2023年春夏コレクションを発表する9月26日の前日、バーバリーのインスタグラムには一本のショートフィルムがアップされていた。
映像作家のマーク・アイザックスによる作品。漂うノスタルジックさも、イギリスの海岸沿いならではの雰囲気だ。
イギリスの海岸沿いに集う人々が次々と映し出され、彼らに「ビキニを着た時はどんな気分?」「海辺で恋に落ちたことは?」「子ども時代の海の思い出は?」などの質問を投げかける。
カフェの屋外テーブルに座る老カップル、犬を連れたご婦人、ゴシックスタイルのグループ。さまざまな人たちが、ビーチに行くには少し残念な感じのイギリスの典型的な灰色の空の下、向けられた問いに思い思いの回答をする。ちょっと皮肉な答えもあるけれども、それぞれが自分なりの想いを携えて海辺にいるのが感じられる。
北国のイギリスでは夏でも海水浴ができるほど暑くなる日はそう多くはない。泳ぐことは出来なくても、たとえ最悪のお天気でも、人々は海辺へ行く。広い海と広い空は特別なのだ。
チーフ・クリエイティブ・オフィサーのリカルド・ティッシは今回のコレクションについて、こう語っている。
「夏になると、英国のビーチはデモクラシーとコミュニティの場になります。ビーチはあらゆる文化の人々が気軽に集まって楽しめる場所だからです。私は、そのビーチの理念やビーチでの感激を、コレクション全体に反映させたいと思いました。現実での親交や喜びのスピリットを表現したかったのです」
「今回のコレクションは、人々が出会い、異なる世界が交わる場であるビーチからインスピレーションを得ています。 服を着ることと脱ぐこと、肌の露出と保護、下着と上着の間にある緊張感のすべてはこの瞬間を感じさせるもので、 現代のバーバリーのDNAに組み込まれています」
そんなティッシの言葉の通り、今回のコレクションではアウターウエアとアンダーウエア、スイムウエア、ランジェリーなどにインスパイアされながらも、それらを再構築し、融合させ、文脈を変え、新しい解釈をプラスして、一歩も二歩も抜きん出た服に昇華した。
ルック052
スイムウエアと合体したようなフルレングスのドレス、シルクサテンのボディスーツに長いトレーンをプラスしたミニドレス、ランジェリーのパーツをフィーチャーした端正なテーラードジャケットなど。美しくセンシュアルで新鮮さに満ちている。
優美なレイヤードの提案も目を引いた。ランジェリーを思わせるドレスの下に重ねられたキャットスーツやレギンスは、船の丸窓を思わせるカットアウトや繊細な刺繍で飾られてる。格子のような柄でグラフィカルに表現されたブランドアイコンの馬上の騎士の装飾は特に印象的だった。
洗いをかけて新たな爽やかさと柔らかさを生地に加えたシグネチャーのトレンチコートや、日に焼けたウォッシュドデニムも海辺の潮風を感じさせる。
左:ルック021、右:ルック031
左:ルック010、右:ルック018
左:ルック056、右:ルック057
左:ルック068、右:ルック074
シーサイドの楽しさを最大限に代弁していたのは、なんといってもアクセサリーの数々だろう。腕用の浮き輪を模したバッグ、フリップフロップを思わせるシューズ、浮き具などのバルブを型どったリング、サメ型のイヤリング。レース、レザー、シアー、シースルーのサステナブルなPVCで作られたサンハットやサンバイザーも、今コレクションの気分を語る重要なアイテムとなっていた。
ルック006
ルック043
自然と育成、先進技術と手仕事。そんなバーバリーのスピリットをビーチというフィルターを通して具象化した今回のコレクション。そこにはイギリスの風土や人々の気質、さらには人種のるつぼであるバーバリーの故郷ロンドンをビーチに置き換えて、満ちあふれる開放感とダイバーシティへの意思を訴える力強さも感じられた。
またナオミ・キャンベル、エリン・オコーナー、カレン・エルソンらのイギリスを代表するモデルたちも次々と登場し、ランウェイに花を添えたのも記憶に残った。
ルック002
2018年に就任して以来、従来のバーバリーのイメージを一新したことでも知られるチーフ・クリエイティブ・オフィサーのティッシだが、ショーの数日後に退任の速報が流れ、これが彼による最後のバーバリーのコレクションとなった。
イタリアで生まれ育ちならがらも、17歳でファッションを学ぶためにロンドンにやってきたティッシ。バーバリーの本拠地でもあるこの街独特の多様性を繰り返しテーマとしていたのは、彼自身がそのキャリアの中で強く感じ続けてきたことなのかもしれない。
ティッシの後任には「ボッテガ・ヴェネタ」の元クリエイティブ・ディレクターのダニエル・リーが決まっている。奇しくもリーは、ティッシの前任者で新しいバーバリーを確立したクリストファー・ベイリーと同じ北イングランドのヨークシャーの出身だ。
バーバリー・ジャパン
tel: 0066-33-812819
www.burberry.com
www.instagram.com/burberry
www.facebook.com/BurberryJP
https://twitter.com/Burberry
LINE ID: @burberry_jp
Photography: Imaxtree Editing: Miyuki Sakamoto
在イギリスライター。憂鬱な雨も、寒くて暗い冬も、短い夏も。パンクな音楽も、エッジィなファッションも、ダークなアートも。脂っこいフィッシュ&チップスも、エレガントなアフタヌーンティーも。ただただ、いろんなイギリスが好き。