28組のデザイナーがニットで提案、「Knit! by Kvadrat」開催。

9月3日から9月5日まで、コペンハーゲンでデザインフェスティバル「3 Days of Design」が開催されます。この3日間、デンマークのテキスタイルメーカー、Kvadrat(クヴァドラ)のコペンハーゲン・ショールームでも、気になるプロジェクトのお披露目が予定されています。

それが「Knit! by Kvadrat(ニット! バイ・クヴァドラ)」。インターネットを介して目にできるデジタルエキシビションも行われ、作品はもちろん、デザインプロセスなども特設サイトで目にできるようになります。

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「Knit! by Kvadrat」。photo : Luke Evans

プロジェクトでフォーカスされるのはクヴァドラのニットテキスタイル「Kvadrat Febrik(クヴァドラ・フェブリック)」

テキスタイルの産地として知られるオランダ、ティルブルフで創業し、第一線で活躍するデザイナーの家具に採用されてきたハイエンド・ニットを開発してきたフェブリック社が2年前にクヴァドラのグループとなったことで誕生した、ニットのコレクション。

クッション性や独特の奥行を備えたテクスチャー、ストレッチ性をもたらす構造がそのまま柄として楽しめるなど、ニットならではの魅力に満ちたテキスタイルが揃えられています。

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「クヴァドラ・フェブリック」。構造そのものもニットの魅力。編み方で異なるニットの表情と、100色以上という豊かな色彩も特色。photo : Courtesy of Kvadrat

クヴァドラ社副社長のヌーシャ・デ・ギアをはじめ、デザインライター、キュレーターのアニーナ・コイヴやジョアンナ・アガーマン・ロス、デザイナーのジェフリー・バーネット、「フェブリック」クリエイティブディレクターのレネ・メルクスが選出したのは16か国の28組。国際的なアワードを近年受賞するなど、注目の若手デザイナーたちも含まれています。

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オランダ、ロッテルダムを拠点とするBertjan Pot(ベルトイアン・ポット)の「Dutch-Taped Blankets(ダッチ・テープ・ブランケット)」。ニットテキスタイルでのブランケットの端に用いられているのはなんと工業用プラスチックテープ。カラーリングにも注目を。photo : Luke Evans

日本からも藤城成貴さんと熊野 亘(わたる)さん、そしてスウェーデンを拠点に活動している森山 茜さんが参加しています。

クヴァドラ・フェブリックの工場に足を運んだことがあるという藤城さん。「1枚の生地でも三次元構造によって凹凸が強調され、何か立体物をつくる感覚に近く、プロダクトデザインの発想やつくり方との共通点を感じました」と語ってくれました。そうしたニットの特性を最大に生かした作品が「Bumpy Basket(バンピー・バスケット)」です。

「凹凸のある状態を意味する『バンピー』のことばのとおり、入れた物のかたちが浮き出るようなバスケットです。ニットテキスタイルの最大の特色であるストレッチ性を視覚的に感じられるものをと考え、生地と生地のあいだにロープをさし込んで凹凸をつくる発想にたどりついたんです。格子状に硬めのロープを入れることでの強度が増し、カゴの形状が保たれます」(藤城さん)

大きさは3種類あり、最大のものは高さが1mにも。サイズにあわせ、用いられたニットテキスタイルの種類が異なります。

テキスタイルとロープを手に試作を重ねたと語る藤城さん。ロープを用いたカゴの作品を発表してきた藤城さんですが、「これまでになく長い時間がかかり、筋肉痛にもなってしまいました」とも。自身の手を動かしたその制作プロセスはデジタルエキシビションでも紹介されます。

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藤城成貴「バンピー・バスケット」。photo : Luke Evans

最近誕生したスキン&マインドケアブランド「BAUM(バウム)」のパッケージデザインも話題となっているプロダクトデザイナー、熊野 亘さんの今回の作品は、2種類のテキスタイルを使った「Hammock Chair(ハンモック・チェア)」。熊野さんのことばもお伝えします。

「以前、BYBORRE(バイボーレ)の展示会で、クヴァドラ・フェブリックのニットテキスタイルを目にしたことがあって、おもしろい生地だなあと思っていたんです。また、一般的な家具ではクッションとそれをカバーする張り地が使われるのですが、この生地は単体でも成立するという特性があり、それも興味深い点ですよね」

「考えたのは、身体の形に沿う生地の伸縮性を表現すること。また僕は木を用いたデザインが多いので、木の構造を用いながらテキスタイルの可能性を最大限表わしたかった。この生地のやさしさ、強さ、しなやかさを体験できるタイポロジーとは何だろう?と考えたとき、すぐに思いついたのがハンモックでした」

作品はハンモックのチェア。ホワイトアッシュの脚からニットテキスタイルが吊られています。これは座ってみたい!

