空間そのものもアート。
北マレの新ギャラリー galerie BSL
デザイン・ジャーナル 2010.09.17
仕事でパリへ。仕事のあい間にmerciの「UPCYCLING」も堪能でき(ああでもこれも私の仕事の一環ですね...!)、ジュ・ドゥ・ポーム国立美術館でのウィリアム・ケントリッジ展も閉幕直前に鑑賞できたり、さまざまな楽しみも含んだ出張に。
携えた「空き時間があったら行けるといいな」リストすべてをこなせる時間はとてもありませんでしたが、気になっていた新ギャラリー、BSLを訪ねることができました。
galerie BSL。Photo: Noriko Kawakami
アポイントメント制のギャラリーなので、まずは電話をしてみると、電話口に出てくれたのは、オーナーで、ディレクターを務めるBéatrice Saint-Laurent(ベアトリス・サンローラン)さん本人。「今日は私がギャラリーにいるので、何時でもどうぞ」。
galerie BSLはmerciと同じ、話題の北マレに。散策の楽しいエリアにあります。
「1時間半以内にはうかがえると思います」。そう伝えて電話を切ったら、急に空き時間ができてしまい、タクシーでまずはギャラリーのある通りへ。......と、予想に反して通りがすいていて、15分で到着。カフェでコーヒーを飲んでからギャラリーに向かいましょう、と考えていたら、さっきまでの晴天がウソのように、急に雨が降り出して......!
傘を持っていなかった私は、あらあらと思いながら、BSLのブザーを押しました。
「1時間半以内に来る予定だったワタクシです(笑)」「まあもう到着!(笑)」。
ドアをあけると、目の前には、床から天井までゆるやかに連なる白い曲線が。
ディレクターのBéatrice Saint-Laurentさん。Photo © Nicolas Guerbe
このgalerie BSL、まずは空間そのものに特色があります。「よくあるホワイトキューブのギャラリー空間にはしたくなかったの」というディレクターの思いをくみとり、人工大理石を活かした空間をデザインしたのは、活躍中のデザイナー、Noé Duchaufour-Lawrance(ノエ・デュショフール・ローランス)。
エモーショナルともいえるその空間で、これまた個性的な品々が紹介されています。Gino Sarfatti(ジーノ・サルファッティ)、Joe Colombo(ジョー・コロンボ)、Ettore Sottsass(エットレ・ソットサス)ら、今は亡き巨匠たちが手がけた品々。倉俣史朗さんが1970年代にデザインした『K-SERIES』、「オバQ」と呼ばれている照明器具も。
ヴィンテージ・プロダクトだけではありません。現代の注目すべきデザイナーたちの、ユニークピースやエディション作品も扱われています。
空間がまずアート。「未来的であると同時に手作業的な趣も備えた空間を」と考えていたベアトリスさんの期待通りの空間に。Photo: Courtesy of galerier BSL
ギャラリーオープンは5月でしたが、この「デザイン・ジャーナル」で以前「ポスト・フォッシル展」の記事でとりあげたNacho Carbonell(ナチョ・カーボネル)の作品や、やはり同展に参加してくれたDim Berger(ジム・ベルゲル)の作品が、BSL開廊時を彩っていたそう。私の好きな若手たち。ギャラリーのディレクションに親しみを覚えます。
ナチョの活躍ぶりはこのコラムですでに紹介した通り。そしてジムも、彼の可能性を感じ、今後の活躍がとても気になっていたデザイナーでした。この日もギャラリーには二人のユニークピースやエディション作品が置かれていて、本当に嬉しかった。彼らの作品にパリで会えるなんて!
ナチョ・カーボネルのユニークピース。Photo: Noriko Kawakami
ジム・ベルゲルの、ポーセリンのスツール。BSLのためのオリジナル・エディション。かつて見たことのなかった色彩も目にでき、彼の今後にさらに興味を持ちました。Photo: Noriko Kawakami
ファッションやジュエリーにも目が向けられているのも、galerie BSLの特徴です。
ベアトリスさん、「Robe-bijou、ドレス・ジュエリーです」と、ジェリーとドレスが一体に考えられた美しい作品も紹介してくれました。「身につけることのできるアート、ファンクショナル・スカルプチャーね」。
Taher Chemirikの「ドレス・ジュエリー」。他にも様々なデザインがあり、彼らしいハイ・ジュエリーも。Photo: Ulysse Fréchelin, Photo Courtesy of galerie BSL
曲線表現を好む建築家/デザイナー、Ron Arad(ロン・アラッド)のデザイン。限定制作のイヤリング。Photo: Ulysse Fréchelin, Photo Courtesy of galerie BSL
颯爽と歩きながら説明をしてくれる彼女の言葉の、一つひとつが印象的です。話をするうちに、フランス文化庁で現代美術を専門とするコミュニケーション・エディターとして働いた後、フランス外務省で大臣のスピーチ文章を担当していた方だったことを知りました。彼女らしい視点で、デザイン/アートの様々な魅力を発信してくれることでしょう。
四角いケース内にジュエリー等が紹介されていて、そのスタンドそのものも美しいオブジェ。上2枚はオープン時。奥にナチョの椅子が。Photo: Courtesy of galerie BSL
デザイン、アート、それにファッションの話題も。次回はもっとゆっくり会いましょうね、と話をしながらgalerie BSLを後に。パリ再訪の新たな楽しみが、またひとつ。
Galerie BSL
http://galeriebsl.com
火〜土 11:00〜19:00、事前にアポイントメントを
9月17日から11月27日まで、
「'Domestic ponds' by Duende Studio with Mathieu Lehanneur,
Benjamin Graindorge and Eric Jourdan」

Noriko Kawakami
ジャーナリスト
デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。
http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami