ブルーエン・バティストーニ、『リーズの結婚』で誕生した美しきエトワール。

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ブルーエン・バティストーニ。フレデリック・アシュトン版『リーズの結婚』を踊って、3月26日にエトワールに任命された。photo: Benoite Fonton/ Opéra national de Paris

パリ・オペラ座バレエ団の芸術監督ジョゼ・マルティネスは、昨年3月に男性エトワール2名、女性エトワール1名を任命した。女性ダンサーは人数的に男性を上回っているので、もし今シーズン中に任命があるとしても男性ダンサーでは?と (もっとも具体的に挙がる名前がないという寂しい現状だが......)。

3月26日に『リーズの結婚』のリーズを踊って、ブルーエン・バティストーニがエトワールに任命された。彼女はこの作品で最初アントワーヌ・キルシェールがパートナーと発表されたが、それがマチアス・エイマンに代わり、彼の降板の結果、英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパルのマルセリーノ・サンベがゲストとして彼女の3公演のパートナーとなった。ふたりの最初の舞台は3月24日。その時のブルーエンの仕事を見てジョゼは任命を決めたのだろうか。『リーズの結婚』はほかのどの配役の公演も素晴らしく、観客たちの笑い声があちこちから聞こえるという良い出来栄えだったが、ブルーエンとマルセリーノは実に密度の高く、しっかりとした奥行きのある作品に作り上げていたのだ。この作品はママ、アラン、アランの父といった脇役陣が笑いをとる強力な存在で、ともすればコラス役がかすみがちである。しかし、マルセリーノはこの役を踊るために生まれてきたかのように舞台で存在感を示し、対するブルーエンも超技巧を見せるバレエではないけれど、ひとつひとつのステップを丁寧にテクニック面での達者ぶりを披露し、また歩き方のちょっとしたところに農家の娘らしさを感じさせつつ恋するリーズを巧みに演じていた。ふたりの公演を一輪の花にたとえるなら、中央にブルーエンとマルセリーノという太い花芯があり、その周囲を脇役とコール・ド・バレエが囲んで一体感を生み出していたという出来栄えだった。

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『リーズの結婚』より。公演前、作品の本拠地である英国ロイヤル・バレエ団で稽古をしたブルーエン。過去にリーズ役を踊ったひとりであるレスリー・コリエから直接指導を受ける幸運があった。photo: Benoite Fonton/ Opéra national de Paris

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彼女の任命で10名となった女性エトワールだが、5月18日にミリアム・ウルド=ブラームが『ジゼル』で引退すると再び9名(男性は7名)となる。ミリアムが2012年6月に『リーズの結婚』で任命されていることを思うと、この作品での任命はバトンタッチのようで良いタイミングである。任命時アレクサンダー・ネーフ総裁は彼女を称えるに際し、アリス・ルナヴァンのアデュー公演を"救った"ことに触れた。これは2022年7月13日に、アデュー公演である『ジゼル』の第2幕のヴァリアションの途中でアリス・ルナヴァンが膝を痛めて退場した時のことだ。続きはどうなるのか?というサスペンスは観客はもちろん、パートナーのアルブレヒト役を踊るマチュー・ガニオにも。膝をついてかがみこみ、額に手を当てうつむいているアルブレヒトのもとに舞台上手から現れたジゼル、それが当日コール・ド・バレエとして踊っていたスジェのブルーエンだった(このシリーズでは収穫のパ・ド・ドゥも踊っている)。ブルーエンはジゼル役の代役として稽古はしていてもふたりは一度も一緒にリハーサルもしていなかったのだが、アリスの後を継いだブルーエンは突然にも関わらずパ・ド・ドゥにジゼルの浮遊感を感じさせつつ踊り、見事に公演を終了させたのだ。代役としての稽古を積み、いつステージに立つことがあっても務め上げられるというあっぱれなプロ意識も見せた。公演を"救った"と表現されるこの仕事は、彼女のキャリアについて回る一種の武勇伝だろう。

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2022年7月13日、『ジゼル』第2幕で怪我をしたアリス・ルナヴァンに代わって踊ったブルーエン。photo: Mariko Omura

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2017年に入団し、2018年の初のコンクールで昇級は能わなかったが振り付けの中に物語を感じさせる見事なパフォーマンスを見せた彼女。コリフェに2021年に上がり、その年セルクル・カルポー賞をギヨーム・ディオップとともに受賞。2022年にスジェに上がり、その年にはアロップ・ダンス賞を受賞している。2023年にプルミエール・ダンスーズに。入団以来、クラシックおよびネオクラシック作品に配役されている。今シーズンは『リーズの結婚』の前は、ジェームス・ロビンスの『イン・ザ・ナイト』『The Concert』、イリ・キリアンの『小さな死』を踊っている。この後、5月4日、14日、16日にマルク・モローをパートナーに『ジゼル』、その後は『白鳥の湖』のオデット/オディールに初役で挑む。6月24日、27日、30日が彼女の公演予定日だ。来シーズンは、『マイヤリング』がレパートリー入りした際に配役された皇太子の愛人ミッツィ役を再び踊るか別の役か、『オネーギン』ではタチアナ・デビューをするか、と気になれば、また『眠れる森の美女』のオーロラ姫も美しいだろうし、『シルヴィア』でも凛々しく格好いいだろうし......とさまざまな作品で見てみたい新エトワールの誕生である。

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左: 2021年11月のコンクールで彼女は、イネス・マッキントッシュとともにコリフェからスジェに上がった。なお、その年にプルミエールに上がったのはロクサーヌ・ストヤノフだ。写真はオーレリー・デュポン芸術監督時代、2021年11月に開催された第39回カルポー賞の授賞式より。同時受賞したギヨーム・ディオップとブルーエン。 右: 2023年10月14日にオペラ・バスティーユで行われた『イン・ザ・ナイト』のファーストカップルのパ・ド・ドゥの公開リハーサルより。コーチとの仕事の後、彼女はトマ・ドキールとともに来場者からの質問にひとつひとつ丁寧に答えた。photos: Mariko Omura

editing: Mariko Omura

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