7月14日、オペラ座の新プラットフォームPOPで『シーニュ』のライブ配信。

かつて「Opéra chez soi(オペラ・シェ・ソワ)」という名前だったパリ・オペラ座のストリーミング・プラットフォームが3月29日から「POP(Paris Opéra Play)」と名前を変え、充実した内容で再出発した。これによって地理的あるいは経済的理由からパリのオペラ座にしょっちゅう来られない人も、まるで劇場に通っているかのようにバレエとオペラ三昧ができる。フランス国内に限らず世界中のどこでも視聴できるのは、以前同様。月契約は9.90ユーロ(28歳以下は4.95ユーロ)、年契約は99ユーロ。契約せずにライブ配信だけのレンタル(14.90ユーロ)も可能だ。7日間の無料お試しもあるので、まずはサイト(https://play.operadeparis.fr/en)のチェックから。
 

ジェルマン・ルーヴェとオニール八菜が踊る『Signes』を自宅で。

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色彩とユーモアに溢れるキャロリーヌ・カールソンの『Signes』。オペラ・バスティーユでの公演は7月15日まで。photo:Agathe Poupeney/ OnP

7月14日パリ時間14時30分からライブ配信されるのは、キャロリーヌ・カールソンがパリ・オペラ座のために1997年に創作した『Signes(シーニュ)』だ。サインを意味するタイトルで、2004年の再演時にマリ=アニエス・ジロがエトワールに任命された作品である。オペラ・バスティーユで最後に踊られてから、ちょうど10年がたった。ライブ配信されるこの日の配役は、最新女性エトワールのオニール八菜とジェルマン・ルーヴェ。エトワール任命後、オニール八菜は『The Dante Project』のファーストキャストでベアトリーチェ役を踊っているものの、ダンテの物語ゆえ彼女が大々的に前に押し出されるという作品ではなかった。この『シーニュ』はオーディションでキャロリーヌにおおいに気に入られたという彼女が、エトワールの羽ばたきを見せる1時間25分だ。相手役のジェルマンはピナ・バウシュの『コンタクトホーフ』で軽妙かつシニカルな味わいで観客を楽しませ、モーリス・ベジャールの『ボレロ』では男性的力強さを観客席に差し出し、“若きプリンス”のイメージから完全に脱皮。『シーニュ』では コンテンポラリー作品ながら、腕を上げるだけでも、つま先を揺するだけでも、スローモーション風の動きでもジェルマン・ルーヴェの踊りとわかる優美な魅力を展開する。抽象的な動きにも自分の色彩を盛り込む見事さに、30歳の若さながら成熟したダンサーの風格が感じられる。かつて『オネーギン』は主人公よりレンスキー役に自分を見いだすと言い、オネーギン役には興味を示さなかった彼だが、もし近々オペラ座のプログラムに入るのであれば、ぜひともオネーギン役で彼を見てみたいと思わせる脂の乗り具合だ。

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『シーニュ』のリハーサルから、オニール八菜とジェルマン・ルーヴェ。公演期間中、日程によってオニール八菜はフロリアン・メラックとも踊る。またキャロリーヌ・オスモンとジャック・ガツォットというスジェの組み合わせの4公演も。photos:Benoit Fanton/OnP

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7月14日にライブストリーミングされる『Signes』はオニール八菜(左)とジェルマン・ルーヴェの第1キャストだ。photos:Benoîte Fonton/OnP

『シーニュ』は画家オリヴィエ・ドゥブレが自身が描いた抽象画のシリーズをバレエに!と、当時の芸術監督ブリジット・ルフェーヴルに持ちかけて生まれた作品である。彼はこの作品で舞台装飾だけでなく、それにマッチした衣装も担当。ステージ上ではダンサーのみならず色彩も踊るのだ。「微笑みのサイン」「朝のロワール河」「ギラン山」「バルト海の僧侶たち」「ブルー・スピリット」「サインの勝利」という7場で構成された幕間なしの1時間25分の作品。音楽はルネ・オーブリーによるオリジナルである。

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オペラ・バスティーユのステージに色彩が弾ける『シーニュ』。写真は2013年の公演から。photos:Agathe Poupeney/ OnP

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クラシックもコンテンポラリーも学校公演も、POPで鑑賞。

リプレイで見られる過去に踊られた作品も数を増やし、今シーズン2022~23の最初に踊られた『PIT』も見られるようになった。これはアライアのピーター・ミュリエがコスチュームを担当。創作はバットシェバ舞踏団出身のボビー・ジーン・スミス×オール・シュライバーによるオペラ座バレエ団のための新作で、配役されている20名のダンサーはカンパニーの中でもコンテンポラリー作品でより大きな魅力を発揮するダンサーたちだ。『ボディ&ソウル』『Play』といったオペラ座に若いバレエファンを大勢生み出したコンテンポラリー作品もリストにある。

9月初旬にいよいよ日本でも公開されるセドリック・クラピッシュ監督、オペラ座のプルミエール・ダンスーズのマリオン・バルボーが主演した『En corps』。この中で振り付け家本人役で出演するのはホフェッシュ・シェクターで、パリ・オペラ座バレエ団でレパートリー入りした彼の初作品『The Art of Not Looking Back』もPOPで繰り返し見ることができる。踊っているのはマリオン・バルボーを含む女性ダンサー9名。またクリスタル・パイトが初めてオペラ座のために創作し、スタンディングオベーションを巻き起こした『Seasons’ Canon』も「Soirée Thiérrée/Shechter/Pérez/Pite」にて視聴可能だ。クラシック作品は『ノートルダム・ドゥ・パリ』『マノン』『ロミオとジュリエット』『椿姫』『スルス(泉)』……。古い収録のものでは、現在ソリストとして活躍しているダンサーのコール・ド・バレエ時代を発見したりというトリビアルなお楽しみも。またバレエ学校の公演も含まれている。中には『les Enfants de Scaramouche(スカラムーシュの子供たち)』のように、ジョゼ・マルティネス芸術監督が学校のために2005年に創作したバレエ『Scaramouche』を巡って、生徒たちがちょっとしたドタバタを繰り広げたTV番組のような貴重なものも含まれている。作品によっては劇場では見られないドキュメンタリーやインタビューが付録についているので、POPはパリ・オペラ座バレエについて知識を深めるのにもおおいに役立つのだ。7日間の無料トライアルから始めてみては?

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コンテンポラリー作品は、アレクサンダー・エクマンの『Play』(左)、クリスタル・パイトの『Body and Soul 』、ビリー・ジーン・スミスの『Pit』など。photos:(左)Ann Ray/ OnP、(中)Julien Benhamou/Onp、(右)Yonathan Kellerman/ OnP

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クラシック作品例。左からケネス・マクミランの『マノン』、ジョージ・バランシンの『真夏の夜の夢』、ジャン・コラリ&ジュール・ペロの『ジゼル』など。photos:(左)Julien Benhamou/ Onp、(中)Agathe Poupeney/ Onp、(右)Svetlana Loboff/ OnP

POP(Paris Opéra Play)
https://play.operadeparis.fr/en

 

editing: Mariko Omura

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