ガルニエ宮で、ダンスのシーズン開幕ガラ。ジュニア・バレエのデフィレのチュチュにはルマリエの羽根刺繍とカメリアが。
パリとバレエとオペラ座と 2025.10.08
今年250周年を祝うガルニエ宮で、9月27日、パリ・オペラ座バレエ団のシーズン2025-26のオープニング・ガラが開催された。今回も恒例のデフィレで開幕。バレエ学校の生徒、パリ・オペラ座のグランパトロンを務めるChanelがその発展を支援する2024年設立のジュニア・バレエの団員たち、そしてカンパニーの団員の順に総勢330名がフレンチ・エレガンスあふれる行進で観客席を魅了した。
2021年から女性エトワールたちがデフィレで着るチュチュのコルセットとティアラはルサージュの刺繍職人たちとパリ・オペラ座のアトリエで特別制作されている。今回はさらにジュニア・バレエの女性メンバーたちのコスチュームにも注目したい。彼女たちのチュチュには羽根細工と花細工を手がけるルマリエがオーストリッチの羽根を手作業で刺繍し、そして胸元には羽根と白いサテンのカメリアが可憐に飾られて......。ジュニア・バレエの入団希望者が増えるのではないか、と思わせるほどチャーミングだ。なお女性エトワールのトリは1シーズン延期して来年の開幕作品でアデュー公演を行うドロテ・ジルベール。そして男性エトワールは2014年からトリを務め、3月にアデュー公演を行いオペラ座を去ったマチュー・ガニオに代わりマチアス・エイマンである。久々にステージに姿を現した彼に会場からは惜しみのない拍手が送られた。デフィレによって幕が開いたシーズン2025~26はジョゼ・マルティネス芸術監督が100パーセント組み立てた初のプログラム。楽しみである。
白とゴールドの花で品格高い装飾を施されたガルニエ宮。photograhy: Virgile Guinard
デフィレ。生徒&ダンサーたちの行進の出発点であるステージ裏のフォワイエ・ドゥ・ラ・ダンスの煌めきの空間が、夢のような背景をなしている。©OnP
デフィレで、ジュニア・バレエの女性ダンサーたち。12着のチュチュを飾るオーストリッチの羽根と胸元のカメリアに注目を。©Chanel
シャネルのメゾンダールのひとつ、ルマリエのサヴォワールフェールがもたらされたジュニア・バレエの女性ダンサーのコスチューム。©Chanel
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デフィレの次は、Annabelle Lopez Ochoaが振り付けた『Requiem for a rose』。この20分の作品を踊ったのはジュニア・バレエの13名で、昨年結成されたジュニア・バレエが初めてガルニエの舞台で仕事を披露するという記念すべき出来事となった。この作品は2009年にペンシルバニア・バレエ団のために創作された作品で、今年5月にオペラ座バレエ団のレパートリーに入った作品だ。ジュニア・バレエは夏前からさまざまな都市で公演を行っているので、『Requiem for a rose』は彼らにとって踊り慣れた作品のひとつといえよう。バラの命を象徴するダンサー1名の周囲で、裏表が赤い濃淡のフレアスカートを広げて12名の男女ダンサーが旋回し、ステージ上に大輪のバラの花を開花した。
『Requiem for a rose』より。心臓の鼓動を表す音とともに、赤いバラを口にくわえた素足の女性ダンサーがコンテンポラリーの振り付けで踊ることから始まる作品。彼女は愛と純粋な心のヴィーナスを象徴しているそうだ。©Maria-Helena Buckley/ OnP
花が開き、枯れて、再び開き......と、シューベルトの曲に乗せて赤いバラが舞うように。パ・ド・ドゥでは女性ダンサーはポワントで踊った。©Maria-Helena Buckley/ OnP
30分の休憩のあと、いよいよ今シーズン開幕作品であるクラシックの名作『ジゼル』である。パク・セウンとジェルマン・ルーヴェが技術的にも芸術的にも素晴らしく、感動あふれる舞台を見せ、ふたりがエトワールとして成熟の域にあることを強く感じさせた。昨年末『パキータ』を踊って任命された最新エトワールのロクサーヌ・ストヤノフは実に威厳あるミルタ像を作りあげ、『赤と黒』のメイド役でも発揮した演劇性の高さで物語に深みをプラスしていた。