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熊野 亘「ハンモック・チェア」。シート裏側も楽しめるように2枚の生地を重ねて使用。表はタテに、裏は横に縫い合わされることでシートの強度が高められている。photo : Luke Evans

空間を仕切り、光や風の新たな状況をもたらしてくれるのもテキスタイルの特色です。スウェーデンを拠点として、空間におけるテキスタイルの可能性を追求している注目のデザイナー / アーティストの森山 茜さんの作品「Internal Windows(インターナル・ウィンドウズ)」は、「窓」に対する関心から始まっていました。

彼女が選んだのは透明感のあるテキスタイル。作品の色やテクスチャーを通して目にできる「向こう側」とはどのような世界でしょう。こちらも体感してみたい作品です。

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森山 茜「インターナル・ウィンドウズ」photo : Luke Evans

コペンハーゲンを拠点として活動し、2018年のコペンハーゲン・ファッションウイークではアワードを受賞しているファッションデザイナー、Marie Sloth Rousing(マリエ・スロス・ルーシング)の作品は、シャツとチェアカバーが融合する、という発想です。ニットの伸縮性を活かし、椅子やオブジェも着ることができる一着。

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マリエ・スロス・ルーシング「Dressed Up(ドレスド・アップ)」。photo : Luke Evans

衣服の作品ではほかに、ミュンヘンを拠点とするデザイナー / アーティストのAyzit Bostan(アイジット・ボスタン)による「Garment(ガーメント)」もあります。ニットテキスタイルの柔らかさやなめらかさがもたらすドレープが実に美しい。

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アイジット・ボスタン「ガーメント」。日本でもセレクトショップでバッグやファッションが紹介されているデザイナー。photo : Luke Evans

それにしてもデザイナーの発想って実に豊か。イタリアのデザインスタジオZaven(ゼイヴェン)は、7種類のニットテキスタイルを活かして、さまざまなフライトスーツを提案。軽やかな飛行の魅力を表す作品です。

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ゼイヴェン「If I had Wings(イフ・アイ・ハド・ウイングス)」。テキスタイルの表情もあわせてご紹介。photo : Luke Evans

ニットの編み方そのものに着目し、陶器の「型」としてしまったのは、レバノン、ベイルートを拠点とするPaola Sakr(パオラ・サカー)。クヴァドラ・フェブリック8種類を型としてつくった陶器が展示されます。

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パオラ・サカーの「Sundays(サンデイズ)」。2018年のパリ、メゾン・エ・オブジェでRising Talents Awardを受賞するなど期待されるデザイナー。人々が集うレバノンの食の時間の温かさが込められた作品。photo : Luke Evans

オランダのデザインスタジオ、Raw Color(ロウ・カラー)の作品は鮮やかなニットテキスタイルで覆った三角柱が回転するオブジェ。デジタルエキシビションでは動いている状況を目にできることでしょう。とても楽しみです。

テキスタイルと最小限のパーツでつくられる空間の提案は、パリを拠点に活躍しているJurie Richoz(ジュリ・リショズ)。テキスタイルの両面の表情のコントラストも特色で、何よりとてもエレガント! 

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ロウ・カラー「Chroma Colums(クロマ・コラムズ)」photo : Luke Evans

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ジュリ・リショズ「Shed(シェード)」。photo : Luke Evans

こうして挙げていくと、手元に届いた作品写真と各作品に用いられているニットテキスタイルのディテールをすべて紹介したくなってきてしまうのですが、展示前のいまは、このあたりで止めておきましょう……。

作品に用いられているニットテキスタイルは、すべて日本のショールームで目にできます。テキスタイルを用いた作品も同様に、触れつつ鑑賞できるのが一番で、手ざわり、肌ざわり、織りがもたらす表情や伸縮性といった特色などをじっくり鑑賞したいところですが、私もまずはデジタルエキシビション(アクセス方法は以下)で28組の提案を楽しんでみたいと思います。皆さんもぜひ!

「3 Days of Design – Knit by Kvadrat」

デジタルエキシビジョン(9月3日より公開)
www.kvadrat.dk/knit-by-kvadrat (英語)

Kvadratコペンハーゲン・ショールームでの展示
9月3日 9:00-18:00
9月4日 9:00-17:00
9月5日 9:00-15:00
Pakhus 48 Klubiensvej 22 2150 Nordhavn
kvadrat.dk/3daysofdesign

●日本での問い合わせ先:Kvadrat Japan
https://kvadrat.jp

 

Noriko Kawakami
ジャーナリスト

デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。

http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami

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