マチュー・ガニオ、『マイヤリング』と東京のガラを語る 東京で、世界のトップダンサー12名が踊るスーパースター・ガラ。

現在ミラノ・スカラ座バレエ団で芸術監督を務めるバレエ界の帝王マニュエル・ルグリ。パリ・オペラ座バレエ団でエトワールとして舞台に立っていた彼が、いよいよラストダンスを踊るという話題もある「スーパースター・ガラ 2022」の5公演が11月24日から3日間、東京文化会館で開催される。英国ロイヤル・バレエ団を始め世界有数のカンパニーのダンサーたち12名という顔ぶれが、2つのプログラムで競演するゴージャスなガラだ。パリ・オペラ座からはマチュー・ガニオが参加。彼は日本で初めて『月の光』のソロと『ル・パルク』『病める薔薇』のパ・ド・ドゥを披露する。ローラン・プティの『病める薔薇』は初役でもあり、この作品と『ル・パルク』の彼のパートナーは現在ローマ歌劇場バレエ団で芸術監督を務めるエレオノーラ・アバニャートだ。昨年6月11日に彼女がパリ・オペラ座でアデュー公演を行った際に、プティの『ランデヴー』を踊っているふたりである。息の合った見ごたえのあるパ・ド・ドゥを東京でも見せてくれることだろう。

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エレオノーラ・アバニャートのアデュー公演より『ランデヴー』。photos:(左)Ann Ray/ Opéra national de Paris、(右)Mariko OMURA

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マニュエル・ルグリ最後の舞台

「オペラ座の素晴らしいエトワールだった彼は僕のダンサーのキャリアに大きな影響を与えました。入団したての僕をとても引き立ててくれ、日本に初めて行くことができたのも彼のグループに誘ってもらったからなんですよ。それに『ラ・シルフィード』『眠れる森の美女』を僕が日本で踊れることになったのも彼のおかげ。彼にはとっても感謝しています。彼は確か僕より20歳上だったと思うのですが、身体のクオリティ、可能性は驚くべきものでいつも感心させられていました。このガラで踊るのが彼にとって最後の舞台ということは、彼の選択です。観客にとって感動的であり、悲しいことでしょうね。ダンスのために奉仕し続けてる彼。このガラの後自分で踊らないにしても、ダンス、バレエの向上のためにポジティブなことを続けてゆくだろうと確信しています。時間ができることで創作の余裕もできるだろうし、これまでしてきたように若いダンサーたちをプッシュし続けるはずです。だからこれは終わりではなく継続なのだという目で見るのがいいでしょう」

 

アンジュラン・プレルジョカージュの『ル・パルク』、パ・ド・ドゥ

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パリ・オペラ座で踊られた『ル・パルク』。マチュー・ガニオのパートナーはアリス・ルナヴァンだった。photo:Yonathan Kellerman/Opéra national de Paris

「プレルジョカージュのこの伝説的なパ・ド・ドゥはモーツァルトの音楽も素晴らしく、僕が今回踊る3つの中で日本では最も知られているのではないでしょうか。僕がこの作品を踊ることができたのは、オペラ座の昨シーズンでした。エレオノーラとは昨年ローマのガラで一緒に踊っています。彼女は僕よりずっと回数多く踊っているけど、僕はまだ彼女ほどでは……。日本の観客に披露できるチャンスを待ち望んでいたので、このガラで踊れることになってすごく幸せです。オペラ座ではアリス・ルナヴァンとドロテ・ジルベールと。パートナーが変わるたびに、身体の発見があり、センシビリティも異なるので毎回新しい物語を紡ぐことになり、また自分の演技、考えを見直す機会にもなります。エレオノーラはマニュエル・ルグリの日本でのガラの仲間でもあり、また彼女のオペラ座でのアデュー公演ではローラン・プティの『ランデヴー』で僕がパートナーでした。スーパースター・ガラで2つのパ・ド・ドゥを彼女と踊れるのは楽しみです」

 

アラスター・マリオット『月の光』、ソロ

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『月の光』。courtesy of Alastaie Marriott