なお昨シーズンから、開幕公演のふた晩がガラと同じプログラムで行われるようになった。今シーズンは9月30日、10月2日。通常は『ジゼル』だけのところ、デフィレで始まり、そしてジュニア・バレエの『Requieme for a rose』も踊られる。ガルニエ宮内の装飾はないけれど、これまで限られた数の人だけが体験していたガラの魅力が一般観客にもシェアされるようになったのだ。
『ジゼル』第1幕より。村娘ジゼルはパク・セウン、高貴な身分を隠してジゼルに恋する若者アルブレヒトはジェルマン・ルーヴェという配役で踊られた。©Maria-Helena Buckley/ OnP
第2幕より。舞台空間を浮遊する精霊になりきっていたセウン、ダンスール・ノーブルぶりを発揮したジェルマン。©Maria-Helena Buckley/ OnP
ミルタ役のロクサーヌ・ストヤノフ。©Maria-Helena Buckley/ OnP
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スーペは3人のシェフが共演
公演の後は、ガルニエ宮のグラン・フォワイエとその周囲のスペースにテーブルを並べて750名以上が参加のスーペ。最近は1人のシェフではなく前菜、メイン、デザートについてシェフを変えている。選ばれるシェフはフランス・ガストロノミーの新星たちで、今回、前菜はクリエイティビティと味の良さが評判で予約の取れないレストランDandelionのシェフ、アントワンヌ・ヴィラールによるアーティチョークとストラチャテラ、それにインド系スパイスのヴァドゥーヴァンを効かせて野菜の味をより深いものにし、白いアーモンドが視覚のコントラストを添えて軽さを表現した一品。メインはCheval d'Orのハンス・グエコによるランド地方のヴォライユに野菜のファルシーで、胡麻&パプリカソースがコスモポリタンな味を生み出していた。そしてデザートはゼリカ・ディンガが率いるクリエイティブ・スタジオCaro Diarioによる軽やかなチョコレート・リエジョワ。日頃ポップアップでしか味わえないゼリカのアイスクリームが洗練された味わいとビジュアルで、食卓に輝きをもたらして食事を締めくくった。伝統と革新のパリ・オペラ座バレエ団にふさわしい内容のこれら食事に合わせられたのは赤ワインがシャネルのシャトーからCroix Canon 2018、そしてシャンパンはTaittinger Comptes de Champagnes Blanc de Blancs Grands Crus 2014という厳選の飲み物だった。
左:メニューはチュチュの写真がカバー。 右:前菜はDandelion(46, rue des Vignoles 75020 Paris/@restaurant.dandelion)。 photography: Mariko Omura
左:メインはCheval d'Or(21, rue de la Villette 75019 Paris/@chevaldorparis)。 右:デザートはCaro Diario(@carodiarioparis)。photography: Mariko Omura
ディナー中盤から地下のロトンド・デ・ザボネで始まり、午前4時頃まで続くアフターパーティ。ダンサー、ゲスト、ディナーを終えた食事客たちがクラブ化した空間に集まりオープンバーとダンスに興じ......。AROP(l'association pour le Rayonnement de l'Opéra de Paris)がオーガナイズするパリ・オペラ座バレエのシーズン開幕ガラ。パリ・オペラ座の光輝のための協会というだけあり、11回目の今回のガラも歴史あるバレエ団の名前にふさわしく華やかに展開された。パリ・オペラ座のグラン・パトロンであるChanel、パリ・オペラ座の時計であるRolexの両者による並外れたサポート、さらに個人および企業の寄付者で構成される名誉委員会のメンバーたちの寛大さのおかげで、オペラ座の活動のために約150万ユーロの寄付がこのガラで集まったそうだ。
左:照明と装飾でガルニエ宮が表情を変えるガラの宵。 右:地下のアフターパーティ。photography: 左 Virgile Guinard、右 Mariko Omura
editing: Mariko Omura