オーベルジュ・オーフ ~小松市・観音下町/石川県~ 山里の元廃校から、オーベルジュの新たな魅力を発信!
ホテルへBon Voyage 2023.01.29
「オーベルジュ オーフ」という名に惹かれ、雪の降り始める季節を迎えた静かな山里を訪れました。周囲を小高い山に囲まれ、清涼な湧水がいくつもの渓流となり流れ、時には急流となって激しくも美しく流れ落ちる滝の風景にも出会う山里……。オーベルジュは、石川県小松市から山へ入り込むこと20分あまり、ひっそりとした“観音下町”(かながそまち)という一画に佇んでいます。閉校となった旧西尾小学校のノスタルジックな校舎に念入りな化粧直しが施され、鋭い感性で独自に創造されるグルメな食事と、スタイリッシュな客室を提供する新しいオーベルジュに様変わりしています。
この地域では「観音下自然環境保全地域」(昭和53年3月31日指定)として、山里の原型を残す自然が護られているのです。また山々は、かつてこの地が「観音下石切り場」(かながそいしきりば)として大正初期から賑わっていた歴史があり、ここは現国会議事堂など全国の近代建築には欠かせなかった日華石(浮石質凝灰岩)の故郷でもあるのです。そんな山肌には高さ50m以上の採石場の石壁が残され、「オーベルジュ オーフ」にとっては圧巻の借景となっていました。
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「オーベルジュ オーフ」の魅力は、まずは食事にあります。コンセプトには“自由な発想と感性”と掲げるシェフの糸井章太氏。磨いてきた自らの感性やセンスでこの土地や文化と向き合い、“オーフ”の料理として提供したいと語っています。92年生まれの31歳という気鋭のシェフはフランスで研鑽を積み、帰国後に数々の料理コンクールで優秀な成績を残している実力派。実際に楽しみにしていた料理をいただき、どこの料理とも違う斬新さには驚かされました。ひとつひとつの食材が醸す繊細な香りを大切にし、次に食材の本来の味の活かし方も絶品でした。いずれの皿も理屈ではなく、素直に美味しいと思えることが食す者にとってはうれしいこと。さらに朝食時のこと、漬物に煩い私は、和食膳に添えられた自家製糠漬けの新鮮な味に幸せを感じました。
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客室は全12室。広い校舎の教室が使われているため、部屋ごとに少しずつ広さやデザインが異なり、廊下にも、客室にも、飾られている現代アートが個性的です。また、3年1組の教室はスイートルームに、3年2組はジュニアスイート、図書室をコンバージョンし……など、各部屋造りが面白いのです。客室は最大のスイートルームで77㎡、ボトムの客室で28㎡、どの客室もモダンにリノベーションされ、それぞれに違う現代アートがアクセントになっています。
オーベルジュ1階のエントランスを入ると、宿泊者のチェックイン機能を持つカウンターや、外来の観光客も利用可能なカフェが造られています。薪ストーブの燃える暖かな空間では、清浄な水にこだわるドリンクメニューが楽しめます。このオーベルジュに隣接して、日本酒造りの酒蔵「農口尚彦研究所」がありますが、その酒蔵で使う名水の仕込み水を、このカフェではドリンクメニューとして贅沢に使われているのです。酒蔵では見学もでき、日本酒を買うこともできます。日本酒愛好家なら知らない人はいないではずの“酒造りの神様”と言われる名杜氏、農口尚彦氏のストーリーも知ることができます。
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オーベルジュの開業は2022年7月14日。フランス語のeau(オー、水)とfeu(フ、火)という料理に欠かせないふたつの言葉を重ねた洒落た名前です。もともとフランスで始まったオーベルジュの歴史を辿ると、中世にまで遡るといいます。フランスでは名シェフと言われる料理人が、オーベルジュやレストランを人里離れた田舎に作ることが珍しくありません。郷土料理や自慢の腕を振るう食事と、当然、ワインも飲めるようにと泊まる部屋が造られた歴史が、いまもなお、継承されているのです。遠路はるばる帰路に就かず、飲んで食べて、寝るという、グルメに愛されるオーベルジュの存在。ここ「オーベルジュ オーフ」もそんなグルメたちを喜ばせています。
オーベルジュ オーフ
石川県小松市観音下町口48
Tel:0761-41-7080
https://eaufeu.jp
Kyoko Sekine
ホテルジャーナリスト
スイス山岳地での観光局勤務、その後の仏語通訳を経て94年から現職。世界のホテルや旅館の「環境問題、癒し、もてなし」を主題に現場取材を貫く。スクープも多々、雑誌、新聞、ウェブを中心に連載多数。ホテルのコンサルタント、アドバイザーも。著書多数。
http://www.kyokosekine.com