「ロンドンで2017年の秋にイワン・ペトロフ主催のガラ『Men in dance』で、この作品を初めて踊ることになって……創作したアラスターそして彼と一緒に指導にあたるジョナサン・ハウエルズもこの上なく優しい人たちで、仕事はとてもうまくゆきました。コレオグラファーのジョルジオ・マンチーニもそうだけど、ステージがうまくゆくように、ダンサーの価値が発揮されるようにということに務める人たちです。これはドビュッシーの『月の光』が音楽で、エドワード・ワトソンに創作された作品で、そのビデオを見た時にすぐに語りかけてくるものがありました。詩情、夢想……音楽とのコネクションがあって頭の中で旅ができそう、と。作品の雰囲気が気に入って、これを踊るって素晴らしい経験ができそうと思いました。ロンドンで稽古の時間はさほどなかったけれど、流れるような動きですごく自由に感じられ、踊っているとさまざまな色彩が浮かんできました。心が鎮められるソロです」

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ロンドンでイワン・ペトロフが主催したガラ「Men in Motion」で踊った『月の光』。この時の衣装はフィリップ・トレーシーのデザインによるものだった。photo:Courtesy of Alastair Marriott

「この時は帽子デザイナーで著名なフィリップ・トレーシーによる特別な衣装で踊りました。上半身が白い鳥の羽で覆われて、それと白いタイツという組み合わせ。2020年秋にオペラ座のプロセニアム公演『オペラ座のエトワールたち』でこれを踊る機会があり、その時からいまのゆったりとしたパンタロンのコスチュームです。これは上半身が裸なので、最初とは隠されている部分、露出している部分が反対。踊っていて違いがあります。ゆったりとしたパンタロンでは踊っていて空気が脚に感じられて、タイツとは異なるセンセーションが生まれて……踊りから放たれるものは違いますね」

「今年の夏のオペラ座バレエ団のハリウッド・ツアーではこのソロをジェルマン・ルーヴェが踊るので僕が指導しました。音楽を熟知し、ときに譲り、ときに遊んで、といったことや、動きに途切れがないようになどアラスターから僕に伝えられた鍵を彼に伝え、あとは彼の自由、感受性に任せました。ジェルマンがちょっとしたディテールに自分の個性を取り込み、作品を理解したうえで自分に適合させるのを見るのは興味深いものがありました。彼のダンスは流動性にあふれ、見ていてとても気持ちのよいものでした」

 

ローラン・プティの『病める薔薇』、パ・ド・ドゥ

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『病める薔薇』を踊るエレオノーラ・アバニャート。 ©️JC Verchère 

「両親が日本でも踊ったパ・ド・ドゥだけど、僕はまだ小さかったので記憶がないんです。でも何年か前にエレオノーラとオードリック・ブザールが踊ったのを見た時、マーラーの音楽『アダジェット』がとっても美しく、どこか瞑想的な不思議な雰囲気の作品だなあと思ったことを覚えています。スーパースター・ガラでは3作品とも日本で踊るのが初めてで、この『病める薔薇』は初役でもあって……この作品を過去に踊っているエレオノーラがパートナーというのは実に心強いですね。ローラン・プティの作品を踊れることも、とてもうれしい。両親がカンパニーで踊っていたのでプティの作品は子ども時代に無意識に僕の記憶に組み込まれています。でも作品云々というより感情的な思い出のほうが強く、彼は僕の人生において大切な人物のひとりなんです」

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母ドミニク・カルフーニ、『病める薔薇』の思い出

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左: ドミニク・カルフーニ。息子マチューと。 中: ローラン・プティの『アルルの女』より。パートナーはマニュエル・ルグリ。 右: ローラン・プティの『カルメン』。パートナーはドゥニ・ガニオ。photos:D.R.

