オペラ・ガルニエ、150年経っても色褪せぬ神話的存在の魅力を展覧会で。
パリとバレエとオペラ座と 2025.12.17
オペラ大通りをルーヴル宮を背に上がってゆくと、突き当りの広場に威風堂々たる姿を現すパリ・オペラ座。建築コンクールで選ばれたシャルル・ガルニエが建築し、劇場の落成式が行われたのはいまから150年前、1875年1月15日だ。壮麗な美しさに、まるで宮殿に足を踏み入れたような錯覚を人々が得たことから建築家の名前をとってガルニエ宮と呼ばれることになった劇場だ。

壮麗な装飾に施され、劇場ではなく宮殿のようなオペラ・ガルニエ。photography: Mariko Omura
150周年を記念して、現在劇場内のミュージアムで展覧会『ガルニエ宮、神話的劇場の150年』を開催中だ。ガルニエ宮と呼ばれることになる現在のパリ・オペラ座の建築は、皇帝ナポレオン3世がペルティエ通りにあったオペラ座で、イタリア統一を図り、皇帝をその邪魔者とみなすオルシーニが主犯の爆弾による暗殺未遂に遭ったことから、身の安全が保障される場所に新しいオペラ座の建築を希望したことがきっかけである。建築を託されたシャルル・ガルニエは、いずれ来場する皇帝のための専用入口はもちろん、彼が乗ってくる馬車のためにもスペースを用意した。それがこの展覧会が開催されている場所である。1862年に着工した工事は遅れに遅れ......その間に新オペラ座建築を望んだナポレオン3世は失脚し、フランスから逃れたロンドン近郊の地で1873年1月9日に客死。2年後に落成したガルニエ宮に足を踏み入れることもなかったのだ。劇場内には皇后のためのボックス席と向かい合わせに皇帝のためのボックス席も設けらていて、そこは現在アレクサンダー・ネーフ総裁の席となっている。

舞台下手側、ナポレオン3世のために設けられたロージュ(写真左)。その向かいが皇妃ユージェニーのためのロージュ。それぞれのロージュの左右の女性像を覆う衣の違いに注目を。photography: Mariko Omura

展覧会より。シャルル・ガルニエによる新オペラ座のファサードと両サイドのパヴィヨンのデッサン。1861年。©BnF, Bibliothèque-musée de l'Opéra

展覧会より。Louis-Émile Durandelleが撮影した新オペラ座の正面工事。©BnF, Bibliothèque-musée de l'Opéra

展覧会より。Jean-Léon Gérômeによるシャルル・ガルニエの肖像(1877年)。©BnF, Bibliothèque-musée de l'Opéra
展覧会はシャルル・ガルニエによる貴重なデッサンを展示し、建築をテーマにスタート。駆け足で150年の歴史を語るように、複数の小さなテーマで構成されている。建物とアートの関わりとして、地下の湖も含めガルニエ宮が舞台の映画『オペラ座の怪人』の部屋が設けられ、オペラ座内の公演については、主にマリア・カラスとワグナーにポイントを置いて歌劇についての展示を。バレエについては"バレエ・リュス"をめぐる展示、過去の女性ダンサーの肖像画、アリシア・アロンゾ版『眠れる森の美女』の衣装......。
ガルニエ宮がダンスのための劇場としても認知されるきっかけ絵となるバレエ・リュスの紹介があり、それに続く"社交の大聖堂ガルニエ宮"というテーマでは、絵画を集めたコーナーが設けられている。また、日頃あまり目にしない第二次世界大戦中のガルニエ宮の写真と映像も。ナチスのハーケンクロイツが描かれた赤い垂れ幕がガルニエ宮に下がる光景を目にするのは珍しいのでは? 途中、オペラ座におけるクリエイションとインスピレーションをテーマにバレエ4作とオペラ4作からの抜粋を見せる小さな画面が設けられ、さらに奥まった映写スペースでは、ガルニエ宮内で撮影された複数の映画の抜粋を見せている。この中のおなじみはやはりオードリー・ヘップバーン主演の『パリの恋人』だろうか。ガルニエ宮の見学者はこの展覧会は自由に鑑賞でき、また劇場内を歩いて、いくつかのウィンドウに展示されている衣装展を見ることもできる。

