ドロテ・ジルベール、芸術性を極めたパフォーマンス(1) 『ボレロ』初体験と近況をドロテ・ジルベールが語る。

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photo:Julien Benhamou / Opéra national de Paris

今年40歳を迎えるエトワールのドロテ・ジルベール。オペラ・バスティーユで5月28日まで続く公演「モーリス・ベジャール」のトリプル・ビルにおいて、第1配役で『ボレロ』を初役で踊った。各人各様の解釈があり、踊る人の数だけ存在するという『ボレロ』。ダンサーとして円熟期の極みにあるドロテ・ジルベールが見せた16分間のステージもまた、彼女の個性が吹き込まれた見ごたえのあるものだった。赤い卓上に立っていたのは、アンドロジナスというのとも違い、性別を云々する次元を超えた存在で、その挑むような強い視線と気迫! しなやかな身体には野生が宿っていた。初日を終え、休日に会ったドロテはリラックスしているのだろう、いつも以上に笑い声を弾ませ、『ボレロ』体験を語ってくれた。

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踊り手それぞれの『ボレロ』。

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「身体的に私は女性的なフォルムの持ち主ではないでしょ、たとえばアマンディーヌ(・アルビッソン)のようには。それに加えて、この作品って私は男性ダンサーで見るほうが好きなの。そんなことからセンシュアリティを演じることはしたくなかったし、それにこの作品ってそれを表現していないと思う。私がこの作品に感じたのはアマゾンの戦士、女猟師、シャーマンというか……そんなイメージだった。フェミニニティや官能といったことよりもエネルギーやパワーといった男性に結び付けられるクオリティを引き立たせることにしたの」

「この作品、ひどく疲れるのよ。だから耐久性についての仕事をすることがとても大切だと思って、リハーサルの最初から、通しで稽古をしたのよ。初めて通しで踊った時は恐ろしいものだった。私の身体が動きに慣れたところで、力の入れどころがどこも同じにならないようにして疲労を軽減し、呼吸する瞬間を観客席には見えないように見つけて……ほかの部分より少しだけ身体を休ませてから次を攻撃する!というようにしたのね。私、最後に消耗しきったというようには見せたくなかった。なぜかというと疲れを見せたら、ダンサーに人間的な面をもたらしてしまうから。私が求めたのはスピリチュアルな面や神的というか、規格を超えた次元。エネルギーの低下を見せず、最後まで持続させて、この作品は簡単なのだと観客が思ってしまうように踊りたかったのね。このバレエについてコーチをはじめ、この作品に関わる人たちには“すべてを与え尽くし、命の果てにある、というのが傍目にも最後に見える”といったイメージを持ってるようだけど、私はそれとは同じ考えじゃない」

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円卓を囲む男性たちから力をもらって。

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1m近い高さ、直径3mくらいの赤い円卓。その中央で“メロディー”が踊り、周囲を“リズム”と呼ばれる男性ダンサーたちが囲む。

「ずっとひとりで稽古を続けていて、最初のステージリハーサルで初めて彼らと一緒に踊ったの。その存在はすごい力をくれるわね……とても気に入ったわ。それに高いところに自分がいるということから、下から彼らが向ける視線に自分がまるで彫刻のように台座の上にいるといった錯覚があって、神のように崇めらている気がし……演技面でこれはとても役立つし、彼らからのエネルギーにも助けられるわね。高いところで踊るのって、すごく不安を感じるのだろうと予想してたけど、円卓は広さがあるので落ちるのではないかという不安もなく、目眩も感じない。けっこう快適なのよ。もっともこれは私の身体サイズゆえかも。私より大きくて移動幅も大きいユーゴは、別の感覚を抱くのじゃないかしら。円卓で踊るのはけっこう快適だったけど、問題なのはライティングね。プロジェクターの光が眩しすぎて、最初は何も見えなかったのよ。上からの光も強く、卓上を移動していて自分が中央にちゃんと位置しているのかがわからなくなってしまう。普段なら照明が強すぎる、下げて!って文句をつけるのだけど、この作品における照明の重要さがわかってるのでさすがに何も言わなかったわ(笑)」