目下マチュー・ガニオがオペラ座で踊っているケネス・マクミランの『マイヤリング』がロンドンで初演されたのは、1978年2月。その年の11月、パリ・オペラ座では彼の『メタボル』が初演された。オスカー・ワイルドの詩『レディング監獄のバラード』にインスパイアされた作品で、創作ダンサーはマチュー・ガニオの母で当時パリ・オペラ座のエトワールだったドミニク・カルフーニだ。1980年にローラン・プティのカンパニーに移籍。出産後に引退するまでプリンシパルとして彼の作品を多数踊っている。『病める薔薇』もそのひとつだ。初めて踊ったのは35〜40年前ということだが、この作品にどんな思い出があるのだろうか。

「この作品はアメリカでアレクサンドル・ゴドゥノフと踊ったのが初めて。テレビ用か彼のドキュメンタリーか何かのための撮影に声がかかったので急遽旅立ち、到着するやすぐに振り付けを覚えて……と。マイヤ・プリセツカヤに創作された作品だけどカンパニーのレパートリーに入っていなかったので、それまで踊ったこともなく、見たこともなかったんですよ。その時、稽古の時間はあまりとれなかったけれど、薔薇が枯れて死んでゆく、というイメージがとてもポエティックなバレエだと雰囲気がとっても気に入りました。グスタフ・マーラーの音楽も素晴らしく、振り付けも音楽にのって流れるようにとてもゆっくり。動きが止まることなく滑るように続いてゆきます。そして薔薇が死ぬ最後はクレッシェンド。まるで気絶したかのように腕を落とし……薔薇の花弁が散り落ちるような振り付けです。この時はスタジオでの撮影ゆえに可能だったことがあります。バレエの最初、花は閉じています。髪をしっかりとひっつめていて。でもそれがあるところで髪がほどけるんですね。花弁がはらりというように。これは舞台では出来ず、撮影ならではのアイデアで悪くないと思いました」

音楽を耳にするだけで、このバレエを踊る快適さが蘇るそうだ。薔薇の花弁が重なるような軽やかなドレス、いばらの冠も思い出す。アメリカで踊ったのは35年以上も前のこと。その後、彼女は日本でドゥニ・ガニオ(注:マチュー・ガニオの父)と踊る機会を得ているが、もっと回数多く踊りたかった作品のひとつだと語る。

バレエの創作ではときにワンフレーズのために何時もかける振り付け家がいるけれど、ローラン・プティはとても早く作品を作り上げたことを創作によく関わった彼女は覚えていて、

「インスピレーションを得るや、まるで彼の頭の中に映像が見えているかのように、まるで彼の夢が目の前を流れているといった感じに彼は一気に創作。頭を使って知的に考えたものではなく、強いインスピレーションに導かれるように一気に仕上げてしまいます。『病める薔薇』もそうして生まれた感じがしますね。だから踊る時にダンサーとして彼が得たインスピレーションを感じ取ることができ、まるで自分がいちど限りの創作に関わっている、というような気持ちで踊れました」

「このパ・ド・ドゥは男性ダンサーは常に女性の後ろにいて存在が少々控えめですけど、マチューは詩人だと私は思っているので、この役にはパーフェクトなダンサーです。彼ならではのポエジーがこめられ、素晴らしいパ・ド・ドゥが見られることでしょう。この作品は最後に男性ダンサーが後方から薔薇を囲い込むような振り付けです。まるで蛇が薔薇に巻きついて、呼吸をできなくしているように……。女性ダンサーはそこから抜け出そうともがきますが、男性ダンサーの腕はタコの足のごとく身体を締め付けて……愛情が薔薇を殺してしまう。あるいは男性ダンサーは薔薇の死を引き留めようとしているのか。このあたりはダンサーたちの解釈に任されています。マチューはどう踊るのか……乱暴なイメージにはならないことは確かです。私は東京のガラで彼が踊るのを見ることができず、本当に残念!」

「スーパースター・ガラ 2022」
会場: 東京文化会館
日程: 11月24日 19:00開演(Aプログラム)、11月25日 13:00開演(Aプログラム)、11月26日 13:30開演(Aプログラム)、18:30分開演(Bプログラム)、11月27日 13:30開演(Bプログラム)
https://super-stars-gala.com

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editing: Mariko Omura

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