左:展覧会の始まりは、ナポレオン3世の胸像と新オペラ座の模型。 右:展覧会の最後。左はジュール・ユージェンヌ・ルネプヴゥによるガルニエが依頼した天井画(1872年)は、現在のシャガールの天井画の下に1968年以来隠されている。その右は1865年にシャルル・ガルニエが描いた大階段の断面図。photography: Mariko Omura

左:オペラ座の怪人をテーマにしたコーナー。中央はジュリアン・ルペール監督による映画『オペラ座の怪人』(1925年)のポスター。 右:マリア・カラスの衣装、ステージ写真を展示。

左:ヌレエフ版『ラ・バヤデール』のためのエツィオ・フリジェリオによる舞台装置の模型(1992年)。 右:ジャック=エミール・ブランシュによるロシアン・バレエのスターダンサー。左は『シェヘラザードにおけるイダ・ルビンスタイン』(1911年)、右は『火の鳥におけるタマラ・カルサヴィナ』(1910年)。

オペラのための殿堂として劇場の歴史を始めたガルニエ宮。バレエのための劇場としても認められるのは、ロシアン・バレエの公演による。

社交の場としてのオペラ座。左:Henri Gervex作『オペラ座の舞踏会』(1885年)© Musée d'Orsay, Dist.GrandPalaisRmn / Patrice Schmidt 右:右上のデッサン(1899年)には、公演中ロージュでピクニックをする人々が描かれている。
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11月22日、23日には150周年を祝ってグラン・フォワイエを会場に、「ガルニエ宮、あらゆるファンタスムの対象」と題して5つのカンファレンスが行われた。「ガルニエ宮、建物そのものがショーである」「ガルニエ宮はクリエイションの場?」「ガルニエ宮、ダンスの聖堂」「ガルニエ宮と政治的権力」「芸術におけるガルニエ宮」と、この展覧会に呼応するようなテーマが設けられ、毎回3~5名のゲストと進行役が1時間半、壇上で語るという形式だった。たとえば「ダンスの聖堂」で壇上に並んだのはジョゼ・マルティネス(芸術監督)、エリザベット・プラテル(学校長)、ドロテ・ジルベール(エトワール)、そしてノエ・スーリエ(CndC-Anger ディレクター&コレグラファー)。「芸術におけるガルニエ宮」ではファーストコレクションをガルニエ宮内で発表したドリス ヴァン ノッテンのクリエイティブディレクターであるジュリアン・クラウスナーがその体験と感動を語り、来秋公開される映画『オペラ座の怪人』の監督アレクサンドル・カスタニェッティがオペラ座内で敢行した撮影を語り......。カンファレンス会場のグラン・フォワイエ内には椅子が並べられ、参加者たちにとっては座った状態で話に耳を傾けながら、日頃とは異なる視点からシャルル・ガルニエの仕事をじっくりと眺めることもできる機会となった。

11月にグラン・フォワイエで開催されたカンファレンスより。photography: Mariko Omura

ガルニエ宮内に展示されているコスチューム。左はルドルフ・ヌレエフ版『くるみ割り人形』の主人公クララの衣装。右はヌレエフ版『眠れる森の美女』から。右のプリンス・デジレの衣装はジェルマン・ルーヴェ着用。photography: Mariko Omura
開催中~2026年2月15日
Bibliothèque -musée de l'Opéra
Palais Garnier
75009 Paris
※入り口:Rue ScribeとRue Auberのコーナー
開)10:00~17:00
料)15ユーロ(フリー見学チケットに含まれる)
https://www.operadeparis.fr/
@operadeparis
editing: Mariko Omura





