って、フラッシュのように頭に浮かぶ順で書き進めました。書くって、自分の奥深くを探るので一種の精神療法なものですね。両親はとても満足しています。書きながら、彼らがこれを読んでどう思うかなと考えることもありました。でも、オーセンティックであるためには考えないほうがいいですね。両親はもちろん僕に起きた重要なことはすべて知っているけれど。たとえば学校の寮にいて試験の前日に僕がひとりで感じていたことなどは話していません。だから、彼らは僕の頭の中を読むことで、この時期を再び生き直したことになります。

― 最近、AMI PARISのショーにモデルとして出演しました。ファッション界との繋がりはさらに深まっているようですね。

これまでAMI PARISのショーに招待されていてもオペラ座のリハーサルが重なることがよくあって……。ディオールのショーにしてもいつも14時30分で、これはリハーサルの真っ最中という時間です。AMI PARISは10年くらい前、有名なロゴができるよりずっと以前の小さなブランドの時代から僕は着ています。それにオペラ座でこのブランドのクリエイティブディレクターであるアレクサンドル・マテュッシとばったり会う、ということもよくあって……。彼自身バレエを習っていたので、オペラ座のダンスに感じるものがあるようなのです。彼との出会いがモードを介してではなく、ダンスを介してというのは興味深いと感じます。ごく自然に親しくなって、今回初めて僕のスケジュールとショーのタイミングが合ったので……。モード界の人々との出会いは確かに僕を豊かにはしてくれます。彼らと会って話してというのはおもしろいことだけど、僕は自分の真の友だちとの仲を続け、億万長者というのは程遠いアパートで暮らし……地に足はしっかりとついたままです。舞台から出てゆき、モード界に接触するというのは、オペラ座のものを少し持って行って、あちらに与えて……という感じがあって好きですね。

― 最近モード界にデビューしたシャルル・ドゥ・ヴィルモランもヴィクトール・ヴァインセントもクラシックバレエを習っていました。

ヴィクトールとは僕、仲良しなんですよ。13歳の時にリヨンのバレエ講習会で一緒でした。たった1週間だったけれど、その間僕たちはベストフレンド! 彼はストラスブールでダンスを始め、16歳くらいまでロゼラ・ハイタワーの学校で学んでいました。僕がジャンポール・ゴルチエの最後のクチュールショーに出た時に、当時ゴルチエのアトリエで働いていた彼と再会したんです。その後自分のブランドを始めた彼から、パリコレのショーでパフォーマンスをしないか、と声がかかったのだけど、スケジュールが合わなかった。

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左:6月、サクレ・クール寺院の麓で開催されたAMI PARISの2023春夏ショーにモデルとして参加した。 右:オートクチュールショーの最終日の晩に開催されたSidaction(エイズ撲滅活動団体)主催のチャリティパーティに出席。この晩の装いはドリス・ヴァン・ノッテン。photos:(左)AMI PARIS、(右)François Goizé

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― 7月16日にオペラ・ガルニエで『ジゼル』を踊った後のLAのハリウッド・ボールのツアーで、アラスター・マリオットの創作『Claire de lune』を踊ります。いまの体調はどうですか。

快調ですよ。でも29歳という年齢を感じます。つまり、もう22歳じゃないということです。たとえば春の『ラ・バイヤデール』。踊るのがとても楽しかった。2年前に初役で踊った時に対して、役を演じることを構えることなくできました。でもそれに対して身体的には回復が以前ほど早くなくなっていました。もっともこれは僕だけじゃなく、ユーゴもフランソワ・アリュも年齢的に僕とほぼ同じで、身体的状況は似たような感じです。ツアーで踊る『Claire de lune』というのは2020年10月のプロセニアム公演でマチュー・ガニオが踊ったソロで、いまツアーに向けて、彼が僕にコーチしてくれています。彼は内面的にとても豊かで一緒に仕事をするのはおもしろい。このソロを屋外の舞台で踊るって、素晴らしいなあといまから想像しています。星が出て、うまくすればタイトル通りに月明かりも! とても感動的な作品で、振り付けにはバレエの神話的存在が次々と顕れてくるような感じがあります。あるところはニジンスキー、あるところではヌレエフ、バリシニコフ。そしてマチュー・ガニオ……彼はいまでこそ同僚だけど、僕が小さい時、彼はすでにマチュー・ガニオ! エトワールで僕にはスターでした。

― 会場は席数18,000という巨大な会場です。パリ・オペラ座バレエ団のダンスはアメリカ人の心をとらえることができると思いますか。

会場は日頃はジャネット・ジャクソンなどがコンサートを行うところで、そこで踊れるって素晴らしいですよ。アメリカに限らず、僕たちが海外のツアーに出るとどの都市でも人々は日頃見ることができないものを発見するわけですね。シンプル、ピュア、エレガントといった僕たちバレエ団の大きな価値であるセンシビリティを彼らは感じ取ってくれるのです。以前、ニューヨークで『ジュエルズ』の公演で、「エメラルド」を僕たちが、「ルビー」をニューヨーク・シティ・バレエ団が、「ダイヤモンド」をボリショイ・バレエ団が踊ったことがあります。「エメラルド」はガブリエル・フォーレの音楽でほかよりずっと静かな踊りですが、僕たちのエレガンス、何か魔法のようなものを「エメラルド」に見いだしたのでしょうか、アメリカ人もロシア人もすっかり感動してしまったんです。僕、これには驚きました。ハリウッド征服してきます (笑)。

― いま、とりわけ関心を傾けていることは何でしょう。

この間まではフランスであった大統領選挙でした。いまは関心というより心配していることは、アメリカで起きていることです。中絶禁止。これはこれから体験する長い失望期間の最初の段階です。民主主義がもろく、傾きかけているということの証明。もういちど炎を燃やさなければ。人々がともに生きてゆくこと、理想的な社会とは何か、自由というのは何なのか、をみんなで考える時だと思うのです。また、僕にとってブラック・ライブズ・マター、ダイバーシティ、#MeTooというのは大切な問題なんです。だから、人々がこれらテーマについて議論するのや、活動家やインテリたちが自分の意見を述べるのを聞くようにしています。

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4月の『ラ・バイヤデール』ではローラ・エケがパートナー。photos:Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

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シーズン最終の公演『真夏の夜の夢』は、ミリアム・ウルド=ブラームと。『ジゼル』のパートナーも彼女だ。photo:Yonathan Kelleramn/ Opéar natonal de Paris

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『白鳥の湖〜大いなる愛の賛歌〜』
<公演日時>
2022年8月13日(土)13:30 開演【A cast】18:00 開演【B cast】
2022年8月14日(日)15:00 開演【A cast】

SS席15,000円、S席12,000円 A席10,000円、B席6,000円、C席4,000円

<cast>
オデット/オディール A cast オニール八菜(パリ・オペラ座バレエ団プルミエール・ダンスーズ)、B cast 佐々晴香(スウェーデン王立バレエ団プリンシパル)
ジークフリード王子 A cast ジェルマン・ルーヴェ(パリ・オペラ座バレエ団エトワール)、B cast  キム・セジョン(東京シティ・バレエ団プリンシパル)

<会場>新国立劇場オペラ劇場(オペラパレス)
<振り付け・演出>石田種生
<美術>藤田嗣治
<主催・制作>公益財団法人 東京シティ・バレエ団

●チケットに関するお問い合わせ:
サンライズプロモーション東京
tel:0570-00-3337
(平日12:00〜15:00)

 

editing: Mariko Omura

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