彼女が踊りたいと希望して配役された『ボレロ』。もし日本で踊れる機会を提案されたら、身ひとつで駆けつけるわ!と言って、これまた大笑いしたドロテだ。

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ずっと夢見ているのは、『椿姫』のマルグリット役。

42歳の定年を迎える前に、このほかにも踊れたらと願っている作品がある。パリ・オペラ座ではルドルフ・ヌレエフ没後10周年を記念して開催されたガラで踊られたフレデリック・アシュトンの『マルグリットとアルマン』。そしてジョン・ノイマイヤーの『椿姫』だ。

「そうなの、『椿姫』のマルグリット役をまだ私は踊ったことがないの。2018年の時の公演でぜひ!と願ったのだけど、私は配役されなかった。過去にこの作品では友人のプリュダンス役、劇中劇のマノン役を踊ってるし、ジョンの作品は『大地の歌』『マーラー交響曲第3番』とも第2配役で主役に選ばれているのに、なぜかマルグリット役だけがまだで……」

彼女がアデュー公演を行うことになる2025~26シーズンのプログラムは、まだ発表されていない。この『椿姫』か『マノン』のふたつのどちらかでアデュー公演ができたらと彼女は考えているようだけれど、まだ先のことである。9月が誕生日の彼女なので9月にアデュー公演となるだろうけれど、もしシーズン中に興味ある作品があればその後もゲストとして踊りたいと願っているそうだ。

「オペラ座ではもうじき大勢のエトワールが去ることになるわね。エミリー・コゼットはすでにあまり舞台に立っていないけど、今シーズンが最後。来シーズンにミリアム(・ウルド=ブラム)でしょ。その後にリュドミラ(・パリエロ)、ローラ(・エケ)と続くので、大きな穴が空くことになる。すでにリュドミラは古典大作はここのところ踊っていないから、ジョゼ(・マルティネス芸術監督)は男性だけでなく、女性ダンサーもどんどん任命してゆかないと……。私は最後までクラシック作品を続けるわ。来季2023~24は『くるみ割り人形』『ドン・キホーテ』といった古典大作はあっても、演劇的作品がないのが残念ね。でもロビンスの『コンサート』が久々にプログラムされているので、うれしいわ。これは昔踊ってとっても楽しかった思い出があるの」

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良い模範として、最後の日まで踊り続けたい。

アデュー公演を語る彼女だが、睡眠をたっぷりとるということで特別なケアはしていないという肌は年齢を感じさせない。もっともヨガで体調を整えているものの、最近は疲労回復に時間がかかるようになって……。

「かつては週に1度のキネジセラピー通いだったけれど、昨年は週に2度となり、今年は週に3度ということもあって。『ボレロ』ではこれまであまり使ってなかった太もも裏のハムストリングスのマッサージが必要で、それに私はふくらはぎが弱いので毎回きちんと回復させて問題が起きないようにしてるの。観客に疲労を感じさせないように努力をしているわ。私たちには素晴らしい先例があって、たとえばミリアムはある時点から作品をとても選ぶようになったけれど、クラシックのけっこうハードな作品も選んでいるし、マニュエル・ルグリ、ニコラ・ル・リッシュそしてジョゼにしたってキャリアの最後まで踊り抜いたわ。アニエス・ルテスチュの42歳で32回転のフェテ!!! これは忘れられない。オーレリー・デュポンもそうだったし、最後まで踊り続けたエトワールたちの素晴らしい先例が私たちにはあるのね。これを若い後輩たちに見せることは大切だと思う。仕事を怠ることなく続ければ、可能なことなのだと証明できる」

彼女はその先のもっと若い世代にも目を向けている。バレエを始めたての子どもたちに向けた挿絵入りの小説『L’Enfance de Dorothée Gilbert(ドロテ・ジルベールの子ども時代)』というシリーズが出版されている。数年前に出版された半自叙伝の『Etoile(s)』の最初のパートで語られている子ども時代に、このシリーズはフォーカスを置いたものだ。

「子どもたちに夢を追うことを語っているの。諦めず、努力を続けて……夢を信じて、全力投入することを!」

最初から優秀な生徒だったわけでないことを、彼女は『Etoile(s)』で語り、バレエ学校時代のあまり芳しくない成績簿を掲載した。このシリーズ中でも同じようにすると思う、と言って大笑いをした。

公演「Maurice Béjart」
L’Oiseau de feu, Le Chant du compagnon errant, Boléro
開催中 〜5月28日
Opéra Bastille
料金:15〜150ユーロ
www.operadeparis.fr

editing: Mariko Omura

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